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『夕焼けパラレル団地城』第一章試し読み


こんにちは。両目洞窟人間です。
文学フリマ大阪12で発表し、現在boothの両目洞窟人間ページにて販売中の中編小説『夕焼けパラレル団地城』ってのがあるんですけど「買ってくれ買ってくれ読んでくれ読んでくれ」って言う割には、試し読みのページを作ってなかったことに気が付きまして、この度、小説の序盤「第一章 たまたまニュータウン」を丸々公開することにしました。
起承転結で言うところの本当に「起」ではありますが、どんな「起」なのか、こんな「起」ですってことで、よろしくお願いします。


夕焼けパラレル団地城




 
 

第一章 たまたまニュータウン


 世界が壊れそうな夕焼けだった。壊れてしまえばいいと思った。
 私は長い長い長い坂を登っていた。比喩とかじゃなくて本当に長い坂。私はとぼとぼ歩きながら「わたしもうやめたー世界征服やめたー」って相対性理論の『バーモント・キス』を歌う。私が9歳の時に発売された曲。2000年生まれは、計算がめっちゃ楽。相対性理論は新しいアルバムを2016年から出していない。ボーカルのやくしまるえつこは今、何をしてるんだろう。
 相対性理論の現状最後のアルバムが出た頃は、私も希望に満ちていたけども、今じゃぐずぐずだなー。
 私は今年24歳になるのに、仕事もしてないし、躁鬱だし、顔も個性的だと言われてめっちゃ辛くて、ううう…と頭の中で唸る。
 長い坂の真ん中には、公園と潰れた診療所がある。診療所は影がかかり、どんよりとした雰囲気を漂わせてる。
 診療所の前を横切っている時にふと見ると、いつも閉まっているはずの扉が開いている。扉の向こうは夕方なのに光が届いていない濃い暗闇がそこにあって、見ているとなんか飲み込まれそうで嫌だなと思う。
 その暗闇にボールが飛んでいく。
「お姉さん!ボール取って!」
 甲高い子供の声が耳に刺さった。
 
*****
 
「コンカフェ?それなんなの、アヤメちゃん」お母さんはそう言いながら、よく焼いた食パンにいちごジャムを塗っている。
 リビングのデジタル時計は2024年4月24日(水)10時23分と表示中。私たちは遅い朝食を取っている。
「コンセプトカフェのこと」私も食パンにいちごジャムを塗りながら答える。
「スタバみたいなの?」
「そういうのじゃなくて、メイド喫茶みたいなやつ」
「アヤメちゃん、メイド喫茶に応募したの?」
「メイド喫茶じゃないけども、近いものには・・・」
「そうなんだ。アヤメちゃん、大丈夫?ちゃんとお薬は飲んでる?躁、出てない?」
「飲んでるし、躁出てないよ。薬は飲まないとしんどくなるし」
「それならいいけども……。にしても、なかなか治らないわね、躁鬱」お母さんは食パンをかじりながら言う。
「まあ、躁鬱というか双極は一生もんだから……」私は食パンをかじり、しばらくもぐもぐして黙っている。
「そのコンカフェ?ってどこにあるの?」
「電気街」
「あ、じゃあ電気街に行くんだったら、カセットテープ買ってきてくれない?」
「カセットテープ?今どき売ってるの?」
「売ってるのよ。ほら」とお母さんはスマホを見せてくる。カセットテープ専門店のSNSのアカウントだった。
「マイ・ブラッディ・バレンタインってバンドの『loveless』ってアルバムのカセットを買ってきてくれない?」
「いいけど、サブスクで聞けるのに、なんで買うの」
「『loveless』って名盤なのよ~。カセットのもこもこした音であのサウンドが聞きたいのよね~。それに本当に大好きなのよ。大好きなものがそばにあったら幸せじゃない?」とお母さんが言って、私は「まあ、そうかも」と返す。
 お母さんはコーンスープをスプーンでかき混ぜながら「そういえば、バイトの面接は何時からなの?」と聞く。
 
 
「篠宮アヤメさん、23歳。……童顔だし、20歳でいけるか。髪は黒髪ロングで、その眼鏡は伊達?」コンカフェの店長はそう言った。
「あ、ちゃんと近視です」
「じゃあ、眼鏡キャラと……普段からそういう服装とメイク?」店長は書類に書き込んでいく。
 自分の服を見る。Tシャツとパーカーとジーパン。
「あ、はい」
「全体的に垢抜けてない、と……」店長は書類に書き込みを続ける。失礼なことを言われている気がするけども「へへへ」とへらへらして、相手の態度も自分の気持ちもごまかしてる。
 緊張してるから視線が定まらなくて、ついあちこち見てしまう。店内は全てがピンクで、スピーカーからアニソンが流れていて、猫耳をつけた可愛い女の子たちが開店の準備をしている。
 めっちゃかわいいなー。あんな風に凄く可愛かったら、私の人生は違ってたのかな。絶対違ってた気がするな。
 店長をちらっと見る。アロハシャツでぽっちゃりした男性。けども目が鋭くて怖い。目が合うと怒られている気がして、つい視線を下ろしてテーブルを見てしまう。
「アヤメさん。わかってると思いますが、うちのコンセプトは〝喋る猫〟です。キャストになったら、語尾は全部〝にゃ〟。これは絶対。で、キャストには猫耳をつけて貰います。はいこれ」店長は私に猫耳のカチューシャを渡す。
 私はそれを鑑定するかのように触り見る。外側が黒で内側が灰色のもふもふの耳。そのもふもふをつい触ってしまう。
「とりあえずつけてみよっか。一回見てみたいし」
 めっちゃ恥ずかしいやんか。
 でも店長の鋭い目を見る限り、断れる雰囲気じゃないので、私はおずおずと猫耳をつける。
 店長は腕を組んで、うんうん、なるほどねーみたいな雰囲気で頷く。
 あー。くそみたいに駄目なんじゃないだろうか。
「いいね」
 店長にそう言われて、私はえ、いいの?と嬉しくなる。
「ほら、自分で見てごらん」店長はそう言って、私に小さな鏡を渡す。
 鏡で自分の姿を見た瞬間に、一気に気分が落ちる。猫耳をつけた私は全然良くないなと思う。
 全然可愛くない。あそこで動き回ってる猫耳をつけた女の子たちと比べて私は全然可愛くない。
「個性的な顔によく似合ってるよ。君みたいな子を好きな人もいるし、店には色んな子を揃えておくのが大事だからね」
 個性的な顔。
 私はさらっと酷いことを言われた気がするけども「へへへ……」とまたへらへらして自己嫌悪が強まっていく。
「じゃあね。にゃーんにゃんって言ってみようか」
「え。にゃーんにゃんですか」
「ご主人様、にゃーんにゃんって挨拶するのが基本だから。ほら」
「……ご主人様、にゃーんにゃん」
「違う。声が小さい。ご主人様、にゃーんにゃんって」
「ご主人様、にゃーんにゃん」
「違う。もっと、心の底から甘える感じで。ご主人様、にゃーんにゃん。はい」
「ご主人様、にゃーんにゃん」
「違う」
 
 
 コンカフェのバイトは辞退した。
 私は猫耳をつけながら「やっぱ無理です……」と泣いて言った。そんなやつは初めてだったかもしれない。
 私は私を試してみたかったのだ。どこまでいけるのかと。けども、どこにも行けず、それどころか試運転で事故ってしまった。
 また駄目だった、ううう…と唸りながら、街をふらふらと歩く。
 面接の後、電気街を横断して、路地裏にある雑居ビルに入る。
 エレベーターはなく、薄い灰色の階段を3階上ればそのカセットテープ屋はあった。
 あまり広くなくて薄暗いその店には、カセットがずらずらずら~と並んでいた。
 そして店内には「音楽好きでっせ、なんならカセットテープで聞くくらい好きでっせ」って感じの若者と中年がちらほらいる。
 その中をかき分けて、戸惑いながら探し続けて、やっとマイ・ブラッティ・バレンタインの『loveless』を見つける。赤くてギターがぼんやり見えているジャケット。
 カセットなのに3500円くらいした。高いっ。
 どんなアルバムなんだろう。今度、聞いてみようかなと思うけども、この気持ちは忘れちゃう気がする。
 私はショルダーバッグにカセットテープを入れた。
 
 
 地元の駅に降りて、駅前のコンビニに入る。
 お金無いけども、今日は頑張ったし、午後の紅茶を飲むぞ。自分へのご褒美だ!
 冷たいドリンク棚から、午後の紅茶のミルクティーを取って、レジに向かうと留学生とおぼしき店員さんが働いている。
「ドウゾ~」
 名札を見るとファンと書いてある。
「アリガトウゴザイマシタ~」ファンさんは笑顔を私に向ける。嘘がないような眩しい笑顔でなんか申し訳ない気持ちになる。
 ドアに向かっていると、他の店員が「ファンさん、こういう宅急便ってどうするの?」って言ってるのが聞こえる。ファンさんは駆け寄って「アア、コレネ、ヤットクカラ、レジ、オネガイ」と言った。
 ファンさん、めっちゃ有能なんだ。
 私もコンビニでバイトしたことあるけども、全然だめだったことを途端に思い出して「うわあああ!!」と脳内で叫ぶ。
 笑顔をつくれない、声も小さい、宅急便の業務とかミスりまくり。
 店長が私を叱る声が頭に響き渡って最悪。
 私はどのバイトも駄目だったな。コンビニ、単発、派遣、タイミー。どれも全然駄目だった。私は要領悪くてミスばかりする。その上、躁鬱で体力がなくてすぐにダウン。
 そして働いていると「自分」がすーっと消えていく感覚があって、それに耐えられなくなる。自分殺すのが仕事だとはわかってるんだけども……。
 コンカフェに応募したのは、そんな自分でも何かできるものがあるんじゃないかって思ったのだ。今年24歳になる私がどこまでいけるか試してみたかった。
 何にも上手くいかない。どうせ状況がどん詰まりなら、極端なことをしたかったのだ。
 0から100を作りたかったのだ。
 でも駄目だった。始まる前につまずいた。
 本当はちゃんとした仕事にもつきたい。でも躁鬱を持ってて、留年してて、謎の空白期間がある私を受け入れてくれる会社なんてあるんだろうか。
 もしかしたらあるんだろうけども、見つけ方がわからない。
 なんか自分だけ同じ所をぐるぐる回ってる気分だ!
 私はため息をつきながら、坂を見上げる。
 長い長い坂の先に私の住んでる団地「坂の上ニュータウン」がある。
 そこの7棟の501が私の家。
 駅前のロータリーには長い坂を上がるバスを待ってる人の行列。私はバスに乗らず、坂を上り始める。とぼとぼと歩きたい気分だった。
 私は歌い始める。
「わたしもうやめたー世界征服やめたー今日のごはん考えるのでせいいっぱい」
 
*****
 
「お姉さん!ボール取って!」
 甲高い子供の声が耳に響いて痛い。
 声がする方を見ると、公園に小学生くらいの3人の子供がいる。子供達は診療所を指さして「ボール!」「ボール!」「ボール!」と叫ぶ。私は「自分で取りに行ったらええやん」と思うけども、それは言い出せず、子供に向かって「あ、はい」と言う。
 子供相手にも強く出ることができない。
 診療所を見ると重たい雰囲気が漂っていて、入るの本当に嫌だなと思う。
「ボール!」「ボール!」「ボール!」子供達が甲高く叫ぶのが耳に響く。
 ううう…取りに行くから叫ばないで……。
 扉の向こうは夕方なのに真っ暗なので、私はiPhoneのライトをつけて入っていく。割れたガラスが床に散乱していて踏む度にじゃりじゃりと音がする。壁には「定期的な健康診断をうけよう!」と書かれたポスター。もう潰れて結構時間が経っているはずなのに、消毒液の匂いがする。あちこちにライトを向けて、ボールを探す。
 白い球体が見える。ボールは診察室の方に転がっている。診察室には高そうな機械がそのまま残っている。ここはより一層消毒液の匂いが強くて、おえってなる。
 かがんでボールを拾おうとすると、突然iPhoneのライトが点滅し始める。
 わっ、なになになに、やだ、こんなところでバグんな!
 叩いても仕方ないとは思いつつ、iPhoneを何度か叩く。
 そしたらライトが完全に消える。それどころかiPhone自体がつかない。
 え!わ!うそ!やだやだやだ!!
 完璧な暗闇が私の周りにあって、何にも見えない。目を閉じても、目を開けても同じ暗闇。自分の息づかいだけが聞こえる。早くここから逃げたい。
 すると、どこからか、ごおおおおおおおおお!!と低い音が響き渡る。その音はどんどん大きくなり、私は耳をふさぐ。
 地面も揺れ始める。
 地震!?でも地震ってこんな音鳴り響くっけ?
 その揺れはどんどん大きくなって、周りの物ががしゃがしゃがしゃと揺れ鳴り始める。
 私は怖くて、ううう!と唸りながらしゃがみ込む。
 怖い。嫌だ。助けて。 
 突然、揺れが止まり、音が消える。
 自分の息が大きく聞こえるほど、静まりかえっている。
 iPhoneのライトがじんわりと再び点灯した。
 あ、よかった。助かった。早くここから逃げなきゃ。
 私は床に転がっているボールを手にとって、診療所の外に慌てて出る。
 夕陽が眩しくて、視界が一瞬潰れて、段々と目が慣れてくると、公園に子供達は一人もいない。
 さっきまであんなに「ボール!ボール!ボール!」とうるさかったのに。
 私は公園までとぼとぼと歩き「やられてるじゃん……」と呟く。
 なんだよ!まじで!!とキレそうになって、ボールを投げそうになる、けども、私は投げきる勇気すらなくて、結局、砂場にボールをそっと置く。
 夕闇が広がっている。どす赤くてどこか不穏だ。iPhoneの時計を見るともう18時。今日は何にもいいことがなかったな。
 坂をまた上り始める。
 坂を上るのはしんどくて、やっぱバスに乗っておけばよかった。
 
 
 坂を上り切ると、団地が一切ない。坂の上ニュータウンが一切ない。
 ただっぴろい、何もない場所が広がっている!
 私は呆然としてしまって、ちょっとどうしたらいいかわからないから、午後の紅茶を飲む。糖分を摂取すると頭がちょっと冴えて、改めて状況が認識出来た。
 やっぱり団地が消えている。
 わけがわかんなくて「えええ……」と頭を抱えて、一旦お母さんに電話をかけようと思う。
 すると電話ができない。圏外になってる。なんで。もしかして、格安simだから?
 遠くの方で光が見える。
 そちらに近づいていくと、坂の上ニュータウンの公園だったところに、コンビニがある。コンビニは煌々と白く光っている。店の上には緑と青の線が印象的な看板。でもよく見ると店名が違う。
『ファンズマート』と書かれている。
 私はおそるおそる、そのコンビニに近づく。自動ドアが開き、聞き覚えのある入店音が鳴る。
「イラッシャイマセ~」レジにいる店員の顔を見ると、さっき坂の下の駅前コンビニにいたはずのファンさんだった。
「え?ファンさん?」思わずファンさんと名前呼びしてしまう。
「ソウデス。店長ノ、ファンデス。何カ御用デスカ?」ファンさんが店長?留学生のアルバイトじゃなくて?ううん?
「あの、ここに団地ってなかったですか?」私はそう聞きながら変な質問をしていると思う。
「団地……団地ハ、ココニハ、アリマセンヨ」
「え?」団地が無い。どういうこと?
「団地ナラ、坂ノ下ニ、デッカイノ、アリマスヨ」
 
 
 坂の下に行くと、確かにでっかい団地があった。
 いや、めちゃくちゃ大きすぎた。
 坂の真ん中くらいからでもそれは見えて、そこからでも十分すぎるほど大きかった。
 それは巨大で複雑な構造だった。多くの団地が連結していて、まるで団地から団地が生えているみたいだった。
 数え切れないほどのベランダと数え切れないほどのエアコンの室外機。
 夜の中で、無数の部屋が光っていた。
 どこかからカレーの匂いがした。
 近づくと、大量すぎる自転車とバイクが停められている駐輪場。
 そのそばには、大量の蛍光灯で白く照らされた巨大な入り口。入ると、これまた巨大で、それ自体が迷路のような郵便ポストの群れがあった。
 天井には「第1街区 南エリア 1棟~10棟」と大きく書かれている。
 私は物量に圧倒されている。こんなの見たことない。
 郵便ポストを見ると「01101 岡部トオル」「01102 宮本カオル」「01103 長谷川タカシ」と書かれている。
 ここはやっぱり団地で、ちゃんと人が住んでいるってこと?その郵便ポストを眺めていく。この頭二つの01ってのは1棟ってことなんだろうか?
 私はふと7棟501は誰が住んでいるんだろうと思う。長く複雑な郵便ポストを辿っていき、そして見つける。
「07501」の郵便ポスト。
 そこには「篠宮アヤメ」と私の名前が書いてある。
 
 
 巨大な団地の中も案の定、迷路のようだった。
 廊下は長く複雑。あちらこちらに通路が生えていて、どこに向かえばいいかわからない。壁にはペンキで案内が書かれている。
「5~10棟はこちら→」
 それを見ながら恐る恐る歩いて行く。白い床、白い壁、蛍光灯の白い光。時折、切れかかっている蛍光灯はびかびかびかと点滅していて不穏。
 等間隔で水色の扉がある。いかにも団地の扉。その向こうは住居のはずなんだけども、時折、どうやらそうじゃないのもある。
 店や会社、飲食店や工場が何故かそこに入っている。
 家を居酒屋に改造したのが沢山集まっている廊下に出た。人が集まってがやがやしている。そこの通り抜けて「←6~8棟はこちら 9~10はこちら→」のペンキを見かけて、左折すると、そこは工場が集まっている。何かを作る音、何かを削る音、何かがプレスされる音が響いている。まっすぐ歩いていると、どこからかニンニクと油の匂いがした。開けっ放しのドアの向こうに上半身裸にエプロンをつけた細いおじさんが、包丁を持って立っていて私を睨んだ。慌てて逃げると、紫の照明の廊下に出てしまう。いくつかのまぶしいネオン看板があって、その前には身体のラインが出るような服を着た女性たちが立っている。ココナッツの甘い匂いがする。どうやらいかがわしい店のようだった。手前にいた女性が私にウインクをして手を振る。私は怖くなって慌てて逃げた。
 どこからか、銃声のようなものも聞こえた気がする。けれども誰も外に出てこなかった。
 
 
 何十分歩いただろう。既にめちゃくちゃ疲れていた。持っていた午後の紅茶を飲み干した。
 ようやく「7棟501」にたどり着いた。水色の錆びた扉。表札には「07501 篠宮アヤメ」と書かれていた。私と同じ名前の人。でも全然関係ないかもしれない。というかその可能性しかない。
 けども、こんなわけのわからない場所で、誰に頼ればいいかわからないし、一旦誰でもいいから話を聞きたい。
 私は深呼吸をして、カメラの無い黒い箱形のインターフォンのボタンを押す。ぴんぽーんと気の抜けた音が鳴って、しばらくして「はい?」とノイズ混じりの声が聞こえる。女性の声。
「……篠宮アヤメさんですか」
「……そうだけども」
「あの、助けてくれませんか」
「え、なんで?ってか誰?」
「あの、私も篠宮アヤメと言います」
 しばらく何の返答もない。そりゃ、怪しみますよね。普通は出てこないですよね。
 これからどうしたらいいんだろうと不安になっていると、がちゃ、と音がしてドアが少し開く。
 その隙間からピンク色の派手な髪をした女性が顔を出している。派手な髪をしていて、メイクの雰囲気は違うし、眼鏡はかけてないけども、その顔は私にそっくり。というか、遺伝子レベルで同じで、私は口を開けて呆然としている。
 派手な髪をした女性も驚いた表情で私の顔を見る。
「篠宮アヤメ?」派手髪の女性が言う。
 私は頷く。
 派手髪の女はしばらく黙って、それから口を開く。
「私ら、そっくりすぎない?」
 


 
 (第二章へ続く)

******

試し読みは以上になります。
全部で五章あり、第一章は全56ページのうちの11ページ目までで、文字数も46000字中の8000字目くらいです。
このあといろんなことがあったりします。
とりあえずこの奇妙な団地城で生きていくことになります。
そんで物語的に重要なキーワードでいえばゴスロリが出てきます。
団地とゴスロリとパラレルと音楽と生活を詰め込んだ中編小説です。
そんな感じで伝わったか、伝わってないかで言えば、伝ってない側の説明だと思いますが、以下に販売ページのリンクを掲載させていただきます。
よろしくお願いします。



あとありがたいことに感想を頂いているので、そちらのリンクも…


ぴのこ堂さんの感想。


マツさんの感想。


ふたさんの感想。


目黒乱さんの感想



BFC6ジャッジにして子鹿白介さんによる批評。



有料なので財布と心に余裕があって気が向けばよろしくお願いします!!!


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