山川セレクション初体験
歴史出版の雄山川出版社の水色の各国史があるのをご存知だろうか。
こんなやつである。
イギリス史は川北稔氏は編著ということで購入したのだが一瞬で挫折した。字が多すぎるのである。一国の歴史を語ろうとすると字が多くなるのはやむをえないけどね。詳説世界史研究が薄すぎるだけなのだ。
アフリカ史は図書館で借りたが、同じく瞬殺であった。
最近になり、この水色の奴が加筆訂正され、サイズも小さくなったものが発売された。それが山川セレクションである。
そんなわけでアメリカ史を購入した。ずいぶんコンパクトになったなあと思ったが、それはたんに上下巻に分かれているからだった。
意外なことにすいすい読めて拍子抜けした。
その要因はアメリカの歴史はわりと最近から始まるからである。せいぜい16世紀末からであり、イギリス植民地の形成期となると17世紀中盤からである。比較的歴史の浅い英国ですらローマ帝国時代から始まるもんな。
またアメリカが本邦と関わりの深い国ということもあって読みやすいのだろう。
序文でいきなりトランプは分断を煽っているーという紋切り型から始まるのでややげんなりする。トランプは分断を可視化したのすぎないのに。
ただ本文はアメリカにおける分断についての記述が多く、やはりトランプは分断を可視化したのだということを確認させてくれる内容になっている。
上巻のハイライトは南北戦争に至る国内の緊張、南北戦争後のレコンストラクションとその挫折、金ピカ時代である。
有名なストウ夫人の『アンクル・トムの小屋』はもちろん黒人奴隷の不遇を描いたものであるが、同時に黒人はアメリカではないどこかで暮らすべきという思想も内包していたらしい。いやはや歴史的意義のある作品はちゃんt読まないといけないな。こうした思想はリベリア建国につながるのだが、それについては詳述されていない。
南北戦争の前は、リンカーンもそのようなスタンスであった。また南部連合に加わらなかった南部諸州(奴隷州)を刺激しないように積極的に奴隷解放を唱えてはいなかった。南北戦争の進展とともに踏み込んだ発言をするようになっていったのである。
南北戦争後のレコンストラクションは合衆国憲法修正第14条など画期的な成果を残したが、諸事情で北部の軍隊が南部から撤収するとなし崩し的に黒人参政権などは再び失われていった。公民権運動の時代まで続くことになる分離政策はこの時期に始まっている。
19世紀末の金ぴか時代は資本家と労働者の分断が深まった時代である。よく知られているように労働者やマイノリティの側に立っていたのは共和党で、資本家よりだったのが民主党という時代である。それがいつの間にか逆転して、そしてまた現代は民主党がエスタブリッシュメントに近くなっているって感じだろうか。
全体として近年ますます深まる米国の分断の起源、成り立ちを解説するという主旨になっておりスイスイ読めたのである。時間をみつけて下巻も読もう。