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『アーミッシュの老いと終焉』読了

幸せに老いることとか、死生観を問われる世の中であることだなあと思っているときに、ちょうどよい本があったので購入したのである。

著者の堤純子氏は、英語講師、通訳翻訳者であり、アーミッシュに深い関心を持ちいくつかの著書を出しておられる。本書はアーミッシュの生活全般の紹介および高齢者の共同体におけるあり方を著したものである。

まずアーミッシュの歴史について。
ルターやツヴィングリに端を発するプロテスタントのうち再洗礼派(Anabaptist)と呼ばれる一派がいた。大人になってから自分の意志で再度洗礼を受けることを重視した人々である。そのうちメノーに率いられたメノナイト、そこから派生したより規律を重んじるアーミッシュが主要な宗派である。
彼らは欧州での迫害から新大陸に逃れ、主にペンシルベニア州に定住するようになった。

アーミッシュは11の宗派に分類され、文明生活を一切拒絶する極端な保守派はシュワルツェントゥルーバーのみである。他の10の宗派は、コミュニティで協議した上で文明の利器も受け入れている。

アーミッシュの子供たちは8年間のアーミッシュスクールでの教育を受けたのち、Rumspringaというモラトリアムに入る。その間はおおいに文明生活を楽しむことを許される。この期間はアーミッシュとして洗礼を受けるか、アーミッシュを離れるまで続く。再洗礼派の名残だろうが、これは知らなかった。ほとんどの若者はアーミッシュとなることを選ぶという。

アーミッシュといえば農業以外しないというイメージがあるが、最近はそうでもないようだ。地価や税金の上昇でサイドビジネスをする人も多いという。といってもキルトや家具の製作販売、旅行業などのスモールビジネスである。彼らの工芸品は仕事が丁寧かつ安価のため人気があるらしい。また古き良きアメリカが保たれている彼らの生活は格好のツーリズムの対象である。
世界一の経済大国にあって、20年で人口が倍になるアーミッシュにとって農業のための土地を確保し続けるのは容易ではないと推測される。

政治色の薄いコミュニティであることも観光地として人気の要因だが、けっして政治に無関心というわけではない。新聞はよく読んで世界の出来事にちゃんとアンテナをはっている。またアメリカだからこそ自分たちの生活が守られていることをよく自覚しており、選挙にはいかないが税金はちゃんと払っている。

公的な医療制度がほとんど機能していないアメリカで、豊かではない彼らにとって医療費は深刻な問題である。独自の保険制度をもっているが、それでも足りないときは教会を中心とした寄付でなんとかするということのようだ。富の再分配はうまくいっているらしい。
またそれ以前の問題として、彼らは身体をよく動かすので、アメリカ人としては非常に肥満が少なく、健康寿命も長いのだ。

高齢者は前の世代の伝統を知る者として非常に尊敬される。そして要介護状態になっても地域でちゃんと面倒を見てもらえる。そして住み慣れた自宅で亡くなる人がほとんどである。これは出生率が非常に高いこと、地域の絆が強固であることが大きい。みんなで交代で様子を見るということが可能なのである。

敬虔な宗教者に共通することであるが、死を必要以上に恐れることはない。生命は神からの贈り物であり、それを奪うのもまた神の思し召しである。また幼いことから家畜が屠殺されるのを見ていることも死生観に影響を与えていると著者は述べる。

老人の介護がわりとうまくいっているのはコミュニティの人間関係の濃さによるものであることは本書で何度も強調される。中国の桂林市や日本の白川郷で似たような情況があることが本書の最後で紹介されるが、そのような局地的な形でしか実現できない性質のものだろう。

宗教的規範は死生観だけでなく、その驚異的な出生率にも影響を与えているのだろう。それについて以前にも書いたのでぜひ読んでほしい。


目に見える形で生産しない人々が心地よく生きられるのは、生産年齢人口の割合が高くて一人一人の負担が小さいからという身も蓋もない現実を突きつけられ、全く本邦の参考にはならないなあと思ったのであった。

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