井上智洋『MMT 現代貨幣理論とはなにか』読書メモ
主流派経済学よりの立場からMMTを解説した本。薄くて読みやすいです。
須藤さんのおっしゃるとおり簡潔なのもいい。
1から4章はMMTの事実説明的な部分の解説。ひっかかるのは1章でデフレ脱却を強調していること。MMTにおいてはデフレ脱却は直接的な目標ではない。目標は完全雇用である。完全雇用が実現すれば結果的にインフレにはなるだろうけど。この点以外はおおむね納得できる内容である。
2章の租税貨幣論の解説で、世界的にはMMT支持者は政治左派が多いが、日本では政治右派のほうが多いかもしれないと指摘しているがこれは重要である。再分配を実行しようとすれば強くて大きな政府が必要なのは私からすれば当たり前のことなのだが、政府も国民も互いに債務を負うというのは受け入れがたいという松尾匡氏の発言が引用されている。これだから日本の政治左派はだめなんだと言わざるをえない。
第4章ではホリゾンタリズムやストラクチャリズムの解説であるが、この辺の話題についてこれほどわかりやすく説明されているものはなかなかないのではないか。
第5章は雇用保障プログラム(JGP)の解説である。景気が良くなったらなくなっても良い仕事で誰でもできることってなんなの?という当然すぎる疑問に始まり、それならBIでよくないかという話の流れである。個人的にはたいへん納得できる。ほどほどの労働とBIで幸せに暮らせるならそれでいいのではないかと思う。あと本章でステファニー・ケルトン氏が来日したさい日本の政治右派と会っていたことについてSLCという政治団体に怒られたことについても触れられている。
第6章は岩井克人氏が論じたことで有名な貨幣の自己循環論法と租税貨幣論を接続する試み。そこから永久債の例を用いて政府は永遠に借金し続けられることへと発展する。政府なり企業なり永久に存在し続けるとみなされる主体は負債を完済する必要がないというのは当たり前といえば当たり前なのだが。
というわけでさらりと読めるけど随所にはっとさせられる記述があって面白かった。