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ねじの話 ファスナー材料 金属 第五回 ステンレス鋼

私たちの身近で広く使用されているステンレス鋼も「鉄」に炭素や合金元素を添加した「合金鋼」の一種です。

ねじの話 ファスナー材料 金属 
第一回 金属とは
第二回 鉄鋼金属
第三回 炭素鋼
第四回 合金鋼
第五回 ステンレス鋼


ステンレス鋼

ステンレス鋼(Stainless Steel)は、主に鉄(Fe)を基本成分として、クロム(Cr)などの合金元素を添加した合金です。


鋼とステンレス鋼


国際的な定義に基づき、JIS G 0203:2009でステンレス鋼は「クロム含有量を10.5 % 以上、炭素含有量を 1.2 % 以下とした耐食性を向上させた合金鋼」とされています。そして「常温における組織によって、マルテンサイト系、フェライト系、オーステナイト系、オーステナイト・フェライト系及び析出硬化系の5種類に分類される」としています。合金化することでステンレス鋼は一般的な鉄とは異なる特性を持ち、多くの産業や用途で重要な素材として広く利用されています。

ステンレス鋼の主な特徴

耐食性

ステンレス鋼は、添加されたクロムが酸素と結合して鋼の表面に薄く強靭な保護被膜(不働態被膜)を生成するため、酸化や腐食に対して優れた耐性を持ちます。これにより、潮風や湿気の多い環境、化学薬品、食品加工などの用途で広く使用されています。

強度・耐久性

ステンレス鋼は一般的な鉄よりも強度が高く、耐久性に優れています。このため、建築、自動車産業、船舶、橋梁などの構造部材や、機械部品、工具などにも広く採用されています。

美観と清潔性

ステンレス鋼の表面は滑らかで美しい光沢を放ち、清潔で衛生的です。こうした特性から、食品加工や医療機器など、衛生要件が厳しい分野でも使用されます。

耐熱性

ステンレス鋼には、高温用途の装置や炉などにも広く用いられる高温環境に耐える性質があります。

磁性の制御

ステンレス鋼はタイプにより非磁性となります。このため、磁性の制御が必要な用途にも適した素材として使用されます。

こうした特徴に加え、ステンレス鋼は100%リサイクル可能な金属です。このように優れた耐食性、強度、美観、清潔性などを備えたステンレス鋼は、現代の社会において欠かせない素材として重要な役割を果たしています。

ステンレス鋼の種類


代表的なステンレス鋼の特性比較表


ステンレス鋼は、さまざまな合金元素の組み合わせによって異なる特性を持つ複数の主要な種類が存在します。

オーステナイト系 (Austenitic Grades)

オーステナイト系ステンレス鋼は、ステンレス鋼の耐食性を生み出す主元素であるクロムとオーステナイト(面心立方格子 純鉄では約910℃から約1400℃で現れる相)を安定させるニッケルを主成分として含み、「クロム・ニッケル系ステンレス鋼」とも呼ばれます。代表的なオーステナイト系ステンレスSUS304は、クロム18.00–20.00%とニッケル8.00–10.50%を主成分としています。
焼きなまし状態で完全なオーステナイト組織を示し、焼入れによって硬化しません。そして冷間加工によって著しい加工効果を生じます。一般にオーステナイト系ステンレス鋼では熱処理によって硬化しないため、冷間加工によって材料強度を高めることが行われます。
添加する合金元素により、非常に高い耐食性を持ち、低温から高温まで幅広い環境で優れた性能を発揮します。また、溶接が容易で、冷間加工にも適しています。一般的に非磁性ですが、冷間加工で磁性を持つ場合があります。(代表例はSUS304、SUS316)。

オーステナイト(面心立方格子)


フェライト系 (Ferritic Grades)

フェライト系ステンレス鋼は、クロム(18%)を主成分としています。焼きなまし状態でフェライト組織(体心立方格子 純鉄では約910℃以下と約1400℃以上で現れる相)を示します。焼入れによって硬化しません。また冷間加工による加工硬化は多少ありますが、オーステナイト系ステンレスほどではありません。
ニッケル濃度が低いため、オーステナイト系に比べて耐腐食性がやや劣ります。一方で磁性を持ち、高い磁気透磁率を有するため、磁石を引き寄せる性質があります。
過酷な冷間成形に耐えるため、家庭用品や装飾用品に使用されます。(代表例はSUS430)。

フェライト(体心立方格子)


マルテンサイト系 (Martensitic Grades)

マルテンサイト系ステンレス鋼は、クロム13%と炭素を主成分としており、熱処理によって非常に高い硬度と強度を持つ特性を示します。これをマルテンサイト変態と呼びます。
マルテンサイトは体心正方格子の鉄の結晶中に炭素が侵入した固溶体で、鉄鋼材料の組織の中で最も硬く脆い組織です。高度が高くてもろいので調質熱処理を行い、靭性を回復させます。一般的に耐食性はオーステナイト系よりも劣りますが、耐摩耗性に優れています。また、一部のグレードは磁性を持ちます。
ボルト、シャフト、ベアリング、ステンレス刃物など多方面で用いられます。(代表例はSUS410)。

オーステナイト・フェライト系 (Austenitic Ferritic Grades)

二相系ステンレス鋼は、オーステナイト系とフェライト系の両方の特性を持っています。金属組織のオーステナイト相とフェライト相の構成比が大体1:1となります。クロムを約20〜30%、ニッケルを1〜10%程度含有し、鋼種によってはモリブデンや窒素、銅などを含みます。高い耐食性と強度を兼ね備えています。特に塩水やクロライドイオンに対する耐性が優れており、海洋環境などの過酷な条件下で使用されることが多いです。SUS329J1、 SUS329J3L、SUS329J4Lが2相のステンレス鋼です。

析出硬化系(precipitation hardening)

析出効果系ステンレス鋼は、ステンレス鋼の中では、耐食性をそれほど落とさずに高強度・高硬度を実現させたという特徴があります。析出硬化とは、固溶化熱処理(適温に加熱・保持し、材料の合金成分を固体の中に溶かし込み固溶させる、析出物を出さないように急冷する処理)の後、時間とともに硬さなどの機械的性質が変化する時効を、温度を加えて人工的に促進させる処理を言います。
析出硬化系ステンレス鋼は、SUS630とSUS631の2種類がJISで規定されています。両鋼種ともクロムの含有量は17%位ですが、ニッケルの含有量はSUS630が約4%、SUS631が約7%です。ニッケル含有量とクロム含有量を並べて、SUS630は17-4PH(precipitation hardening)、SUS631は17-7PHと呼ばれています。


代表的なステンレス鋼の成分比較表


ステンレス鋼の用途

ステンレス鋼はその優れた特性により、多くの産業や用途で広く使用されています。

建築と建設

建物や橋梁の構造部材や外装材としてステンレス鋼は使用されます。耐食性により、潮風や大気中の汚染物質から建物を保護し、長寿命を実現します。また、美しい光沢やデザイン性も評価され、高級感のある建築物に用いられることもあります。

ドーム球場 ステンレス材を屋根に用いている

自動車産業

自動車部品の排気管、エンジンカバー、バンパー、トリムなど、耐食性と強度が要求される部位にステンレス鋼が採用されます。また、光沢のある輝きゆえにデザインや外観の美しさを向上させます。

ステンレス製マフラー

食品加工業

耐腐食性と清潔性が求められるため、食品加工や調理の設備や器具に広く使用されます。容器、タンク、配管、カッター、包丁などにステンレス鋼は利用され、食品の品質と衛生を保つ役割を果たしています。

 ステンレス製什器

医療機器

ステンレス鋼の耐腐食性と滑らかな表面により、手術用具、インプラント、外科用器具などに広く使用され、高い安全性と耐久性を提供するため、医療機器や医療器具にも欠かせない素材です。

ステンレス製の医療用器具

エネルギー産業

耐食性と耐熱性により、ステンレス鋼は過酷な環境下での安定した性能を提供します。原子力発電所の容器や配管、風力タービン、太陽光発電の支持構造などに使用されます。

化学産業

化学工業では薬品や酸に対する耐性が必要な場面でステンレス鋼が選ばれます。反応器、タンク、パイプライン、ポンプなどの装置がステンレス鋼で作られ、耐久性と化学的安定性を保証します。

船舶産業

ステンレス鋼はその耐食性により、塩水や海洋環境かに耐え、長寿命を確保します。それで船舶の船体やデッキ、海水中での部品にもステンレス鋼が使用されます。


今回の「ステンレス鋼」も楽しんでいただけたでしょうか?そうであれば嬉しいです。


今回の「ねじの話」では、5回シリーズでファスナーによく使われる鉄鋼金属を中心に金属(Metal)を取り上げました。今後もファスナーにかかわる様々なトピックを「ねじの話」としてご提供していく予定です。これからも、ぜひ、お楽しみください。

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