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小説『ライバル』

9
横浜工科大学の教授、茶土愛は、ロボットに感情を持たせる「バイオニック・ニューロン」の開発で注目を集めていた。  ある日、彼女の研究室でロボットのたくやがバラバラにされる事件が発生…
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記事一覧

ライバル(9)

ライバル(9)

第九章

 翌日の夕方、正理は再び町田工業大学を訪れた。正門の向かいに建つコンビニ入口で缶コーヒーを飲んでいると、仕事終わりの木戸が歩いてくるのが見えた。声をかけると、木戸は明らかに不機嫌そうな表情に変わった。
「木戸先生、何度もご足労をおかけしてしまい大変申し訳ありません。今日で決着させますので、もうあと数時間だけお時間をいただけませんか」
「それでわたしを犯人だなんて馬鹿げた推理で終わらせない

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ライバル(8)

ライバル(8)

第八章

 木戸のいる町田工業大学は、茶土が勤務する横浜工科大学に比べてこじんまりしていた。同じ工業系の大学でも規模が異なることが見た目で分かる。
 正理が約束の五分前に正門に着くと、既に茶土と才上、そして木戸が日陰に逃れて待っていた。お互い背を向けあった状態だ。気まずい雰囲気が伝わってくる。
「どうもお待たせしました。本日はよろしくお願いいたします。ところで、昨日はあの後犯人からさらなる連絡はあ

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ライバル(7)

ライバル(7)

第七章

 帰宅後、追加分の監視カメラのデータを読み込んだ。
「暗い部屋にいた人物を特定してください」
 正理が自作した骨格推定技術を使ったアプリを起動した。精度重視のため結果が出るまで少し時間を要する。その間に部屋着に着替えた。
 寛げる格好になり部屋に戻ると、コンピュータは答えを用意して待っていた。
 木戸竜一。確率は九十パーセント近い。
 明るい場面で認識された人物を特定し、その中から誰に最

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ライバル(6)

ライバル(6)

第六章

「木戸竜一と申します。本日はよろしくお願いいたします」
 大学教授にしては少し軽い感じがする。正理の第一印象は『チャラい』だった。
 ジャケットを羽織ってはいるが、シャツを外に出し、着崩している。恋人に会いに来たとはいえ、ここは学校だ。しかも自分の学校ではない。
 茶土はこんな男のどこがいいと思ったのだろうか。第一印象は最悪だった。
 お互いのあいさつを軽く済ませると、茶土の案内で学食に

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ライバル(5)

ライバル(5)

第五章

 午後、正理が大学を訪れると、約束通り茶土が学食を案内してくれた。学生で溢れ返った学食でラーメンを味わう。懐かしさがこみ上げてきた。
「最近の学食はお洒落ですね。それに味も美味しい。私の学生時代とは大違いです」
「喜んでいただけて嬉しいです。案内した甲斐があります」
しばらく雑談を交わした後、ロボットの話に移った。
「たくやさん、でしたっけ? 元には戻られましたか?」
「ええ、すっかり元

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ライバル(4)

ライバル(4)

第四章

 正理が自宅に戻った時、すでに日付が変わっていた。しかし、まだ処理すべき仕事が残っている。
 データをパソコンに転送し、指示を出した。
「データ整理とアポイントすべき人物のピックアップをお願いします」
 パソコンが処理を開始したのを確認し、風呂場へ向かった。
 シャワーを浴びながら翌日のスケジュールを整理する。
 常田にもう一度話を聞く必要がある。なぜ嘘をついたのか。佐々木千佳も要確認だ

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ライバル(3)

ライバル(3)

第三章

「どうもお待たせしました。茶土先生、才上さん、ごぶさたです。本日はどうぞよろしくお願いします」
 夕暮れ時、ボリュームのある白髪を湛えた正理が研究室に到着した。パンパンになった大きなボストンバッグを肩がけしている。手には手術で使うような白い手袋をしている。指紋をつけないための配慮だ。捜査の開始である。
「これは大変なことになっていますね」
 部屋を見回した彼の声には、驚きというよりは探究

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ライバル(2)

ライバル(2)

第二章

 目の前にはロボットの断片が転がっている。右手、左手、両脚、そして胴体。
「たくや、何があったの? 起きてちょうだい。朝よ」
 話しかける言葉は我が子を起こす時のようだが、冷静さを失っていた。怯えて震えている。
 腕、脚、首、あらゆる部分がバラバラだ。回路を収める箇所をカバーする蓋もほとんどが開けられている。脳回路やメモリを盗んでいったのだろうか。
 ロボットの服が乱雑に脱ぎ捨てられてい

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ライバル(1)

ライバル(1)

あらすじ

 横浜工科大学の教授、茶土愛は、ロボットに感情を持たせる「バイオニック・ニューロン」の開発で注目を集めていた。
 ある日、彼女の研究室でロボットのたくやがバラバラにされる事件が発生。混乱する茶土のもとに探偵の正理適己が招聘され、事件の真相を追求することに。
 茶土の学生・才上、ライバルの常田教授、他大学の教授・木戸らを容疑者として尋問し、証拠を集める中で、感情を持つロボットと人間の思惑

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