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『危機とサバイバル』金融危機を超えて - 新時代を生き抜くための『7つの原則』


ジャック・アタリ氏の新著『危機とサバイバル』は、現代社会が直面する数々の危機を鋭く分析し、生き残るための戦略を提示した意欲作です。世界的な金融危機や気候変動、テクノロジーの進化など、激動の時代を乗り越えるヒントが凝縮されています。

ミッテラン元仏大統領の側近として活躍し、「21世紀の歴史」など数多くのベストセラーを著してきたアタリ氏。本書でも培ってきた洞察力と思想が余すところなく発揮されています。「日本は"21世紀の危機"をサバイバルできるか?」と題した序章から、著者の日本への期待と危機感が伝わってきます。

個人・企業・国家をサバイバルに導く『7つの原則』

本書の核となるのは、人類史から学んだ「危機脱出の7原則」です。自己の尊重、緊張感、共感力、レジリエンス、独創性、ユビキタスな能力、革命的な思考力。これらは個人だけでなく、企業や国家、ひいては人類全体のサバイバル戦略としても有効だと著者は説きます。

例えば企業に必要なのは、自社の存在意義を再定義し、長期的ビジョンを掲げ、ステークホルダーとの共感力を磨くこと。国家は自国民の尊厳を守りながら、他国と建設的な関係を築く『共感力』が問われます。革新的な発想で危機をチャンスに変える『独創性』も欠かせません。

一方、個人に求められるのは、自己を見つめ、人生の意義を探求する姿勢。困難な状況でも希望を失わない『レジリエンス』を身につける。常に学び、新たな自分に生まれ変わる勇気も大切だと、アタリ氏は説きます。

7つのサバイバル原則をより深く理解する

アタリ氏が提唱する『7つの原則』は、危機の時代を乗り越えるための羅針盤とも言えます。ここではその内容を、もう少し掘り下げて見ていきましょう。

第1原則:自己の尊重

まず何よりも自分自身を信じ、尊重することが大切だとアタリ氏は説きます。自己嫌悪に陥ることなく、生きる意義を見出すこと。他者には何も期待せず、自分だけを頼りにする勇気を持つ。それが危機を乗り越える第一歩となります。

自分とは何者か? を定義する際に、頼りになるのは自己のみであるのを肝に銘じること。

第2原則:緊張感

20年先を見据えたビジョンを描き、常に限りある時間を意識して生きる。一瞬一瞬を大切にし、人生の意義を見出す。そのための『緊張感』が危機脱出には欠かせないのです。

第3原則:共感力

他者の立場に立って物事を考える『共感力』も重要な要素です。敵の動機を理解し、味方を増やすために相手を思いやる。利他主義の精神が、新たな連帯を生み出す原動力になると著者は説きます。

第4原則:レジリエンス

「レジリエンス」とは、困難な状況でもしなやかに適応し、復元する力のこと。備えを固め、想定外の事態にも動じない強靭さを身につける。そのためには日々の鍛錬が必要不可欠だと、アタリ氏は語ります。

第5原則:独創性

弱みを強みに変える発想の転換。それが『独創性』の本質です。常識の枠にとらわれず、ピンチをチャンスに変えるアイデアを生み出す。そこから新たなイノベーションが生まれると著者は指摘します。

敵の力を、自己の利益に呼び込むこと。そのためには、ポジティブな思考力、運命の甘受の拒否、勇気、独創的な実践が必要になる。

第6原則:ユビキタス

「ユビキタス」とは、時代の要請に合わせて自在に姿を変える能力のこと。状況に応じて別の自分になる覚悟、複数のアイデンティティを使い分ける柔軟さが求められます。自己を守りつつ、臨機応変に立ち回る技術だと言えるでしょう。

第7原則:革命的な思考力

最後に、従来の価値観を根底から覆すような『革命的な思考力』。危機に直面した時こそ、既成概念を打ち破る大胆な発想が必要とされます。アタリ氏曰く、「自己革命なくして、より良く生きることなどありえない」のです。

以上が『7つの原則』の概要ですが、いずれも示唆に富んだ内容だと感じました。もちろんこれらを実践するのは容易ではありません。第1原則の『自己の尊重』一つ取っても、自問自答の連続です。

ただ危機に直面した時、立ち止まって自分自身と向き合う。そこから新しい一歩を踏み出すヒントが見えてくるのかもしれません。アタリ氏の深い洞察は、そんな「内なる対話」へと私たちを誘ってくれます。

7原則は人類共通の羅針盤

『7つの原則』が秀逸なのは、個人だけでなく組織や社会全体にも当てはまる点だと思います。例えば企業経営に置き換えれば、まず自社の存在意義を見つめ直すこと(自己の尊重)、長期的な展望を描きつつ(緊張感)、ステークホルダーの声に耳を傾け(共感力)、柔軟に変化に適応しながら(レジリエンス)、ときに既成概念を打ち破る決断を下す(独創性・革命的思考)ことが求められます。

国家レベルでも同様のことが言えるでしょう。自国の尊厳を守りつつ、他国への理解を深め、困難な状況にも屈しない強靭さを持つ。ナショナリズムの殻に閉じこもるのではなく、未来志向の大胆な政策転換を進める勇気。アタリ氏の提言は、まさに今の世界が直面する課題の核心を突いているように思えます。

結局のところ、危機の根源は人間の意識そのものにあると著者は喝破します。だからこそ、目先の利益や欲望に惑わされることなく、人類共通の倫理観や連帯意識を取り戻すこと。『7つの原則』が目指すのは、そんな意識改革なのかもしれません。

ふと思い出したのは、本書の終盤で引用されていたアンドレ・ジッドの言葉です。

世界が救済されるとすれば、それは服従しない人々によってであろう。

確かに『7つの原則』は、既成の枠組みへの挑戦を促すものです。でも同時に、自己を見つめ、他者を思いやる感性を大切にするものでもあります。内なる変革と他者への共感。一見相反するそのふたつの要素が、今の時代を生き抜く鍵を握っているのかもしれません。

改めてアタリ氏の思索の深さに感銘を受けつつ、私なりの解釈を綴らせていただきました。たしかに7原則の実践は容易ではありません。でも一歩ずつでも、自分の内側と対話を重ねることから始められそうです。危機の時代をしなやかに生き抜く羅針盤として、皆さんにも『7つの原則』を味わっていただければ幸いです。


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