【読書メモ】『情報環世界 身体とAIの間であそぶガイドブック』(渡邊淳司・伊藤亜紗・ドミニクチェンほか、NTT出版)
2020.4.15 #読了
BOOKSHOP TRAVELLER 間借り店主・ぼくはきみできみはぼくさんからご紹介いただき読む。
この前、アップした『世界はなぜ存在しないのか』にもチラッとだけ出てきたし、まだメモを書いていない『人工知能のための哲学塾 東洋思想編』にも出てきた概念「環世界」。
元はユクスキュルの『生物から見た世界』(岩波文庫)で提唱された概念みたいだけど、つまりは生物ごとに感覚器官も脳みそも違うんだから観ている世界が違うよねって話で、本書ではその概念を広げて情報環世界という言葉を作り、それを研究した会の一部始終を本にしたというわけである。
情報環世界とは、つまひ人それぞれが接する情報は違うしもちろんその解釈も違う。細かく言えば感覚器官さえも違うことがあるわけでフィルターバブルやフェイクニュースという言葉が生まれる現在において、個人個人の観ている世界そのものが違う。それを情報環世界と呼ぼうということ。
『世界はなぜ存在しないのか』もそうだけど、フィルターバブルやフェイクニュースという現代社会の混沌に対して有効な言葉や手段をどうやって紡いでいくのかというところに目的があるのがとても好感が持てる。
面白かったのがそんな問題意識のある本書の第一章で"個人の環世界を無理やり開かせようとするのは、場合によってはかなり暴力的な行為ではないか"と書かれていること。この一文だけで信用できることがわかる。
何事にも簡単に白黒をつけて分かりやすくしようとする圧があるこの社会で、バランス感覚というか健全な懐疑というかそういった態度をまず表明するのは素晴らしい。(当たり前のことかもしれないけれど)
ブックデザインがポップなところが読みやすく、表紙だけでなく文字組みや紙の選び方みたいなところまでが注意が払われていて、読んでいて楽しくなった。内容はもちろんだがモノとしても素晴らしい一冊である。
それにしても、本書で言う「情報環世界」は『世界はなぜ存在しないのか』の「意味の場」とクロスオーバーする場所があるように思うのだけれどどうだろうか。というか、情報環世界は意味の場の下位概念のひとつのような印象を受けたのだがどうなんだろうか。
次は『生物から見た世界』を読みたいな。