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レティシア書房 店長日誌

岡根谷実里「世界の食卓から社会が見える」
著者の岡根谷実里は、自分のことを「世界の台所探検家」と称し、
「世界各地の家庭を訪れ、滞在させてもらいながら一緒に料理をし、料理から見える社会や暮らしを伝えています。」と書いています。

「世界の食卓から社会が見える」(新刊/大和書房2090円)は、著者が訪ねた世界中の国々の料理から見えるその国の姿を教えてくれます。TV番組でよくある家庭訪問してご飯を食べて、はい、美味しい、と笑顔を振りまいて終わりというイージーなものとは全く違います。


スーダンを訪れた時の事です。アフリカ北部に位置するこの国の主食は、「ソルガム」(イネ科の雑穀)を練った「アスィダ」と呼ばれる練り粥。ところが、国土の大半が乾燥した土地で小麦の生産には全く適さないのにも関わらず、近年、その小麦粉で作られた白いパンが食卓で幅を利かせているのです。

その疑問を解くために調べてゆくと、アメリカからの小麦の輸入が急激に増加していることがわかりました。1954年にアメリカで「余剰農産物処理法」という法律が制定されます。途上国への食糧支援名目で様々な優遇措置で安価で小麦粉が輸入される事になりました。で、一気に小麦粉が入ってきて、パンの生産量も消費量も飛躍的に増加しました。しかし、この法律によって、受け入れ国の農業生産が圧迫されたり、他の穀物輸出国の輸出を減少さたりと大国のエゴイズムが露出するようになりました。
「40年の時を経て、パンはスーダンの食事の一部となった。政府の援助もあって普及した『白くておいしくて安価な主食』は、台所に立つ人の負担を軽くし、確実に人々のお腹を満たした。その功績は大きい。しかし、一番肝心な主食を外に頼る体質になってしまったゆえに、生活や社会の基盤が脆弱になるという結果をも生んだ。」

ブルガリア、メキシコ、イスラエル、インド、ボツワナ、フィンランド、キューバ、モルドバ、中国、パレスチナ、ヨルダン等の家庭にお邪魔して、その国の料理を食べながら、成る程!と納得したり、え?どうしてと疑問に思ったり、料理法に驚いたりしながら、食文化を論じていきます。写真も沢山掲載されていて、それを見ているだけでも楽しいし、カラー表記の各種グラフや表もすっきりと見やすいので、細かいところまで見てしまいます。

「家に立ち寄った時のもてなしのドリンクは、国や地域ごとに個性がある。日本では緑茶や麦茶などのお茶がポピュラーだけど、インドやネパールではチャイを、アフリカのスーダンでは冷えたバオバブジュースを勧められた。モルドバでは、少しぬるんだ自家製ワインだった。」
自分で収穫したブドウを自分で醸造して、それを振る舞うなんて素敵な事ではあるのですが、ここにもこの国の根幹を揺るがす問題が含まれているのです。食文化のことを学びつつ、お国事情も把握できる本です。

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