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レティシア書房店長日誌

松下隆志「ロシア文学の怪物たち」
 
 私自身はあまり馴染みのないロシア文学紹介の本ですが、これは文句なしに面白い!(書誌侃々房 /新刊1980円)
 著者は1984年大阪生まれ。「私が生まれ育ったのは、大阪市の東の端の方の地域だ。お世辞にも『ガラがいい』とは言えない。」と書いています。そして、中学校は校内暴力で荒れに荒れていました。

 「中学校で味わった濃密な暴力は私の原体験となった。道徳や社会のルールはこの世界の表面を覆う薄くて脆い皮膜にすぎず、その下では禍々しい暴力が渦巻いている。そんな確信が、十四歳の自分の柔らかい心に揺るぎなく根を下ろした。」
 そして、「私は学校で定期的に行われるボランティア活動の類いがいかにも偽善的で嫌いだったのだが、現実の社会はこのような偽善的な構造を有していた。そして私もまた、学校や路上にあふれかえる無数の暴力を、それが自分の身に降り掛からない限りにおいて、傍観し、目を逸らし、見て見ぬ振りを決め込むことによって、私の平和な日常を生きていた。私自身が、私の憎むこの偽善的な社会の共犯者にほかならなかった。 そのことに気づいてしまった以上、もはや目を逸らしたままでいることはできなかった。それが私の文学の出発点となった。」
 高校2年の頃、本屋でドフトエフスキーの「罪と罰」に出会います。「罪と罰」の主人公で殺人を犯すラスコーリニフに著者はどうしようもなく惹かれていきます。
 「ドフトエフスキーの作品を読むことは、しばしばただの読書を超えた『体験』と呼ばれるが、それは自分の場合にも当てはまる。『罪と罰』は私の心の奥底に鬱積していた暗い感情を言葉の奔流にして解き放ってくれた。それは一種のカタルシスだった。」
 著者は「罪と罰」を三回以上読み、その他のドフトエスキー作品も片っ端から読んでいきます。高校卒業後「私は北海道大学の文学部に進学した。地元大阪から遠く離れた札幌の大学を選んだのは、もちろんロシア文学を学ぶためであったが、家族や友人から離れて孤独な環境に身を置きたいという動機もあった。」
 そしてロシア文学研究者となった著者は、あまり日本では馴染みのない作家も取り上げます。アンダーグラウンド作家のユーリー・マムレーエフの「穴持たずとも」という作品には、本能の赴くままに無意味な殺人を繰り返すフョードルという男が登場します。しかし、「怪物」はフョードルだけではないのです。
 「フョードルの妹で、家禽の頭で自慰に耽る趣味を持つクラーワ、子どもを憎悪するあまり胎児をペニスを自らのペニスで突き殺す隣人パーシャ、」等々、もう書くのも嫌になってくる描写が続きます。
 大御所だけではなく現代女性作家に至るまで、ロシア文学に惹き込まれた著者の思いが溢れる文学案内です。

年始年末休業のお知らせ:12月29日(日)〜1月7日(火)

レティシア書房ギャラリー案内
12/11(水)〜12/22(日)「草木の色と水の彩」作品展
12/25(水)〜12/28(土)絵本ディスカウントフェア
2025年
1/8(水)〜1/19(日)古本市
1/22(水)〜2/2(日)「口を埋める」豊泉朝子展

⭐️入荷ご案内
「京都町中中華倶楽部 壬生ダンジョン編」(825円)
「オフショア4号」(1980円)
青木真兵&柿内正午「二人のデカメロン」(1000円)
オルタナ旧市街「Lost and Found」(900円)
小峰ひずみ「悪口論」(2640円)
SAUNTER MAGAZINE Vol.7 「山と森とトレイルと」

いさわゆうこ「デカフェにする?」(1980円)
「新百姓2」(3150円)
青木真兵・光嶋祐介。白石英樹「僕らの『アメリカ論』」(2200円)
坂口恭平「自己否定をやめるための100日間ドリル」(1760円)
「トウキョウ下町SF」(1760円)
モノ・ホーミー「線画集2『植物の部屋』(770円)

モノ・ホーミー「2464Oracle Card」(3300円)
古賀及子「気づいたこと、気づかないままのこと」(1760円)
いしいしんじ「皿をまわす」(1650円)
黒野大基「E is for Elephant」(1650円)
ミシマショウジ「茸の耳、鯨の耳」(1980円)
comic_keema「教養としてのビュッフェ」(1100円)
太田靖久「『犬の看板』から学ぶいぬのしぐさ25選」(660円)
落合加依子・佐藤友理編「ワンルームワンダーランド」(2200円)
秦直也「いっぽうそのころ」(1870円)
折小野和弘「十七回目の世界」(1870円)
藤原辰史&後藤正文「青い星、此処で僕らは何をしようか」
(サイン入り1980円)
YUMA MUKUMOTO「26歳計画」(再々入荷2200円)
モノホーミー「自習ノート」(1000円)
コンピレーション「こじらせ男子とお茶をする」(2200円)
牧野千穂「some and every」(2500円)
マンスーン「無職、川、ブックオフ」(1870円)

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