レティシア書房店長日誌
酒井順子「紫式部の欲望」
現在放映中のNHK大河ドラマ「光る君へ」は、最初は退屈なドラマだろうなぁ〜と期待もせずに観ていたのですが、政治的陰謀あり、複雑な権力闘争あり、そしてあの時代の女性たちを現代に甦らせたような脚本といい、ハマっています。
というこで、源氏物語に関する本でちょっと面白そうなものはないかと、在庫を探しているとありました、酒井順子著「紫式部の欲望」(古書/ 文庫350円)です。
著者はあとがきで、「源氏物語」を読むことをこう言います。
「重い着物の下で紫式部が静かに発酵させてきた欲望の数々を思うと、私は彼女のことが怖くなる時があります。しかし同時に気付くのは、自分の中にも彼女と同じ欲望が渦巻いているということ。源氏物語を読むということは、私にとって、作者の欲望と自分の欲望を照らし合わせる作業でもあり、その符号を見るにつけ、千年前を生きた女性と自分とは同じ生身の人間であるという確信を、強くするのでした。」
本書は、「嫉妬したい」「頭がいいと思われたい」「専業主婦になりたい」「モテ男を不幸にしたい」「秘密をばらしたい」など20章に分かれて、それぞれの章にふさわしい「源氏物語」の一部分を紹介するという形になっています。「嫉妬したい」では、「源氏物語」で最も有名なキャラで”嫉妬深い人の代表格六条御息所が登場。彼女が24歳の時、17歳の源氏と深い仲になります。が、年下の美青年に言い寄られて付き合ってみたら、妻はいるわ、他にも女が沢山いるわ…….。で、プライドも高く、教養もあった彼女に嫉妬心が噴出します。
「しかし彼女の不幸は『嫉妬をした』ことそのものではありません。『嫉妬を表に出すことができなかった』ことこそが、彼女にとっては最大の不幸となりました。身分も外見も教養も、非の打ち所が無い女性であり、かつ源氏より七歳年上であったことから、彼女は源氏の前で素直にスネたりムクレたりすることができません。源氏の前では、あくまでしゅっとしたいい女を演じていたからこそ、精神の内側で、嫉妬心がドロドロと渦を巻いていったのです。」そして、源氏が惚れ込んだ夕顔をとり殺してしまい、さらに源氏の正妻葵上に、猛烈な嫉妬心を抱き早死にさせてしまうのです。
著者は、紫式部もまた内向きで、自己評価が低いような振る舞いをしつつ、自分自身に強い誇りを持っている彼女としては、嫉妬を外にたれ流せなかった女性だったと考えています。
「紫式部は本当に、嫉妬の末に誰かのことを『死ねばいいのに』と思ったことがあるのではないかと私は思います。その思いを、六条御息所に遂げさせることによって、彼女は心の中のマグマを鎮めたのでしょう。 平成の世から現在まで、六条御息所の存在は、嫉妬のあまり誰かのことを『死ねばいいのに』と思ったことがある人達の心を、ずっと慰撫し続けています。嫉妬することすら源氏から禁じられ、その末に六条の嫉妬によって殺されそうになる紫の上が、源氏物語におけるベビーフェイスのトップスターだとしたら、六条御息所はヒールのトップスター。その姿にエールを送り続ける人は、いつの時代にも存在し続けているのだと私は思います。」
お見事!国文学者が書いた専門書では出てこない解釈です。こんな感じで全体が書き進められています。最後には、「源氏物語」主要登場人物、あらすじ、主要人物系図が掲載されています。
●レティシア書房ギャラリー案内
6/5(水)〜6/16(日)村瀬進「植物から、本から」出版記念原画展
6/19(水)〜6/30(日)書籍「草花の便り」出版記念原画展 西山裕子
⭐️入荷ご案内
友田とん「パリのガイドブックで東京の町を闊歩する3 先人は遅れてくる」(1870円/著者サイン入り!)
川上幸之介「パンクの系譜学」(2860円)
町田康「くるぶし」(2860円円)
Kai「Kaiのチャクラケアブック」(8800円)早乙女ぐりこ「速く、ぐりこ!もっと速く!」(1980円)
つげ義春「つげ義春が語る旅と隠遁」(2530円)
山本英子「キミは文学を知らない」(2200円)
たやさないvol.4「恥ずかしげもなく、野心を語る」(1100円)
花田菜々子「モヤ対談」(1870円)
子鹿&紫都香「キッチンドランカーの本」(660円)
夏森かぶと「本と抵抗」(660円)
加藤和彦「あの素晴らしい日々」(3300円)
Troublemakers (3600円)
若林理砂「謎の症状」(1980円)
宇田智子「すこし広くなった」(1980円)
おぼけん「新百姓宣言」(1100円)
仕事文脈vol.24「反戦と仕事」(1100円)
降矢聰+吉田夏生編「ウィメンズ・ムービー・ブレックファスト
(2530円)
「些末事研究vol.9-結婚とは何だろうか」(700円)
今日マチ子「きみのまち」(2200円)
秋峰善「夏葉社日記」(1650円)
「B面の歌を聴け」(990円)
「本と本屋とわたしの話vol.21」(300円)
辻山良雄「しぶとい10人の本屋」(2310円)