将棋ブームに乗るための、読む将必読本8選
藤井聡太二冠の活躍が凄まじい。
雑誌「Number」は23万部超えの大ヒット。世は空前の将棋ブームだ。
将棋が人生の一部と化しているほど将棋好き書店員の私が、“読む将”(将棋を読んで楽しむファン)になるための定番書をいくつか紹介したい。
ルールや駒の動かし方が分からなくとも、どれも読み物として楽しめるノンフィクションだ。
まず大崎善生「聖の青春」(講談社文庫)。
これを読まないと“読む将”は絶対に名乗れない将棋ノンフィクションの金字塔。私が将棋にハマるきっかけとなった一冊だ。
29歳という若さでこの世を去った天才棋士、村山聖。師匠・森信雄との絆を描いた本書は、松山ケンイチ主演で映画化もされた。
“西の村山・東の羽生”と恐れられ、ついたあだ名が“怪童 村山”。文字通り命を削りながら将棋を指し続けたその信念に感服するよりない。
ちなみに「3月のライオン」の二階堂のモデルはこの村山だ。
北野新太「等身の棋士」(ミシマ社)は、将棋に対する棋士たちの美学を、時に素直に、時にエモーショナルに表現した傑作だ。個人的には、もはや純文学だと思っている。
終局の数十手前から負けを悟るプロ棋士たち。美しい“投了図”を盤上に描いて散っていくその姿は、一人の勝負師であり、また表現者でもある。将棋を通して他者と対話を続ける物語。
何度敗れても絶対に立ち上がる“百折不撓”の根性。王位戦で藤井聡太とタイトル戦を争ったことで話題になった木村一基九段のノンフィクション。樋口薫「受け師の道」(東京新聞)。
若い頃から切磋琢磨してきた同世代の棋士との友情。弟子の高野との絆。
読みながらボロボロ泣ける本だ。また華やかな舞台で“千駄ヶ谷の受け師”が見たい。
藤井二冠の師匠・杉本八段がテレビで引っ張りだこだ。
将棋界の師弟関係に焦点を当てたのが神田憲行「一門」(朝日新聞出版)だ。
村山聖の師匠、森信雄門下生全員に取材。
個性的な棋士たちと、彼らをそっと見守る師匠。その独特な関係性がとても面白い。
読むときっと“推し”の棋士が一人はできるだろう。
今年、念願の名人位を獲得した渡辺明名人。
奥様の伊奈めぐみが描く漫画「将棋の渡辺くん」(講談社)は、渡辺の私生活を余すことなくさらけ出すコミックエッセイだ。子どもの頃から将棋漬けで育った棋士たちの、時に世間知らず?な一面が非常に面白い。天才と奇人は紙一重である。
あまり知られていないけれど、伊奈の兄も将棋の棋士で伊奈六段。
そして伊奈六段の奥様は囲碁棋士という、何だかすごい一家だ。
将棋がサッパリ分からなくともとにかく夢中で読めるのがこれ。
団鬼六「真剣師 小池重明」(幻冬舎アウトロー文庫)。
賭け将棋で生計を立て、大会では酒を飲みながら指してそれでも優勝してしまう“新宿の殺し屋”と呼ばれた男の生涯。令和の時代には絶滅しつつある、“破天荒”な生きざまを見よ。
柚木裕子「盤上の向日葵」に登場する真剣師のモデルはこの小池だ。
棋士であり、文筆家でもあるのが先崎学九段。
「うつ病九段」(文春文庫)では、数年前にうつ病と診断され病と闘う姿を赤裸々に告白。
藤井フィーバーに沸いた報道の裏で、別の戦いに苦しんでいた一人の棋士の裏舞台。
かつて週刊文春に連載も持っていた先崎九段。“才能”とは、こういう人をいうのだと思う。
将棋の観戦記で私が一番好きな大川慎太郎。
「不屈の棋士」(講談社現代新書)では、AIが人間を超えた今、棋士の存在価値を棋士
自らに問うた。“敵”なのか“味方”なのか。信頼するのか、己を信じるのか。
いまだ暗中模索の真っただ中にある棋士たち。その中でもがく彼らの姿を、美しいと思うのは私が人間だからだろうか。
12月には新刊「証言 羽生世代」が刊行予定だ。こちらも見逃せない。
以上、読む将必読本8冊を紹介した。
大多数の人が将棋と聞いてイメージするであろう羽生善治関連は、ここにはあえて入れていない。それはまた別の機会に。
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