書店員さん

本について語るときに僕の語ること。 続けられるのか謎。 人文やノンフィクション多め。

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最近の記事

2020年の本を振り返る②

私的2020年読書録、4月~6月編。 日本中が新型コロナ騒動に揺れた3カ月。私の勤務する店も1カ月の休業となった。 この時期は精神的に完全に参っていて、本を読む気になどなれなかった。ヘミングウェイに言わせると“何を見ても何かを思う”状態であった。読書を再開したのは休業明け、5月頃から。 川内有緒「晴れたら空に骨まいて」(講談社文庫)は待ちに待った文庫化だ。 “散骨”と聞いてあなたは何を思い浮かべるだろう?川や山、思い出の場所に死者の骨をまいてそっと祈る…そんな経験をした人た

    • 「私とあなたのあいだ いま、この国で生きるということ」を読んで

      温又柔×木村友祐の共著「私とあなたのあいだ」が明石書店から刊行された。 芥川賞候補にもなった気鋭の小説家ふたりが交わす言葉の数々。書店では文芸書の棚に並べる店が多いように思うけれど、内容からするとこの本は社会学や現代思想の棚でも良いように思う。 なんせ副題が『いま、この国で生きるということ』だ。 コロナ禍で浮き彫りとなった政府の無能さや、日本学術会議問題をはじめとした民主主義の意義が根底から危ぶまれるいまの日本において、この副題が問う意味は重い。 さて本書は、ふたりが交わす

      • 将棋ブームに乗るための、読む将必読本8選

        藤井聡太二冠の活躍が凄まじい。 雑誌「Number」は23万部超えの大ヒット。世は空前の将棋ブームだ。 将棋が人生の一部と化しているほど将棋好き書店員の私が、“読む将”(将棋を読んで楽しむファン)になるための定番書をいくつか紹介したい。 ルールや駒の動かし方が分からなくとも、どれも読み物として楽しめるノンフィクションだ。 まず大崎善生「聖の青春」(講談社文庫)。 これを読まないと“読む将”は絶対に名乗れない将棋ノンフィクションの金字塔。私が将棋にハマるきっかけとなった一冊だ

        • 2020年の本を振り返る①

          2020年に出版された本を、振り返ってみたい。 紹介するものはすべて私が読んだものに限るので、偏りが多々あることを最初に断っておく。今回紹介する本は3冊。 まず紹介するのは、ディーリア・オーエンズ「ザリガニの鳴くところ」(早川書房)。 出版は3月だが、私がプルーフを頂いたのは1月頃だったと思う。読んですぐにこれは今年の海外ミステリーの“顔”になると確信した。“犯人探し”的な要素を含む、いわば王道のミステリーでありながら、一人の少女の成長を描いた優れた文学作品である。驚くべき