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Afterlives

著者 Abdulrazak Gurnah
出版 Bloomsbury Publishing; 第1版 (2020/9/17)

「Even as the schutztruppe lost soldiers and carriers through battle, disease and desertion, their officers kept fighting on with manic obstinacy and persistence. The askari left the land devastated, its people starving and dying in the hundreds of thousands, while they struggled on in their blind and murderous embrace of a cause whose origins they did not know and whose ambitions were vain and ultimately intended for their domination. The carriers died in huge numbers from malaria and dysentery and exhaustion, and no one bothered to count them. They deserted in sheer terror, to perish in the ravaged countryside. Later these events would be turned into stories of absurd and nonchalant heroics, a sideshow to the great tragedies in Europe, but for those who lived through it, this was a time when their land was soaked in blood and littered with corpses.」

シュッツトラーッペが戦闘、病気、脱走によって兵士や輸送兵を失っても、将校たちは狂気じみた頑固さと執念で戦い続けた。アスカーリはこの地を荒廃させ、何十万人もの民衆を飢えさせ、死に至らしめた。その一方で、彼らは自分たちがその起源を知らず、その野望も虚しく、最終的には自分たちの支配を目的とする大義を盲目的に、そして殺人的に抱き続け、もがき続けた。マラリアや赤痢、過労で大量に死んだ輸送兵を、誰も数えようとはしなかった。彼らは恐怖のあまり脱走し、荒れ果てた田舎で死んでいった。後にこれらの出来事は、ヨーロッパの大悲劇の余興として、不条理で淡々とした英雄譚として語られることになるのだが、それを生き抜いた人々にとっては、自分たちの土地が血に染まり、死体が散乱した時代だった。

『Afterlives』Abdulrazak Gurnah著

2021年10月7日、ノーベル文学賞の発表があった。
授与されたのはタンザニア出身の文学者アブデュルラザク・グルナー。
今まで一度も僕は彼の名前を見聞きしたことがなかった。
彼の書いてきた本のテーマと授与理由をロイター通信のLIVEで聴いていたら、とても興味が湧いた。
女性蔑視、植民地主義、人種差別、過酷な環境での難民たちにスポットライトを当てた作品群が多く、また、歴史的背景も細部にわたり忠実なようだ。

ノーベル文学賞授与理由
「植民地主義の影響と、難民の運命への妥協のない、思いやりを持った洞察力を評価した」


すぐに、Amazonで調べてみると、何冊か彼の著書がKindleでも手に入ることがわかった。
そこで、初グルナー作品として彼の昨年出版された著書Afterlivesを購入した。
Afterlivesは2021オーウェル賞、2021ウォルタースコット賞を受賞している。

本当はブッカー賞候補となったParadiseを先に読みたかったが、Kindleになく、紙媒体の方は届くのに日数がかかりそうだったのでこちらにした。

とても読み易い英文だ。難しいイギリス文学などの言い回しが出てこない。時折、スワヒリ語が出てくる。


あらすじ


1900年ごろドイツ植民地時代の東アフリカがメイン舞台。
インド人とアフリカ系のハーフとして生まれたハリファは非常に賢い少年だった。植民地政策の流れでインドからアフリカへと渡る。アシャとそこで結婚し、マジマジ反乱のことが描かれていたりする。友人イリヤスの妹アフィヤもある事件の後、ハリファ夫婦と暮らす。
アスカリのボランティアの優しいハムザとアフィヤがその後、ハリファを通して出会う。
アフィヤもハムザも肉体も心も傷を負っていた。

テーマ

ドイツ植民地時代の東アフリカ
愛の回復

ドイツ植民地時代の東アフリカ

本書の土台となる歴史的背景をwikipediaから引用する。

ドイツ領東アフリカ(ドイツりょうひがしアフリカ、ドイツ語: Deutsch-Ostafrika)は、東アフリカに存在した、後のブルンジ、ルワンダ、およびタンガニーカ(タンザニアの大陸部)の3地域を合わせたドイツ帝国の植民地だった地域である。面積は994,996平方キロメートルでドイツ連邦共和国のドイツの3倍に近い。1880年代から第一次世界大戦にかけて存在し、戦後イギリス帝国とベルギーに占領された後、委任統治領となった。

第一次世界大戦勃発時、ドイツ領東アフリカ防衛隊は司令官パウル・フォン・レットウ=フォルベック大佐(当時)に率いられ連合国軍と戦った。レットウ=フォルベックはこの戦争を、3,000名のヨーロッパ人将校と11,000名の原住民アスカリおよびポーターとともにイギリス軍を繰り返し攻撃して釘付けすることに費やした。イギリス軍は30万名を擁する強力な部隊で、この時第二次ボーア戦争を指揮したヤン・スマッツに率いられていた。レットウ=フォルベックのもっとも大きな戦功はタンガの戦いにおける勝利で、彼は自軍の8倍以上のイギリス軍を打ち破った。

レットウ=フォルベックはゲリラおよび奇襲作戦を展開し、最終的にイギリス軍に大量の物資と少なくとも6万人以上の損失を強いた。それにもかかわらず、圧倒的な兵力差(特にベルギー領コンゴ軍が西から攻撃してきた後)と補給の減少はレットウ=フォルベックに撤退を余儀なくさせた。最終的にレットウ=フォルベックは配下の小規模な部隊とともにドイツ領東アフリカを出てポルトガル領東アフリカ(後のモザンビーク)に侵入し、その後北ローデシア(後のザンビア)に侵入し、ドイツの休戦協定署名から3日後に休戦の知らせを受けて戦闘停止に同意した。

戦後、レットウ=フォルベックと彼のドイツ領東アフリカ防衛隊は、第一次世界大戦において唯一敗北しなかった植民地軍(数で劣る敵に対してはしばしば退却したが)という、英雄として凱旋した。東アフリカでドイツ軍とともに戦ったアスカリにはのちにヴァイマル共和政および西ドイツから恩給が支給された。

ドイツ軍軽巡洋艦ケーニヒスベルクも東アフリカ沿岸で戦った。ケーニヒスベルクは燃料の石炭を使い果たし、1915年にルフィジ川の河口で沈没した。乗組員はその後地上軍に参加した。

ヴェルサイユ条約によりドイツ領東アフリカは分割され、西側をルアンダ=ウルンディ(後のルワンダとブルンジ)としてベルギー領に、ロヴマ川以南のキオンガ三角地帯(後のモザンビークの一部)をポルトガル領に、残りをタンガニーカと名付けイギリス領とした。

他のアフリカ植民地所有者ベルギー、イギリス、フランスおよびポルトガルとは違って、ドイツは初等学校、中等学校および職業訓練学校の開設といったアフリカ人教育プログラムを施行した。

wikipediaより引用

東アフリカとドイツの関係を僕はほとんど知らなかった。
ルワンダジェノサイドの手記「生かされて」を読んだ際に調べてはいたが、イギリス、ベルギーの植民地であったことしか知らなかった。
アフリカの人々がいかにヨーロッパの植民地時代から現代に至るまで翻弄され続けてきたのか、再度、考えさせられた。
また、特筆すべき点でドイツが他の国と違い、積極的に学校を設立するなどして現地の人々の教育プログラムを推進していた点だ。このことは作品の中で度々出てくる。
また、皮肉にも作中人物の少女、アフィヤはそのことにより、叔父から激しい虐待を受ける。そう読み書きを少女が覚えたことをよく思わない少女の叔父は彼女に後遺症が残るほど虐待した。

愛の回復

歴史的背景の中で、アフィヤとハムザの愛を通して、著者グルナーの二つ目のテーマが垣間見れた。
とりわけ、アフィヤに出会う前のハムザの苦労は、静けさの中からも迫真に迫り、歴史的事実とも相まって、非常に説得力のある描かれ方だった。

心身共に傷ついていたアフィヤとハムザの出会いから物語後半までを通して、人々の愛や希望の回復を著者が願って強く訴えているように感じた。

「She smiled and reached for his face with her damaged hand.」

—『Afterlives』Abdulrazak Gurnah著

たった一行だが、これまでに描かれた彼らの背景を読んだあとのこの一行がジーンときた。

壮大な舞台設定の中でのとてもささやかな愛情のやり取りなど、著者の優しさと願いが伝わる作品だった。

ノーベル文学賞作品をあまり意識したことがなかったが、今年は読書記録をつけ始めたりし、今年は誰が取るのか気になっていた。
また、最近ハマっているミラン・クンデラが高齢ともあり、僕は彼が授与されたらなぁとも期待したりした。
全く和訳のない、日本では馴染みの少ないグルナーの名前が聞こえた時、とても驚いた。
恐らく、ノミネートされていなかったら、彼の作品に触れる機会がなかったかもしれない。
けれども、読んでみると、彼の強いメッセージ性と人々が忘れてはならない歴史的事実が作品に見事に投影されており、彼の作品を読んで良かった。
彼の作品が和訳され、日本でも色々な人々に読まれるといいなと思う。

また、英文自体はとても易しいため、中学生、高校生の子どもたちにも読んでもらえたらと思った。

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