著者 Abdulrazak Gurnah
出版 Bloomsbury Publishing; 第1版 (2020/9/17)
2021年10月7日、ノーベル文学賞の発表があった。
授与されたのはタンザニア出身の文学者アブデュルラザク・グルナー。
今まで一度も僕は彼の名前を見聞きしたことがなかった。
彼の書いてきた本のテーマと授与理由をロイター通信のLIVEで聴いていたら、とても興味が湧いた。
女性蔑視、植民地主義、人種差別、過酷な環境での難民たちにスポットライトを当てた作品群が多く、また、歴史的背景も細部にわたり忠実なようだ。
すぐに、Amazonで調べてみると、何冊か彼の著書がKindleでも手に入ることがわかった。
そこで、初グルナー作品として彼の昨年出版された著書Afterlivesを購入した。
Afterlivesは2021オーウェル賞、2021ウォルタースコット賞を受賞している。
本当はブッカー賞候補となったParadiseを先に読みたかったが、Kindleになく、紙媒体の方は届くのに日数がかかりそうだったのでこちらにした。
とても読み易い英文だ。難しいイギリス文学などの言い回しが出てこない。時折、スワヒリ語が出てくる。
あらすじ
1900年ごろドイツ植民地時代の東アフリカがメイン舞台。
インド人とアフリカ系のハーフとして生まれたハリファは非常に賢い少年だった。植民地政策の流れでインドからアフリカへと渡る。アシャとそこで結婚し、マジマジ反乱のことが描かれていたりする。友人イリヤスの妹アフィヤもある事件の後、ハリファ夫婦と暮らす。
アスカリのボランティアの優しいハムザとアフィヤがその後、ハリファを通して出会う。
アフィヤもハムザも肉体も心も傷を負っていた。
テーマ
ドイツ植民地時代の東アフリカ
愛の回復
ドイツ植民地時代の東アフリカ
本書の土台となる歴史的背景をwikipediaから引用する。
東アフリカとドイツの関係を僕はほとんど知らなかった。
ルワンダジェノサイドの手記「生かされて」を読んだ際に調べてはいたが、イギリス、ベルギーの植民地であったことしか知らなかった。
アフリカの人々がいかにヨーロッパの植民地時代から現代に至るまで翻弄され続けてきたのか、再度、考えさせられた。
また、特筆すべき点でドイツが他の国と違い、積極的に学校を設立するなどして現地の人々の教育プログラムを推進していた点だ。このことは作品の中で度々出てくる。
また、皮肉にも作中人物の少女、アフィヤはそのことにより、叔父から激しい虐待を受ける。そう読み書きを少女が覚えたことをよく思わない少女の叔父は彼女に後遺症が残るほど虐待した。
愛の回復
歴史的背景の中で、アフィヤとハムザの愛を通して、著者グルナーの二つ目のテーマが垣間見れた。
とりわけ、アフィヤに出会う前のハムザの苦労は、静けさの中からも迫真に迫り、歴史的事実とも相まって、非常に説得力のある描かれ方だった。
心身共に傷ついていたアフィヤとハムザの出会いから物語後半までを通して、人々の愛や希望の回復を著者が願って強く訴えているように感じた。
たった一行だが、これまでに描かれた彼らの背景を読んだあとのこの一行がジーンときた。
壮大な舞台設定の中でのとてもささやかな愛情のやり取りなど、著者の優しさと願いが伝わる作品だった。
ノーベル文学賞作品をあまり意識したことがなかったが、今年は読書記録をつけ始めたりし、今年は誰が取るのか気になっていた。
また、最近ハマっているミラン・クンデラが高齢ともあり、僕は彼が授与されたらなぁとも期待したりした。
全く和訳のない、日本では馴染みの少ないグルナーの名前が聞こえた時、とても驚いた。
恐らく、ノミネートされていなかったら、彼の作品に触れる機会がなかったかもしれない。
けれども、読んでみると、彼の強いメッセージ性と人々が忘れてはならない歴史的事実が作品に見事に投影されており、彼の作品を読んで良かった。
彼の作品が和訳され、日本でも色々な人々に読まれるといいなと思う。
また、英文自体はとても易しいため、中学生、高校生の子どもたちにも読んでもらえたらと思った。