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【中野剛志が語る】"日本が失われた30年から抜け出せない理由" 解析

中野剛志さんは、私が発言や著作を継続的にフォローしている数少ないお一人なものでして 今回は記事とさせて頂きました。…今回の動画は示唆に富む、分析・提言だと感想を持ちましたもので、解説記事ということでどうぞ、よろしくお願い致します。

【中野剛志が語る】日本が失われた30年から抜け出せない理由


シュンペーター理論が解き明かす日本経済復活への道 - 誤解された「競争」と「成長」の本質

プロローグ:経済学の巨人が語る現代への警鐘

20世紀を代表する経済学者ヨーゼフ・シュンペーター。その深遠な理論は、現代日本が直面する経済停滞の解決策を示唆しています。2024年、「失われた30年」を超えて長期化する日本の経済停滞。その根本的な原因と解決策は、シュンペーターの理論の中に隠されていたのです。

日本経済の矛盾:成功と失敗の分岐点

戦後わずか25年で経済大国へと駆け上がった日本。その成功の背後には、実はシュンペーターの理論に忠実な経済システムが存在していました。日本の高度経済成長期のシステムは、シュンペーターが提唱した「イノベーション促進型」の経済構造そのものだったのです。

しかし皮肉なことに、その後の30年間、日本はシュンペーターの教えに真っ向から反する道を歩むことになります。特に1990年代以降、市場原理主義と過度な競争促進策への傾倒が、イノベーションを阻害する結果をもたらしました。

シュンペーター理論の真髄:誤解された「競争」の本質

シュンペーターの理論で最も重要かつ広く誤解されているのが、「競争」の概念です。現代の主流派経済学が説く「完全競争市場」は、実はイノベーションを阻害する要因となり得ます。シュンペーターは、イノベーションを促進するためには、ある程度の「競争制限」が必要不可欠だと説いていました。

イノベーションと企業規模の真実

一般的に広まっているイメージとは異なり、シュンペーターは大企業こそがイノベーションの主体となり得ると考えていました。なぜなら、真のイノベーションには、長期的な視点での投資と、一定の市場支配力が必要だからです。このような洞察は、現代のスタートアップ至上主義に対して重要な警鐘を鳴らしています。

重要な点は、シュンペーターが言う「競争制限」は、必ずしも独占禁止法に抵触するような極端なものである必要はないということです。ブランド構築、特許取得、戦略的な価格設定など、実際のビジネスにおいて企業が日常的に行っている活動の多くが、健全な形での競争制限に該当します。これらの活動が、持続的なイノベーションを可能にする基盤となっているのです。

現代貨幣理論との融合:経済政策の新たな地平

シュンペーターの経済理論のもう一つの重要な側面は、貨幣に関する深い洞察です。彼は、現代では「信用貨幣論」として知られる考え方を支持していました。この理論は、現代貨幣理論(MMT)の先駆けとも言える重要な視点を提供しています。

信用貨幣論の本質は、銀行システムが単なる資金仲介機関ではなく、新たな貨幣を創造する機能を持つという点にあります。この理解は、イノベーションの資金調達における重要な示唆を与えています。従来の貨幣量の制約にとらわれることなく、革新的なプロジェクトに必要な資金を創造することが可能となるのです。

政府の役割再考:アメリカの事例から学ぶ

シュンペーター理論の現代的解釈において、特に注目すべきは政府の役割です。アメリカの事例は、政府主導のイノベーション政策の重要性を如実に示しています。軍事技術開発や宇宙開発プログラムを通じて、アメリカは意図的であれ結果的であれ、シュンペーター的な産業政策を実践してきました。

日本経済再生への具体的戦略

この理論的な理解を踏まえ、現代日本に必要な政策とは何でしょうか。それは単なる財政出動ではなく、戦略的なイノベーション政策の展開です。現代において、政府による投資対象は必ずしも軍事や宇宙開発に限定される必要はありません。気候変動対策、再生可能エネルギーの開発、医療技術の革新など、社会的に重要な課題は数多く存在しています。

特筆すべきは、これらの投資が単一の目的のために行われるのではないという点です。例えば、再生可能エネルギーの開発過程で生まれた蓄電技術は、モバイルデバイスや電気自動車など、まったく異なる産業分野でも革新をもたらす可能性があります。この波及効果こそが、政府主導のイノベーション政策の真価なのです。

財政政策の新たなパラダイム

シュンペーターの貨幣理論は、財政政策に対する根本的な発想の転換を促します。政府は、中央銀行との関係を通じて、必要な投資資金を創造する能力を持っています。この理解は、単なる財政拡大主義ではなく、戦略的な資源配分の可能性を示唆しています。

現代の日本において、財政破綻への過度な懸念が積極的な投資を妨げている状況は、貨幣の本質に対する理解不足から生じています。実際、日本銀行を通じた資金供給の仕組みは、適切に運用されれば、持続可能な経済成長を支える重要な政策手段となり得るのです。

経済学パラダイムの革新

主流派経済学の限界は、単なる理論上の問題ではありません。それは実際の経済政策に大きな影響を与え、結果として社会全体の発展を妨げる要因となっています。特に懸念されるのは、市場均衡理論に基づく経済理解が、イノベーションの本質的な性質を見落としているという点です。

経済政策の本質的な転換に向けて

主流派経済学への依存は、日本経済に深刻な影響を及ぼしています。特に2008年のリーマンショック以降、従来の経済理論の限界が明確になってきました。シュンペーターが指摘したように、経済発展は単なる市場均衡のメカニズムでは説明できないのです。

実際、主流派経済学者たちはリーマンショックを予測することができませんでした。これは単なる予測の失敗ではなく、経済システムの本質的な理解の欠如を示しています。一方で、信用貨幣論を理解していた経済学者たちは、金融システムの脆弱性を事前に指摘していました。

未来への展望:シュンペーター理論の現代的意義

2024年の日本経済は、まさに岐路に立っています。グローバル化の進展、技術革新の加速、そして社会課題の複雑化は、新たな経済システムの構築を求めています。この文脈において、シュンペーターの理論は、これまで以上に重要な指針となっています。

特に注目すべきは、経済発展における組織的な取り組みの重要性です。イノベーションは、個人の天才的な発明や市場の自然な淘汰から生まれるのではありません。それは、適切な制度設計と、長期的な視点に立った投資、そして組織的な研究開発活動の結果として実現されるものなのです。

結論:新たな経済システムの構築に向けて

日本経済の再生には、政府、企業、そして学術界が一体となった取り組みが必要です。それは、過度な市場原理主義でもなく、また単純な保護主義でもない、真の意味でのイノベーション志向の経済システムの構築を意味します。

シュンペーターの思想は、このような新しい経済システムの構築に向けて、極めて重要な示唆を与えています。それは、競争と協調のバランス、長期的視点での投資、そして政府の戦略的役割の重要性を説くものです。今こそ、この偉大な経済学者の教えに立ち返り、日本経済の新たな発展の道筋を描く時なのです。

入門 シュンペーター 資本主義の未来を予見した天才 (PHP新書)

「創造的破壊」という言葉を聞いたことはありませんか。

「創造的破壊」というのは、例えばスマホがガラケーを駆逐したように、新しい製品や組織が生まれて旧い製品や組織を打ち負かすという、イノベーションの姿を表したものです。

この言葉を広めたのは、ジョセフ・アロイス・シュンペーターです(「ヨーゼフ・アロイス・シュムペーター」とも表記されますが、本書では、英語読みにならって「ジョセフ・アロイス・シュンペーター」と表記します)。

シュンペーターは、今日もなお、イノベーションの理論家として、大変人気の高い経済学者です。

もっとも、シュンペーターの著作は、およそ80年から100年も前に書かれたものです。

「そんな昔の経済学者によるイノベーションの理論を学んでも、現代の世界では役に立つはずもない」と思われるかもしれません。

しかしそれは、全く違います。

例えば、社会学者のフレッド・ブロックは、2017年の論文‘Secular stagnation and creative destruction:Reading Robert Gordon through a Schumpeterian lens’の冒頭で、次のように書いています。

「七十五年後に、シュンペーターの『資本主義・社会主義・民主主義』に立ち戻ること は、骨董いじりなどではまったくない。その反対に、現代の我々が置かれた政治経済状況を理解しようとする者にとっては、決定的に重要なことである」

ちなみにこのブロックという人は、2013年に、『ニュー・リパブリック』誌の「イノベーションに関する最も重要な三人の思想家」にも選ばれた研究者です。

シュンペーターの古典的著作は、現代のイノベーション研究の最先端を走る研究者たちに、今もなおインスピレーションを与え続けているのです。

そこで本書は、このシュンペーターの主な著作について、初心者でも分かるように平易に解説します。

ただし、シュンペーターの著作の解説だけではなく、シュンペーターの影響を受けた現代の理論についても紹介していきます。

そうすることで、シュンペーターの理論が、今日の資本主義の本質を理解する上でも極めて有効だということを明らかにします。

そして、日本経済が長い停滞に陥り、日本企業がイノベーションを起こせなくなった理由についても、はっきりすることでしょう。

その理由は「シュンペーターの理論とは正反対のことをやり続けたから」です。これに尽きます。

ですから、今こそシュンペーターを学ぶ必要があるのです。

『入門シュンペーター』「はじめに―シュンペーターのここがスゴい!」より抜粋、一部改変


政策の哲学 (集英社シリーズ・コモン) 単行本 – 2025/1/24

■哲学なき経済学は、何を間違えたのか?
■異能の官僚が切り拓く、新たな「知」が日本を救う!
■絶賛!
周到にして大胆、理論的かつ実践的、
根源的かつ論争的な、比類なき哲学書。
――佐藤成基(法政大学教授)

【内容紹介】
なぜ世界経済は停滞し、どの国でも政治の不在を嘆く声が止まず、国家政策は機能していないのか――。
その理由は政策の世界で覇権を握っている主流派経済学の似非科学的なドグマにある。不確実性に満ちた世界で、とりわけ多中心性と複雑系によって特徴づけられる複合危機の時代において、社会の実在を無視した経済学に振りまわされた政策は毒でしかない。
そうした経済学の根源的・哲学的矛盾を衝き、新たな地平を切り拓くため、異能の官僚が批判的実在論を発展させた「公共政策の実在的理論」を展開する。
【著者プロフィール】
中野剛志 なかの・たけし (評論家)
1971年生まれ。東京大学教養学部卒業後、通商産業省(現・経済産業省)に入省。2003年にNations and Nationalism Prize受賞。2005年エディンバラ大学大学院より博士号取得(政治理論)。主な著書に『日本思想史新論』(ちくま新書、山本七平賞奨励賞)、『富国と強兵』(東洋経済新報社)、『TPP亡国論』(集英社新書)など。主な論文に‘Hegel’s Theory of Economic Nationalism: Political Economy in the Philosophy of Right’(European Journal of the History of Economic Thought), ‘Theorising Economic Nationalism’ ‘Alfred Marshall’s Economic Nationalism ‘(ともにNations and Nationalism), ‘“Let Your Science be Human”: Hume’s Economic Methodology’(Cambridge Journal of Economics), ‘A Critique of Held’s Cosmopolitan Democracy’(Contemporary Political Theory), ‘War and Strange Non-Death of Neoliberalism: The Military Foundations of Modern Economic Ideologies’(International Relations)など。

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