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『ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由』古屋 星斗

概要

働き方改革やパワハラ防止法などの法整備が進み、職場環境が大幅に改善された現代日本。しかし、若者たちの離職率は高まる一方です。本書では、「働きやすい職場」が若者にとってなぜ「働きがい」を生まないのか、そしてなぜ職場が「ゆるい」と感じる若者が不安を抱え、離職を選ぶのかを多くのデータと実例をもとに解説しています。若者の多様化、職場運営の変化、新しい人材育成のアプローチを学ぶことができる本書は、若手社員を採用・育成する企業や人事担当者だけでなく、未来のキャリアを考える若者自身にも役立つ一冊です。

本のジャンル

ビジネス、メンタル・マインドフルネス、キャリア

要約

1. 「ゆるい職場」の登場とその背景

2010年代後半、ブラック企業批判の高まりを受け、日本では働き方改革が急速に進みました。2015年の若者雇用促進法、2019年の働き方改革関連法、2022年のパワハラ防止法など、企業に求められる基準が引き上げられた結果、多くの職場が「働きやすい」環境へと変化しました。残業は減少し、有給休暇は取りやすくなり、理不尽な叱責はほぼ消え去りました。

しかし、この「ゆるい職場」が若者に安心感を与える一方で、新たな不安も生み出しました。若手社員は、「成長実感が得られない」「この職場でしか通用しないのでは」といった漠然とした不安を抱え、離職を選ぶことが増えています。

2. 若者の不安と「不安型転職」

従来、若者の離職理由は「ブラック職場」や「過重労働」による「不満型転職」が主流でした。しかし現代では、「ゆるい職場」での「成長の停滞」や「キャリアの閉塞感」への不安を理由に転職する「不安型転職」が増加しています。

• データで見る若者の不安
若手社員のうち、「このままでは転職できなくなるのではないか」「市場価値が上がらないのではないか」と不安を感じる人は75.8%に上ります。また、「職場がゆるい」と答えた若者ほど短期離職を選ぶ傾向が強く、57.2%が2〜3年以内の退職を考えています。

• リアリティショックの縮小
職場環境が改善されたことで、入社前後のギャップ(リアリティショック)は低下しました。しかしその一方で、若者は「過度に守られている」状況に対して閉塞感を覚えるようになっています。

3. 若者の二層化と社会的経験の影響

若者たちは「社会的経験を持つ層」と「経験の少ない層」に分かれる二層化が進んでいます。学生時代にインターンや起業経験を持つ若者は、入社時点ですでにキャリア観やスキルに大きな差を持っています。
この違いが育成の難易度を高め、従来の画一的な方法では若手社員を成長させられない状況を生んでいます。

• 社会経験と不安の関係
社会経験が豊富な若者ほど「もっと成長できる環境があるのでは」という期待を抱き、不安も高まりやすいことがデータから分かっています。

4. 人材育成の2つの難問

著者は、現代の職場が抱える人材育成の課題を次の2つに集約しています。

難問1
関係負荷を避けつつ、質的負荷を与える

関係負荷(人間関係のストレス)を避けつつ、せのびが必要な質的負荷(成長を促す難しい仕事)を与えることが重要です。そのためには、以下のようなアプローチが効果的です。

• 横の関係で育てる
若手社員だけでチームを組ませ、問題解決や成果達成を経験させる。

• 目標の明確
具体的な目的と期限を設け、若手社員が達成感を得られるタスクを与える。

難問2
自律的な若手の離職を防ぐ

自律的でパフォーマンスの高い若者ほど、魅力的な職場があれば転職を選ぶ傾向があります。

• 社内に「外側の世界」を作る
NTTグループの「オーデン」のように、社内で副業的なプロジェクトやコミュニティ活動を促進することで、外部への興味を社内で満たす環境を作ります。

• 不安のマネジメント
若者が抱える漠然とした不安に対して、ロールモデルや具体的なキャリアパスを提示することが重要です。

5. ゆるい職場と新しい日本社会

「ゆるい職場」が増える中で、日本社会は「働きやすさ」だけでなく「働きがい」を追求する時代へと移行しています。本書では、企業が若手社員に与えるべき「成長の余地」と「多様なキャリア選択の自由」を提示しています。

まとめと感想

『ゆるい職場-若者の不安の知られざる理由』は、現代日本における「働きやすい職場」がもたらす新たな課題に鋭く切り込んだ一冊です。データに基づく分析だけでなく、若者のリアルな声を多く紹介しており、理論だけではなく現場感覚にも即しています。

職場が「ゆるい」からこそ生まれる若者の不安や離職傾向は、これからの企業経営において避けては通れない問題です。本書を読むことで、企業や人事担当者はもちろん、若者自身も「自分のキャリアをどう築いていくべきか」のヒントを得られるでしょう。

本書の口コミも高評価で、「若手育成に役立った」「若者の心理が分かった」といった声が多く見られます。人材育成やキャリア形成に関心のある方には、ぜひ一読をおすすめします。

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