『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』三宅香帆
概要
本書は、働き始めてから読書や趣味を楽しめなくなった理由を歴史的視点から解き明かし、日本の労働文化が抱える問題点を浮き彫りにした一冊です。著者の三宅香帆さんは、自身も兼業で執筆活動を続けてきた経験から、「働きながら趣味や文化的活動を楽しむことは可能か」という問いに挑戦します。本書では、明治時代から現代までの「仕事と読書」の歴史を振り返りつつ、労働者階級とサラリーマン階級の分断や自己啓発書が煽る労働観の変化、さらには現代社会における「全身全霊」型の働き方への警鐘を鳴らします。読書が単なる趣味にとどまらず、人間の豊かさを支える活動であることを再認識させられる内容です。
本のジャンル
自己啓発、ライフスタイル、社会問題
要約
序章:労働と読書は両立しないのか?
著者は、働きながら読書や趣味を楽しめなくなった自身の経験を起点に、「労働」と「読書」の関係を掘り下げます。序章では、現代社会において仕事が趣味や自己成長の障壁となっている背景を明らかにします。多くの人が「時間がない」や「疲れている」といった理由で読書から遠ざかる一方で、SNSや動画視聴には時間を割いてしまう。この矛盾を、著者は「読書が社会的なノイズとして扱われる風潮」にあると指摘します。
第一章:自己啓発書が煽る労働観(明治時代)
明治時代、日本は西洋の近代化を模倣する中で、労働を美徳とする文化を形成しました。この時期に登場した自己啓発書の多くが、勤勉さや成功への努力を美化し、労働を自己実現の手段として捉える価値観を広めました。特に福沢諭吉の『学問のすすめ』や中村正直の翻訳書『西国立志編』が代表的です。これらは「働けば成功する」という夢を与える一方で、趣味や文化活動を「非効率的」と捉える風潮を作り出しました。
第二章:「教養」と階級の分断(大正時代)
大正時代、サラリーマン階級と労働者階級の分断が進む中で、「教養」は階級を象徴するものとなりました。サラリーマンが文芸誌や教養書を嗜む一方、労働者は日々の生計に追われ、読書の機会を奪われていました。この時代の読書は、労働環境や収入によって可能か否かが左右されるものであり、文化的活動は一部の特権階級に限定されていたのです。
第三章:サラリーマンと「円本」の時代(昭和戦前・戦中)
昭和初期には、「円本」と呼ばれる安価な文庫本が流行しました。この時代、サラリーマンは教養の象徴として読書を楽しむ余裕を持ちながらも、次第に戦争の影響で労働時間が延び、文化的活動の時間が減少していきます。特に戦中は、国家が個人の時間を戦争のために管理するようになり、読書や趣味は「奢侈」として抑圧されました。
第四章から第六章:高度経済成長と読書の黄金期(1950~1980年代)
戦後の高度経済成長期には、サラリーマン文化が成熟し、読書が再び活気づきます。特に司馬遼太郎や松本清張などの作家が、サラリーマン層をターゲットにした文庫本を多数出版しました。一方で、1980年代には女性向けカルチャーセンターや自己啓発書が広がり、読書が「実用的価値」と結びつけられるようになります。この時代、「楽しむための読書」から「役立つための読書」への移行が進んだのです。
第七章から第九章:効率化とアイデンティティとしての仕事(1990年代以降)
バブル崩壊後、日本は効率性と成果主義を重視する社会へと変わりました。1990年代以降、読書は「非効率的」と見なされることが増え、特に若い世代はSNSや動画コンテンツに多くの時間を割くようになります。また、2000年代以降、仕事が個人のアイデンティティの中心となり、趣味や文化活動が後回しにされる風潮が加速しました。
2010年代に入ると、さらにデジタル化が進み、人々は短い情報を消費することに慣れていきます。結果として、読書のような「深く考える時間を要する活動」は減少し、多くの人にとって「贅沢」とされるようになりました。
最終章:「全身全霊」をやめませんか
著者は、本書を通じて「全身全霊で働く」文化を見直すことを提案します。全力で仕事に取り組むことは一見美しい行為に見えますが、実際には精神的な負担や燃え尽き症候群を引き起こし、長期的には社会全体の活力を損なう原因となります。
「半分の力で働く」「効率や成果だけを追わない」「読書や趣味を取り戻す」といった具体的な提案を通じて、読者に新しい働き方と生き方を提示しています。
まとめと感想
『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』は、働き方改革が叫ばれる現代において、働くことと文化的活動の関係性を見直す貴重な一冊です。本書の魅力は、単に問題を指摘するだけでなく、歴史的背景を掘り下げながら解決策を示している点にあります。「読書が人生のノイズ」とされがちな現代において、著者の提案する「全身全霊をやめる働き方」は、多くの人に共感と新しい気づきを与えるでしょう。
また、本書は読書の楽しさや労働観の再考を促すだけでなく、「読書は贅沢ではない」というメッセージを伝えています。多忙な日々に追われる方も、本書を手に取ることで、自分らしい生き方のヒントが得られるはずです。興味を持たれた方は、ぜひリンク先の詳細をご覧ください。口コミでも高評価を集めており、読者からは「視点が変わった」「自分を見つめ直すきっかけになった」との声が寄せられています。