午郎’S BAR 3杯目 丸善のBC
間違いなんだけど・・・
先日私の知り合いから丸善のブックカバーの所在地に今でも店舗があるのか?との質問が来ました。奥さんが店員さんに「この所在地に店があります」と言われたそうです。
最近ネットで本を買うことも増えたが、何冊かは我が家に丸善のブックカバーの付いた本があったので、デザインを見返してみた。あぁ、そうだった。このブックカバー、世間にあまり知られていない落とし穴があったんだっけ、と言うことを思い出したので、ちょっと丸善のブックカバーについて書いてみます。
結果的に集まったブックカバー
今から数年前、私は仕事で全国の書店を見て回った時期がありました。その当時在籍していた丸善での広告扱いを親会社である大日本印刷と進めていた過程で、お客様から「丸善以外の書店でも同じことが出来ないのですか?」とのお問い合せをいくつかいただいたことがきっかけでした。
丸善は確かに書店業界では大きな存在ではあったものの、店舗運営は20店舗強しか行っておらず、且つそのほとんどが首都圏に集中しており、クライアントにとってみれば書店での広告事業には興味があるものの、限られた地域でしか実施できない媒体、という印象はどうしても拭えなかったようです。
そこで上司と相談し、全国の主要書店に広告事業での協力を求めることになりました。とはいえ、そう簡単なものでもありません。一体全国のどの場所に「広告に適した店があるか?」を我々は全く認識していなかったからです。
一旦全国の書店チェーンをリストアップし、そこから優先順位をつけて、
①そのチェーンの店舗を視察 広告媒体としての価値をその目で確かめる
②その後、該当書店にの経営者に連絡し、広告事業での連携が可能か打診
③OKが出た場合、その名前や主要店舗名を大日本印刷発行の媒体資料に記載
という順で進めました。
①は本当に北は北海道、南は鹿児島まで、まずは主要都市のチェーンを回ることから始めました。
ところが悲しいことに元来の本好き。視察に行くと本を買いたくなる。それを繰り返しているうちに、視察で回った書店のブックカバーが自然と我が家に集まってしまいました。
丸善に就職してその当時約20数年、本はほとんど丸善でしか買ったことのない我が家の本棚に、丸善以外の書店のブックカバーに包まれた本が並ぶ。
実にさまざまなデザインのブックカバーがあることに気づきます。
私にとって印象に残っているブックカバーは何といっても高校時代わざわざ自転車で往復2時間以上かけて通った「平安堂」のブックカバーです。
しかし、大学が函館だったこともあり、その後はあまりブックカバーに興味を持つこともなく、丸善に就職し、そして丸善以外のブックカバーはある意味「競合相手」でしかなくなっていました。
そしてある日を境に丸善以外のブックカバーが山ほど目の前にあると、却ってこう思うようになりました。「丸善のブックカバーは本当に秀逸だ」と。
珍しい白地のブックカバー
さて本題にようやく入りますが、では丸善のブックカバーのデザインは・・・
実は丸善のブックカバーは2種類あります。日本橋店限定のブックカバーとそれ以外の店で使われているブックカバーです。
前者は薄茶のベースに丸善のコーポレートマークである「マルエム」(アルファベット大文字Mの周りを丸で囲んでいるマーク)が、あたかも日の出のように登ってくるイメージのもの。これは丸善の基幹店である日本橋店が2007年にリニューアルした際に作ったカバーです。
余談ではありますが、その当時私の上司であった方は親会社である大日本印刷から丸善に出向してきた方で、親会社ではプロモーション関係の仕事を長年のされてきたこともあり「コーポレートマークを切るなんてあり得ない」と怒っていました。ところがこれはブックカバーとして折るとコーポレートマークが切れて見える、という裏がありました。私はこのデザインも意外と好きです。
そして後者は、白地に日本地図の略図を配し、丸善の全国ネットワークを示したもの。このブックカバー実は大変珍しい。
何が珍しいか?色々な書店のブックカバーを眺めて初めてわかったことだが、ブックカバーに白地を使っている書店はほぼない。よって我が家の棚でも丸善のブックカバーは一際目立つのです。
そもそもブックカバーには2つの目的があります。
①読んでいる本が何なのかが周囲の人にわからないようにする(目隠しのため)
②書店の広告塔→どこの書店で買ったかがある程度周囲に認識される
②は副次的な目的なのですが、①が肝心です。しかし、白地の場合意外とよく目を凝らせばタイトルが透けて見えてしまいます。それ故にブックカバーに白地を使う書店はほとんどないのでしょう。(あくまで個人的推察でしかありませんが)
それをあえて白地を使うことで②の効果を最大限に引き出しているように感じるのですが、これも多分推測ですが、もっと違った理由から白地にならざるを得なかったハズです。。
日本地図の意味
さてその白地に日本地図のブックカバー、あのデザインの意味は前述の通り、丸善の全国ネットワークを示すものであるのですが、あの地図に配されたマークにも意味があります。
マークは全部で4つ。
①白地の二重丸、Mマーク これは本社所在地を指す
②黒地の二重丸、白抜きM これは丸善の支店所在地を指す
③黒地の中に白丸 丸善の店舗所在地
④黒丸のみ 丸善の営業所所在地
という構成。
多分これは丸善関係者しか認識していないと思います。(ネットにも正確には書かれていませんでした)
ここで冒頭の知り合いの質問にお答えします。
これは上記の③を検証してみれば一目瞭然。
③の場所は北から、盛岡、柏、北千住、津田沼、舞浜、静岡、浜松、関空。
現在この中で残っているのは津田沼と舞浜のみ。つまりある時期からこの日本地図にある丸善所在地は更新されていないのです。
そもそも上記の四つの区分はなんなのか、という話をしないといけません。
丸善と言う会社はもともと店舗を運営する「店舗事業部」と、大学等に本を中心とした営業をする「学術情報ソリューション事業部」(通称学情)、その他数事業部を持つ会社でした。それらすべての事業部の所在地をブックカバーのこの地図に凝縮していたのです。
①は全事業部②もほぼ全事業部③は店舗事業部④は一部(姫路)を除いて学情、という構成です。
このブックカバーを使うのは店舗事業部だけではなく学情でも使うケースもありました。そして所在地が変わったり、店の開閉店があった場合はアップデートしていたのですが、
2010年、丸善㈱は2つの事業部を分社化し、丸善(主に学情他外売セクション)、丸善書店(店舗事業部)、丸善出版の3つにわかれました。つまりこのブックカバーを使っていた事業部が違う会社に分かれたことになります。その時点でこの地図の「アップデート」は終わっているのです。
尚且つその後、丸善は雄松堂書店と経営統合し、丸善雄松堂になり、その時点で「丸善㈱」という会社は消え(事業継承はされていますが)、更に丸善書店もジュンク堂書店と経営統合し、丸善ジュンク堂書店となり(但し、店舗の屋号として丸善は残ってはいます)、にも拘らずブックカバーには以前の丸善のロゴがそのまま残り、今でも使われているわけです。
丸善のこだわり?
このブックカバーデザインには丸善の二つの拘りがある、と私は推察しています。
①日本地図の黄色
②なぜある?Co,LTD.
丸善のコーポレートカラーは「青」。しかしこのブックカバーには何も使われていない。日本地図の黄色はきっと梶井基次郎の「檸檬」から来ているのでは?と考えています。そもそも同作で扱われている丸善は主人公から見ると爆破したいようなモノであった、そんな扱いであったにも拘らず、やはり丸善にとって檸檬という作品は特別なものなのだと思います。
そしてアルファベットで書かれた「MARUZEN CO,LTD.」。これは如何にも不自然です。丸善の店の看板にもCO,LTD.は入っていない。なぜこれが入ったのか?これも推測ですが、丸善が日本初の株式会社であったことが関係している、というより、それが丸善の誇りでもあるわけで、それをブックカバーに端的に表現したのではなかろうか、と。
最後までわからない「白地」になったわけ
ではなぜ白地になったのか?
これはブックカバーありきで考えるとわからないもので、そもそも丸善のブックカバーは包装紙から転用したものです。包装紙だからタイトルが透けて見えるとかそのあたりを考えずにデザインしたのではなかろうかと。ちなみにこのブックカバーのデザインは昭和27年から使われているようで、なぜ白地になったのかも推測の域を出ないのですが、これは誰か教えて欲しいと思います。
30数年お世話になった故に知っていることもあり、これを機に丸善のブックカバーに興味を持ってくれる方が増えれば、少しは恩返しもできるかな、と思います。
3杯目 デザインの秀逸性ならMonkey Shoulder
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