本屋発注百景vol.4 パン屋の本屋
「本屋×ベーカリー」組み合わせの妙
ここ2回は今野書店、書泉グランデと歴史のある本屋を取材してきたが、今回訪れた本屋は比較的あたらしい店だ。日暮里にある「パン屋の本屋」である。
日暮里駅の東口を出て住宅街の方へしばらく歩くと見えてくる三角屋根の建物がパン屋の本屋のある商業施設「ひぐらしガーデン」だ。コの字型の建物は、手前がパン屋部分のひぐらしベーカリーで、奥がパン屋の本屋となっている。
ガラスの引き戸が入り口で段差がほとんどなく、外に自然に開かれているのが印象的だ。パン屋併設だけあって、営業時間は10時~17時と早めであるが、取材に訪れた9時の時点でベビーカーを押して子連れで入ってくるお客さんが多かった。
さて、今回話を聞いたのは店長の近藤裕子さん。大学時代は書店員のアルバイトを4年間、卒業後は一度編集者になったが退職して地元の本屋に10年間勤め、2015年に店舗縮小に伴い転職。図書館勤務となるが、やはり本屋に戻りたいと思うようになった。そのタイミングでパン屋の本屋が書店員を探していることを知り、すぐに応募。
現・蟹ブックスの店主で、『出会い系サイトで70人と実際に会ってその人に合いそうな本をすすめまくった1年間のこと』(河出書房新社)の著者でもある初代店長の花田菜々子さんから引き継いで店頭に立つようになった。
パン屋の本屋の一日
――朝早くからありがとうございます。いつも早くに来ているんですか?
近藤 毎日8時半には出社していますね。朝来たら届いているダンボールを開けて検品し大まかに棚の前に並べます。雑誌や新刊、注文した本ですね。
10時のオープン以降は接客しながら品出しつつ入荷のSNS投稿、それに売上のチェックをしながら発注作業もします。お客さんからの注文も多いのでとにかく忙しいです。
――ひとりで回すのは大変ですね。
近藤 お昼ごはんも合間を縫って食べるので弁当は難しくて、パンや手作りのおにぎりを食べることが多いです。
午後は店内整理、フェアの選書、イベントの準備です。ひぐらしベーカリーと共同で絵本のキャラを象ったパンを開発したり、著者さんをお呼びして中庭でトークショーを開いたり。他にもたくさんありますが、そういったイベントのための企画ややり取りをしています。
――休む暇もないですね。
近藤 いまはとにかくゆっくり考える時間がほしいです。あっという間に17時(閉店時間)になるので、精算と掃除をして18時半頃に帰ります。以前の職場では終電のことも多かったですが、ここに来てからは早くなりました。
パン屋併設書店に聞く「発注、どうしてる?」
書店員の話を聞くと常に忙しそうだ。品出し、発注、接客、イベント企画……。そんな目まぐるしい毎日の中で毎日200点は出版されるという本の中から自分の店に合った本を選ぶのは大変なことだろう。筆者も店をやっていて本屋というのは大変なのだと思い知ることが多い。
特に、品揃えについてはまだまだだと思うことばかりなのだが、パン屋の本屋の棚は気持ちがよかった。端的に言えば店に合っていた。パン屋併設で、生活の街で、お母さんとお子さんが多くて、そんな街で手頃な大きさの本屋を開くとならこんな本があって欲しい。そんな感じの品揃えである。
店の半分は絵本など子どもの本で、もう半分に雑誌、旅、食、くらし、からだ、女性の生き方などゆるやかなジャンルごとに棚が分かれている。
――仕入れはやはり大取次さんからですか?
近藤 トーハンさんからです。と言っても大型書店のように配本があるわけではなく一冊ずつ選んで発注しています。BookAnswer Ⅳ(※)で売上を確認して、TONETS VやBookインタラクティブなどを通して既刊の補充注文をしています。
――発売前の近刊はどうしていますか?
近藤 トーハンさんが少し前から「en CONTACT」(エン・コンタクト)(※)というサービスを開始していてそれで事前申込をすることもありますが、まだ開始から間もないので出版社さんが限定されているんですね。なので、トーハンの担当者さんからいただいたエクセルのフォーマットに欲しい本を入力してメールしています。
――近刊情報はどこから取っていますか?
近藤 出版社の営業さんから直接伺ったり、メールを頂戴したり、DMで知ることもありますね。これは絵本の取り扱いが多いからかもしれません。余談ですがいまだに注文書がFAXなのは納得できないんです。FAX自体は使わないにしてもなぜか仕様がFAXのままだったり。
――それは今まで取材していて僕も思いました。情報を知らせたいのであればDMのほうが情報量が多いですしメルマガもあります。注文もメールでできますし、今だったらWeb受発注システムがありますから。
在庫の流れがわかるようにしてほしい
――BookCellarはどうやって使っていますか?
近藤 はじめはトランスビュー取引代行に参加している出版社に注文するときに使っていましたが、近頃は近刊予約での利用もはじめました。
――今野書店さんの回で書きましたがBookCellarを通して大取次さんに近刊の発注もできますからね。
近藤 そうなんです。それと、これは要望なのですが、注文時にその本の残数と発注数を入力できるようにしてほしいんです。というのも、Bookインタラクティブにそういう機能があって、入残を入力しています。そうすると、注文しようとしていた本について、本屋は数字を意識するし、出版社さんにフィードバックもできます。
発注するときはなるべく返品したくないと思っているんです。そのためには感覚ではなく、ちゃんと数字で出版社さんにお願いするようにしたい。「以前に85冊注文していま13冊残っているから今度は何冊注文しよう」といったようにしているんです。
――出版社さんにとっても具体的な数字をもとに話せるというのは心強いでしょうね。
近藤 実はもうひとつ要望があって……拡材をいただくことも多いのですが、拡材よりも見本のほうが嬉しいんです。少し前にしかけ絵本の見本がぼろぼろになってしまったので出版社さんにお願いして取り替えたところすぐにその本が売れたんです。
――しかけ絵本は特に手にとって確認したいですよね。
近藤 週末で2冊ずつ売れるような本なのでそれ(見本を取り替えてくれたこと)はありがたかったですね。
BookCellarでこの本発注しました
――BookCellarで発注した本の中で印象的だった本をお願いします。
近藤 この前、BookCellarで事前注文したのが『ぱんぱんでんしゃ』(フレーベル館)ですね。ちゃんと注文通りに来てくれました。あとはよく動くのが『とびだすえほん たべるのだあれ?』(東京書店)や『たぷの里』(ナナロク社)ですね。
そろそろプレゼントのシーズンですがプレゼントといえばグラフィック社さんの『ちいさな手のひら事典』シリーズです。週に1冊は売れています。たくさんの種類が出ていますので季節によってラインナップを変えるようにしています。ラッピングもいたしますよ。
――やはりかわいい本が売れるのですね。最後に、お知らせしたいイベントなどありましたらお知らせください。
近藤 10月28日(土)の10時から、絵本ソムリエの「サンプルパパ」さんがご来店、特別なおはなしかいを開催します。かわいいバルーンアートもつくってくださる予定です。お天気により、中庭もしくは本屋の店内で行います。ご参加は無料です。当日直接ご来店ください。
また、10月29日(日)には昨年ご好評いただきました製本ワークショップを開催します。小さな本を組み立てながら、本のつくりを学ぶことができます。シールやはんこ、マスキングテープで、かわいい本をつくりましょう。小さなお子さんから、大人の方まで、ご参加大歓迎です。
取材日:2023年9月21日
取材・文・写真 和氣正幸
パン屋の本屋で売れた本
『ぱんぱんでんしゃ』(フレーベル館)
『とびだすえほん たべるのだあれ?』(東京書店)
『たぷの里』(ナナロク社)
『ちいさな手のひら事典』(グラフィック社)
BookCellarをご利用いただくと、パン屋の本屋、近藤さんが記事内にて紹介した本を仕入れることができます。
注文書はこちら。
本屋発注百景とは
本屋さんはどんなふうに仕入れを行い、お店を運営しているのか。本屋発注百景は、独立書店、まちの本屋、本屋+αの業態、チェーン系書店まで、様々なお店の「発注」にクローズアップする連載企画です。取材は、独立書店ウォッチャーであり、ライター・書店主の顔をもつ、和氣正幸さんにお願いしました。「本を仕入れる」という単純なようで奥の深い営みを続ける6つの書店の風景をお伝えできますと幸いです。