本屋発注百景vol.10 Cat's Meow Books
猫と本屋が助け合う店
本屋の世界、特に新刊書店で専門店と言えば、写真集、料理、旅の本あたりが思い浮かぶところだろうが、ここ10年で少しずつ増えてきた種類の専門店がある。猫の本だ。
開業は1980年だが2012年から猫の本をメインに取り扱うようになり有名になった「猫本専門 神保町 にゃんこ堂」(姉川書店)、2013年にネット書店を開業し2018年12月には実店舗も開いた書肆吾輩堂、2022年8月に立川でオープンしたnecoyabooks(ネコヤブックス)……。
そんな中でも特に有名なのが今回取り上げるCat's Meow Books(キャッツミャウブックス)だ。オープンは2017年8月。「猫が本屋を助け、本屋が猫を助ける店」と同店の開店までの経緯を描いた『夢の猫本屋ができるまで』(ホーム社)にはあるが、どういうことかというと、猫が看板猫としてお客さんを呼び寄せ、そうして販売した本やビールなどの売上の10%を保護猫の活動団体に寄付しているというスタイルの店なのである。
専門店なので当然販売される本はどれも猫の本ばかりではあるのだが、おもしろいのが直接的に猫を扱った本(写真集や飼い方の本など)だけでなく、「猫」が一文字でも出てくればすべて猫の本として取り扱っていることだ。だから、小説やエッセイなど一見猫とは関係のなさそうな本でも、そのどこかには猫が出てくる。探しながら読んでみるのも面白いだろう。そうやって楽しんでいるうちに読書の幅が広がっていくそんな本屋なのだ。
場所は三軒茶屋駅から歩いて10分程度。住宅街の中だ。ドアを開けて中に入ると店内は2つのスペースに分かれる。手前の新刊のみのスペースと、引き戸の奥にある古本も並びギャラリーでもあり猫店員たちがいる場所でもあるスペースだ。
お話を伺ったのはその奥のスペース。猫店員たちがお昼寝している中、店主の安村正也さんに話を聞いた。
猫の本専門店に聞く 発注、どうしてる?
――専門店の方に(本屋発注百景として)取材するのははじめてなのですが、発注についてどうしていますか?
安村 本が売れたらすぐ補充するようにしています。専門店なので猫の本として一度仕入れたものは切らさないようにしたいんです。
とにかくスピードが大事なので、一冊しかない本が売れたら、うちは日販帳合ですのでNOCS7で検索して、すぐに入荷できそうであれば掛率を考える前に注文しますね。
――お店が住宅街の中だと配送に時間がかかりませんか?
安村 委託配本でなく一冊ずつ客注扱いで注文していますし、日販の配送ルートではないこともあり、以前は3日に1回程度の入荷でしたが、いつのまにかSBS即配便※を使って毎日送ってくださるようになりました。
――他にはどんなシステムを使っていますか?
安村 時々ですがNOCS7では版元在庫があっても表示が品切れになっていることがありますので、そういう場合はs-book.netやWebまるこ、Bookインタラクティブ、WebHotLineなどでも探します。ただし、日販経由の着荷予定日が一週間以上先で、子どもの文化普及協会でも取り扱いのある版元の場合は、子ども文化普及協会への発注を優先します。発送される曜日が週2回で入荷の目途を立てやすいですからね。
とにかく早く補充できるところで注文しています。
――JRCや八木書店、地方・小出版流通センターはどうでしょうか?
安村 注文から入荷までの間が長いということもあり口座を持っていないので、NOCS7経由で利用しています。
――ではBookCellarについてはどうでしょうか?
安村 取り扱いがトランスビュー取引代行だけの時代から利用していますが、最初の頃は猫の本の取り扱いが少なかったので利用頻度も多くありませんでした。
ですが、近頃はねこねっこや月とコンパス、KISSA BOOKSなど猫の本を出す出版社もあるのでよく利用するようになりました。NOCS7は事前注文ができない契約なので重宝していますね。ちなみにBookCellarでも確保できない場合は一冊!取引所にお願いしています。
――一日に200点以上も新刊が発売される中でどうやって猫の本を見つけているのですか?
安村 NOCS7や子どもの文化普及協会のサイトで「猫」で検索しています。そのほかにもXアカウントの悪漢と密偵(@BaddieBeagle)さんや猫の泉(@nekonoizumi)さんは近刊情報をポストしているのでチェックしていますね。出版社の営業さんから情報をいただいたり、お客さんでもある作家さんから「次の本は猫出しますよ」と伺ったりすることも多いです。それに妻がネット探偵なんですよ(笑)インターネットで猫の本を探してくれています。
――新刊注文もした上で売れた本はすぐ補充するとなるとスペースが足りなくなりませんか?
安村 増えていく一方ですね。ですが売れるものも多いですし、かさばるものはあまり置かないようにしています。いかに幅広く猫の本を置いていけるか。逆にお客さんから問い合わせがあった時に在庫がないときはその理由も含めて自信をもって言えるように現在の品揃えをきちんと把握するよう気を遣っています。
猫本屋の一日
――一日の動きについてお聞かせ下さい。
安村 猫店員たちの朝ご飯が7時半なのでそこから動き出します。2階が自宅なのですが、1階に降りて掃除をして、10時頃には前日までに発注した本が届くので品出しをしていきます。
10時には自分たちで朝ごはんと昼ごはんをまとめて食べます。そうして11時には開店です。
――開店後はどうされていますか?
安村 1時間毎に妻と店番を交代しています。とはいっても交代しても休みというわけではなく、2階の自宅で補充注文やオンラインストアへの登録作業、発送作業などしているので結局仕事していますね。
――在庫管理はどうしていますか?
安村 Xにポストしたものをオンラインストア(STORES)に登録し、それをそのまま実在庫としています。店のレジはスマレジなのですが連動していないので、売れるたびにSTORESのデータに反映させなければいけないのは面倒ですね。
ですが、売れた感覚を身体感覚として覚えておきたいのであえて面倒さを残しています。
――売上はどうでしょうか?
安村 ネットと店頭で半分半分といったところですね。ネットで予約注文を募ると100冊~200冊の予約が入るタイトルも結構あるんですよ。
――それはすごいですね。
安村 固定ファンの付いている著者の本や、限定グッズが付いている場合などですね。それでも発注は難しくて、肌感覚では50冊売れそうだと思いつつも注文したのは10冊というときに限ってすぐ売れてしまったりします。
――発注数は永遠の課題ですよね。
BookCellarでこの本発注しました
――BookCellarで発注した本の中で印象的だった本を挙げていただけませんでしょうか?
安村 先ほども挙げたねこねっこさんの本で『猫の病気のサインがわかる図鑑 ~体調不良や痛みを見逃さないために』ですね。動くときは10冊くらいすぐに売れちゃいます。
ほかにもKISSA BOOKSの『ウラオモテヤマネコ』をはじめとした絵本、月とコンパスの『Je suis là ここにいるよ』、本の種出版の『ねこのひとりごと』も動きますね。
Cat's Meow Booksイベント情報(2024年5月~6月)
■5月2日(木)~5月19日(日)
『それはわたしが外国人だから?』(ヘウレーカ)金井真紀原画展
■5月22日(水)~6月9日(日)
『きみがいるから』(マイクロマガジン社)はしもとみお原画展
『特撮に見えたる妖怪』(文学通信)刊行記念化け猫本フェア
■6月12日(水)~6月30日(日)
『ねこの5ふんご』(白泉社)ハラミチヨ個展
各イベントの最新情報は、公式Xにてご確認ください。
Cat's Meow Booksで仕入れた本・売れた本
『猫の病気のサインがわかる図鑑 ~体調不良や痛みを見逃さないために』(ねこねっこ)
『ウラオモテヤマネコ』(KISSA BOOKS)
『Je suis là ここにいるよ』(月とコンパス)
『ねこのひとりごと』(本の種出版)
BookCellarをご利用いただくと、Cat's Meow Books・安村さんが記事内にて紹介した本を仕入れることができます。
注文書はこちら。
「本屋発注百景」とは
本屋さんはどんなふうに仕入れを行い、お店を運営しているのか。様々なお店の「発注」にクローズアップして取材する月イチ連載企画です。
過去の連載もこちらからどうぞチェックしてみてください。
取材日:2024年3月22日
取材・文・写真 和氣正幸