【本113】『手のひらの音符』
著者:藤岡陽子 出版社:新潮社
この物語は、主人公・水樹が、恩師のお見舞いで帰省することを機に、幼少期を思い出すことで話が展開していきます。現在と過去を行き来しながら、服飾デザイナー(リストラ予定)として働く自分を振り返ります。苦しいなかでも諦めなかった力、支え合った友人・信也、背中をおしてくれた恩師、いろんな記憶が甦るなかで、自分の姿が浮き彫りになっていきます。
「諦めない心の先に、何かがあるかもしれない」
同じ団地で家族のように育った水樹も信也もその兄弟も、みな、貧しさや家族の問題を抱えており、決して穏やかな幼少期を過ごしていませんでした。でも、一生懸命「自分なりの闘い方」でもがき、生きていきます。
諦めない。
それは、決して瞬間的なギラギラする力ではありません。20年という時を経て、静かに粘り強く諦めなかった自分、そして、信也、その弟・悠人の生き様に気づいていくのです。日々積み重ねる時間の重さを感じ、まっすぐに前を向いていたからこそ「頑張った自分」と思える強さを感じます。じんわりと心に沁みる物語です。
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