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【読書感想文】ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか? ~不便益という発想
ごめんなさい、もしあなたがちょっとでも行き詰まりを感じているなら、不便をとり入れてみてはどうですか? ~不便益という発想
(川上 浩司 著)
要約
「不便益」に関する本。
ふつうの人なら、不便=わるいこと、と考えてしまいそうなところを、「あえて不便にすることによって益を得る」という考えを提案している本です。
ただし「便利」を否定する話ではありません。
不便にして益が無いなら、便利な方が良い、でもあえて「不便」を改めて考えてみることによって、そこに益が発見されるなら「不便」を取り入れることを勧めていると解釈しました。
本よりいくつか例を挙げます。
安全工学の研究者は、機械側に安全装置という「便利」を安易に付けることが、人間側を安心させて危険行動を誘発するのでは、と憂いていました。 ぶつかりそうになったら自動で停まってくれる車に乗っていれば、居眠りしたくなりそうですよね。これは便利の害であり、不便益の逆ですね。
観光学の研究者は、「簡単にはアクセスできないという不便」が、観光にも益を与えていると言います。 たとえば、アクセスしづらいところにある秘湯が人を惹きつける、という現象があります。(中略)
この「不便」を活用して、あえて観光客を道に迷わせ、「こんなところに、こんなものがあるんだ」という発見をしむけるナビゲーションなども考えられています。
自動化の弊害として、「ブラックボックス化」が長らく指摘されています。この「ブラックボックス化」のわかりやすい弊害の一つは、故障したときに手の施しようがなくなることです。
ITや科学技術、ロボットなどの進化が進み、どんどん便利な世の中になっています。このままいくと、仕事がロボットに奪われてしまうのではないか、という話題が頻繁にニュースにもなりますよね。(中略)「人に残されるのは、創造性を活かしたり社会性が求められる仕事であり、それは人間にとって楽しい仕事だ」と言い切る人もいます。これは本当でしょうか?
変わらずに済むのではなく、変わる機会を奪われている
感想
そもそも「不便益」に着目すること自体、私にとってはかなり新鮮な視点でした。
特に現在の仕事(特に、神に仕えていた期間)では、効率化や自動化など「便利」に着目することしかほとんどないので、そういった意味ではちょっと複雑な心境で読み進めた部分もありました。笑
とはいえ、「安全装置を無くすことで、却って人は安全に注意を払い、事故が減る」といった「不便益」には「なるほど確かに」と思わされます。
またモノゴトを不便にすることによって、人の主体性を引き出したり、好奇心を向上させたり。
確かに、すべてがブラックボックスだと面白くない、仕組みが知りたい、と思う知的好奇心高めの私には、納得できる部分も多かったです。
ここで思い出すのが、私が以前勤めていた機械メーカーでのこと。機械の操作の一部を自動化できる装置を組み込んだ製品がありました。顧客の大半はその製品を選ぶのですが、絶対に選ばないのが、学校系の顧客。敢えて、学びのために、ブラックボックスにさせていないのです。学生からしてみれば、「操作」をタスクとして習ってもなんの面白みもないことでしょう。それは実際に仕事に就いてからやればよいことですからね。せっかくの学びのチャンスは、好奇心を満たせる機会であってほしいものです。
私の趣味の一つに「酷道」があります。自分自身が酷道へ向かった経験はまだ少ないものの、酷道写真集を眺めてみたり、YouTubeで動画を見ながら、いつかはここを自らの運転で通りたい、という欲が湧きます。どうやら私も知らぬ間に「不便」を追い求めていたようです。
最近は生成AIの進歩が目覚ましいですね。
私自身もどうにか仕事に活かそうと、最近はプロンプティングに頭を捻ることが多いですが、そのうちそんなことすら必要なくなる世界がくるのかも?しれませんね。
とある別の書籍では、「生成AIはすでに並みのクリエイティビティは達成できている」と紹介されていました(こちら別途感想文を投稿予定)。
本書の著者の投げ掛けた疑問が、まさに今、我々に突き刺さって来ているのだと思います。
結局のところ、これから先の時代は「人間が何を望むか次第」なのだと私は考えています。
究極の便利を追及し、人間の機能が衰えていく世界。こう書くとなんだか否定的にも見えますが、これでも人間が幸せと感じるなら良いじゃないか、というのが私の意見です。なんなら私は体を動かすのが苦手なので、そのあたりをサポートしてくれるAI搭載ロボットが出てくれば老後の心配をせずに済みそうです。笑
(なんなら仕事も全部AIに任せられるくらいに進化させて、人間はゆっくりしよーぜ!くらいにちょっと極端な考えも持つ人間だったりします)
または、誰かがこの流れに警笛をならし、人間の機能を最大限活用できる方向性で技術の進歩を進めていくか。現在の「コスパ・タイパ」が浸透し過ぎた世界ではあまり想像のできない方向性ですが、まあ、可能性として。この方向性なら、究極の「人が働かなくて済む世界」には至れそうにはないものの、一方で私のもう一つの特徴である「考えることが好き」という欲求を満たすことに遠慮はしなくて良さそうです。
うーん、どちらの世界が良いものか。
これはこの世界の人々全員が考えるべき課題なのでは、と思うところです。
大変に考えさせられる、学びの多い良書でした。
発売は2017年と少し古いですが、むしろ今こそ読むべき本だと感じました。