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【読書感想文】「スパコン富岳」後の日本 科学技術立国は復活できるか

「スパコン富岳」後の日本 科学技術立国は復活できるか
小林雅一 著


概要


2021年に本格稼働した日本のスーパーコンピューター「富岳」ですが、ざっくり一言でまとめれば、この富岳自体を通して、あるいは富岳開発により培われた技術を通して、今後日本は技術立国として再生できるのか?を論じている本です。
著者の説明だけでなく、理研や富士通などの富岳関係者、使用者側の研究者のインタビューなども多数含み、その多面性も面白い本だと思います。

主に以下のような内容で構成されています。
● 富岳の大まかな仕組み、そもそもスパコンとはなにか
● 富岳開発から稼働に至るまでの動き、設計思想
● 世界のハイテク争いの現状(出版された2021年時点)
● 量子コンピュータとの違い・使い分けや将来的な動向

以下、わかりやすいと思った部分や、特に印象に残った部分をいくつか引用します。

ある種の自然法則(数式)にもとづくモデルを設定し、そこに各種のデータを入れて計算することで未来の動きを予測する行為は、一般に「シミュレーション(模擬実験)」と呼ばれる。そしてスパコンの最大の用途が、このシミュレーションである。
シミュレーションは現代科学において、「理論」「実験」と並ぶ第3の柱(研究手段)となっている。
それはなぜか? 本来、科学者らが考案した理論を証明するためには実験が必要だが、現実世界ではさまざまな理由から実験が不可能なケースがあるからだ。

しかし、それ以上に高く評価するのは、富岳の計算スピードが単に速いというよりも、むしろそれが「非常に使いやすく実用的なマシンである」ということだ。
(中略)
米中のスパコンが「GPU(グラフィクス・プロセッシング・ユニット)」のような加速部を搭載することでマシンのスピードアップを図っているのに対し、富岳ではA64FXという汎用CPUだけで全体を統一した点を挙げている。このようにシンプルな構造のほうが、プログラミングなどスパコンの使い方が容易になるのだという。


スパコンの開発プロジェクトというのは、スタート時点で5~10年先の技術レベルを推定して始めなければなりませんが、その予想が外れることも当然あります。

富士通 清水俊幸氏へのインタビュー

多くの課題がありますが、その一つは「消費電力の抑制」です。富岳の消費電力は約28メガ・ワットですが、仮にこれと同じ技術でエクサ・スケールのスパコンを作ったとすれば、その消費電力は200メガ・ワットにも達してしまうでしょう。 ちなみに1メガ・ワットの電力消費量をお金に換算すると年間約100万ドル(約1億円)になります。つまり200メガ・ワットのスパコンは年間約2億ドル(約200億円)の電気料金を請求されることになりますから、これは現実的とは言えませんね。ですから、是が非でも消費電力を抑える必要があります。

性能ランキング TOP500 創始者 ジャック・ドンガラ氏へのインタビュー



感想文


2021年出版の本なので、若干古い本です。
特にこういったスパコンや半導体、そしてAIと、技術革新や競争の激しい分野における「4年間」というのは相当な長さに感じます。

例えば本書でもAIやニューラルネットワーク、ディープラーニングなどについて触れられてはいるものの、その後の4年間で、恐らく本書が出版されていた時点では想像もつかないほどの発展を遂げていると思います。本書では、全般的には「日本は勝てる」という雰囲気が漂っていますが、個人的には2025年現在では正直出遅れている気がしてならないです。

ちなみに富岳後継(富岳NEXTと呼ばれていますね)では、GPUが追加されるようです(まあそりゃそうよね)

参考:文部科学省「次世代計算基盤(富岳NEXT)の推進について」https://www.mext.go.jp/content/20240823-mxt-jyohoka01-000037488_04.pdf

とはいえ、本書はそれでも一読の価値ありと感じます。
やはり日本が生き残るために日本の「技術力」の向上は不可欠だと感じさせられます。
少なくとも、日本には長年培ってきた土台があるわけですから。使わない手はないでしょう。

それに実際に富岳そのものは本当に優秀な(使い勝手も含めて)スパコンであるのは間違いないわけで。
先ほどリンクを貼った富岳NEXTの資料に「富岳と同様に、アプリケーション・ファーストで整備されることが必要」と記載されていますが、まさにそれが現行富岳の強みとして活きていることを表していますよね。

あと実は昨年末に文部科学省企画のシンポジウム「第4回 富岳百景」をオンラインで拝聴いたしまして。
シンポジウムの大きなテーマは「富岳×AI」という感じで、実際に富岳・AIを使用した様々な研究の発表やパネルディスカッション、といった内容でしたが、やはり今までは実現できなかった研究(シミュレーション)が富岳・AIで実現できてきている、という結果になかなかワクワクするものを感じました。
アーカイブがありますので、ご興味があればこちらからどうぞ。


ちなみに本書では、富岳の利点として低消費電力も挙げられていますが、より高性能なスパコンを作っていくとなればその辺も気になるところですよね。
ちょい脱線しますが、個人的にはエネルギー分野にも結構興味があり、積読にもそこらへんのものがたくさんあるので笑、そのうち消化して感想文を投稿したい…です…(いつになるやら)


なお、本書は技術的な内容を多分に含みますが、特に技術的な知識を持たずにそのあたりを流し読みしたとしても十分に面白く読める本だと思います。
(むしろ神なら私なんかよりよほど深く理解できるであろうと思いますが。笑)

今後の日本の「技術立国としての復活」を祈るばかりです!



(余談)
下衆なネタですが…
本書にNVIDIAの名が何度か出てきまして、いやそりゃ当然ながら出てきておかしくない企業なのですが、以前、UI/UXデザイナーの深津貴之氏がX(旧ツイッター)で↓のポストをしていたのがどうしても忘れられず、今でも社名を見る度にこれ思い出して笑ってしまうのほんとどうにかなんないかなと思ってるんですガチで



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