『この町は、私たちの生き方を肯定してくれる』
#本屋ロカンタン 店主 #萩野亮さん インタビュー(2022.6.8)
-「本屋」を始めたきっかけを教えてください。
萩野 私はもともと映画の批評を書くことを仕事にしてきました。ドキュメンタリーが専門で、大学で映画史を講じたり、ポレポレ東中野 などの映画館ではトークイベントの司会やゲストとしてお招きいただくこともありました。書く仕事はいまも続けていますが、書評の依頼のほうが多くなりましたね。ロカンタンは2020年1月に開店したのですが、私は長らく病気を抱えていて、30代で都合三度入院、「外に出かける仕事は難しい」と判断して、「自宅をお店にする」という発想に行き着きました。どうせお店をやるなら、やっぱり何よりも好きな本屋をやりたい。社会に出るのが難しい代わりに、自宅を本屋として社会に開く、そういうつもりでやっています。
-2020年1月というと、ちょうど世の中でコロナのことが話題になっていた頃ですね。
萩野 新型コロナウイルスとは「同期」ですね(笑)。周囲からは「大変なときに開店しましたね」と心配もされましたが、私の場合は体調に不安があったので、正直ホッとした部分もあるんですよ。不謹慎かもしれませんが、堂々と休めますから。実際、開業にものすごくエネルギーを使っていたので、ちょうどいいタイミングでゆっくりできた。それに、最初の緊急事態宣言が出た2020年の春先は、社会全体が小さなお店を応援するような空気や動きがあって、ロカンタンもとくにオンラインストアを通じてずいぶん助けていただきました。
-お店にはどのような本が並んでいますか。
萩野 人文書と芸術書、それと文芸と暮らしの本が少々、というところでしょうか。お近くの方もふらっと立ち寄ってくれますし、お店のTwitterやメディアの取材記事などをみて、遠くからわざわざいらして「ずっと来たかった」と伝えてくれる人もいます。本当にありがたいことです。
-お店に入って、ふと思ったのは、「本の並べ方ってひとつの表現なんだなぁ」ということでした。
萩野 私もそう思います。物書きで一生を終えるつもりでしたが、「もう書かなくてもいい」といまはなかば本気でそう思っています。自宅を開放するこのお店のありかた、品揃え、棚の構成それらじたいが、すでに多くを語っている、そう信じています。
本屋の棚は毎日変わります。一冊売れたら、新しい本をそこに置く、一冊抜けると成立しない構成の場合は、まるごと入れ替える。そして毎週新しい本が届く——。同じお店でも、訪れたその時々で多様な本との出会いがあります。届くべき本を届くべき人に届けられた、と思える瞬間がときおりあって、それが何よりうれしいですね。
-Twitterをされているとのことですが、日々どんな内容を投稿しているんでしょうか。
萩野 毎日、開店とともに、その日のお天気を中心に、感じたことをことばにしています。この「開店デース栞」、よかったら差し上げますね。ちょうど先週末に開催された町あるきイベント「西荻散歩」の企画で、ロカンタンに立ち寄ってくれた人にさしあげたおみやげです。
日によって異なりますが、その日の開店を告げるだけの文章に30分以上費やすこともあります。ロシアのウクライナへの侵攻が始まった日などは、うまく文章にならず、結局それをそのまま綴りました。二年半も続けると、自分で読み返しても面白いんですよ。行間に「時代の気分」のようなものが記録されていることがある。おこがましくも、私はこれを「開店文学」と呼んでいます(笑)。もしロカンタンが10年続くようなことがあれば、まとめて本にしたいですね。
-地域について、想っていることがありましたら、教えてください。
萩野 私は11年半西荻に住んでいますが、何よりまず、本を買うところ(本屋)と読むところ(喫茶店)に困らない。個人商店が多いのは、自分のペースを守って生きている人が多いからだと思っています。病気を抱えてから、私はどうしても自分のペースでしか生きられない。出身は関西ですから、この町でなければ、東京に居続けようとは思えなかったかもしれません。
歩いて楽しいこの西荻の町をなくしたくない、という思いは強くもっています。いま、再開発の話があらためて持ちあがっていますね。北口の道路を拡幅して2車線にする計画がある。同じ西荻在住の映画監督の古澤健さんとも雑談がてらこういう話をよくしていたのですが、古澤さんが言うには、道路拡幅は、多くの立ち退きを発生させるだけでなく、東側と西側でエリアを分断させる。その通りだと思いました。高円寺の南口ではこれが現実になりました。それはいま西荻にある「歩いて楽しい町」とは真逆の光景です。西荻は、駅から離れても小さなお店があるのがいいところです。のんびり歩いたり、自転車に乗ったりして過ごすことが似合う町です。
-道路拡幅のことは他の店主さんからも心配の声を聞きました。
萩野 西荻の人は、基本的にはのんびり屋で、自分たちのペースで暮らす人が多い印象をもっています。だから、自分たちの生き方を肯定してくれるこの町への愛着がものすごくある。「西荻から西荻に引っ越す」はもはやわれわれの日常です(笑)。ただ、私自身がそうなのですが、はっきり言ってデモのような運動は苦手で、慣れていません。けれど、この町にはこの町なりの運動や抵抗の仕方があると思っています。議会の現状をこまめにメルマガなどで発信してくれている 西荻案内所 さんの存在は大きいですね。いまあるこの町を守るために、たとえば本屋として何ができるのか、いつもそれを考えています。
お店情報: 本屋ロカンタン
営業時間 12:00 - 18:00 定休日 月・木
住所 杉並区西荻南2-10-10 KUビル102 電話 090-6165-6248
メール mail@roquentin.net
https://www.roquentin.tokyo/
Twitter https://twitter.com/roquentin_books
ネットショップ https://www.roquentin.net/
取扱品 新刊書籍・古書(私蔵書)
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