TUGUMI
中学2年生の頃だったか、教科書に載っているものとは全然別の、実力テストのようなものの国語の問題として、吉本ばななのTUGUMIが引用されていた。
問題に使われていたのが具体的にどの場面だったかは、もう今や思い出せないのだけど、どういうわけか、その文章は自分にとって心地よいものだった。
その頃、僕は全く読書家ではなかったし、どちらかというと活字の本を積極的に読むことはない方だった。国語は決して苦手ではなかったけど、本を読むのはあまり好きではなかった。
でも、その問題にあったTUGUMIを読んだ後、この物語を全部読んでみたいと思った。その問題を読んでからそんなに時間が経たないうちに、僕はTUGUMIの文庫本を買いに走った。
その本を読んで、その年の夏休みの読書感想文も書き、人生で初めて読書感想文で学内表彰された。
今思うと、本当の意味で「読書感想文」を書けたのは、あの時が初めてだったと思う。
ただただ物語のあらすじを何枚にも渡って書いたあとに、簡易な感想だけ書いて終了、のような、読書感想文の典型的なパターンに陥ることなく、純粋に、TUGUMIを読んで思ったこと、感じたことを書けたと、自分でも手ごたえがあった。
その時以来、僕は小説やエッセイを読むのが好きになった。物語を読むことの楽しみを知った。
漫画や映像作品と違って、文字に書かれた物語に登場する人物の風貌や風景は自分の中に自由に描けることの面白さを知った。
原田宗典、花村萬月、町田康、中島らも、池井戸潤、東野圭吾、太宰治、垣根涼介などなど、ある作家にハマると一時期のその作家の作品ばかり読むスタイルで、色々な物語を読んで、そこに登場する絶世の美女を思い描いたり、奏でられている音楽を想像したり、気持ちの沈んだ主人公の表情を思い浮かべることを楽しんできた。
今でも、決して読書家とは言えないが、活字の物語を読むことの楽しさ、味わい深さに気づかせてくれた、吉本ばななのTUGUMIは大切な一冊だし、何度も読んだ。
ある時はその物語の舞台の西伊豆も訪れた。その浜辺を歩く、つぐみの姿を思い起こしながら。