「アジャイルなプロダクトづくり」を読みました
予約していた「アジャイルなプロダクトづくり~価値探索型のプロダクト開発のはじめかた~」が届いたので、週末に読みました。
著者・市谷さんが本づくりの際に作成したインセプションデッキが紹介されていました!
概要
本書は、今あるプロダクトを再探索する「改善探索編」と新たな価値を探索する「価値探索編」の二部構成となっています。プロダクト化されていない範囲の価値を探索する二部の方が、プロダクト化されている範囲で改善を進める一部よりややボリューミーな構成になっていました。全編を通してストーリー仕立てになっていて、主人公である入社5年目の開発エンジニア・笹目くんを中心に話が展開されていきます。
話が進むにつれて、チームは様々な困難な状況に立ち向かいますが、常に「ユーザー」「チーム」「プロダクト」の3つの「夜も眠れない問題」視点ですべてが健全であるかを検査していきます。
本書の中では、アジャイル開発でよく使われるプラクティスがストーリーに登場しており詳しい解説もついているので、それぞれのプラクティスがどういう状況に適していて、取り入れることでどんな効果が得られるのかをわかりやすく知ることができます。以下に取り上げられていたものを例示します。
インセプションデッキ
バリューストリームマップ
仮説キャンバス・検証キャンバス(キャン「パ」スではないので注意)
ユーザーストーリーマッピング
主人公笹目くんを中心に、若手の開発エンジニアやデザイナー、ベテランのプロジェクトマネージャー、組織ミッションを課せられた部門長、常に忙しいセールスなど様々なロールが豊かなキャラクターで登場します。中でも、中途入社のアジャイル経験豊富なエンジニアである十二所(じゅうにそ)さんは、歯に衣着せぬ物言いで常にチームに強烈な問いを投げかけます。そのたびに自ら気づき、学習していく笹目くんとの関係性も本書を楽しむポイントです。
感想(ネタばれあり)
第六章の「仮説検証」で、仮説キャンバスの立て方とユーザーインタビューの進め方がストーリー仕立てで詳細に説明されていたのはとても参考になりました。ユーザーインタビューの分析はいろんな手法があり初学者にはとっつきにくいものも多々ありますが、ここでは縦軸と横軸で見ていく方法が紹介されていて深い知見がなくても取り掛かれそうだと感じました。
顧客やユーザーの声をそのまま答えだと捉えてしまうのはあるあるですね。本書ではユーザーインタビューでの声をうのみにした笹目くんがその後困難に陥る場面もありますが、その後の軌道修正も読んでいて面白かったです。
プロジェクトの投資やリソースの関係でMVP開発開始時から期限が非常にタイトな場合、スクラムでどう取り組んでいけばよいかについても触れられています。本書内では計画スプリント(スプリント0)で取り組むべき内容が紹介されていて、チームの練度とプロダクトの複雑さに応じてどの程度計画を詳細化すればよいかも合わせて述べられていたのでチームの状況に応じて粒度をカスタマイズできそうです。
仮説検証で思った成果が上がらなかったとき、計画ドリブンで強引に突き進むのではなくうまくピポットして軌道修正するくだりは正直「現実ではそうそううまくピポットできず結局突き進むかとん挫することが多いよなぁ」と感じたものの、笹目くん達が常に顧客の声や反応を見て、PSF(プロダクトソリューションフィット)を模索する姿はプロダクト作りのあるべき姿であると感じました。
実はキーパーソンとなる十二所さんは常にチームの羅針盤となって皆を率いているわけではなく、組織の都合でプロジェクトを兼任していて物語中盤、しかも仮説検証・MVP開発という割と重要なフェーズから不在気味になります。十二所さんのやり方に(言葉は悪くも)のっかっていた笹目くんが、プロダクトオーナーというポジションでオーナーシップをとり、少しずつチームが形になっていく流れは読んでいてちょっとうるっときてしまいました(涙腺がゆるい)
まとめ
本書では、組織による急な体制変更やチームでたてた仮説が間違っていた等、実際にプロダクト開発に携わると発生しがちな問題にチームが直面します。その中でメンバーが自身で考え乗り越えていく過程を通して、プロダクト作りのあり方を学ぶことができます。
また、本書内では「ステークホルダー不在のスプリントレビュー」や「常に3ばかりのファイブフィンガー問題」など、スクラムにまつわるマイナートラブルについても随所で触れられているので、スクラムに携わる人は「あるある~!」と思いながら読み進めていけるのではないでしょうか。
ボリュームもちょうどよく、プロダクト作りに携わる幅広いロールの人に寄り添う一冊だと思うので、チームの輪読本に推奨したいと思います。
おまけ
常にチームに暴風を吹き荒らす十二所さんですが、ちょいちょいかっこいい名言を残します。
キックオフでてんこもりの機能一覧を前に、プロダクト計画に勝ち筋がないことを指摘する中で若手エンジニアに向けた「君はこのプロダクトができあがったら使うのか」という問いかけが印象に残りました。その後の「なぜ自分でも使うかどうかわからないものを、いきなり作ろうとするんだ?」という言葉とともに、常に意識したい視点です。