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味噌汁は「飲む」のか「食べる」のか

 私は長い間、味噌汁は「飲む」と「食べる」と、どっちが正しい言い方なのかわからなくてもやもやしていた。
 昨日の朝食時、またもやそれが脳裡をよぎったので家人に訊いてみた。私を含めておとなは四人。どちらとも答えられない私以外の三人は「飲む」と即答した。そのうち一人は「具が多ければ〝食べる〟かも」とつけ加えた。
 ちなみに、拙宅ではたいてい私が作るが、具は多めだと自覚している。

 液体なら「飲む」、固体なら「食べる」と表現するから、両方がいっしょになっている味噌汁は少しだけ複雑だ。
「さて、味噌汁を飲んだり食べたりしようかな」なんて言わないし、「汁を飲んだから、次は具を食べてみるか」などとも言わない。
 そもそも、感覚である「おいしい」や「旨い」という表現はしても、動作である「飲む」や「食べる」などをいちいち言うことは少ない。

 飲むと食べる、いったいどっちが適切なのだ。私が調べた限りでは、きっぱりとした答えは見つけられなかった。これも私がしばしば口にする「正解のないテーマ」なのだろう。
 とは言え、家人三人が「飲む」と即答したことを考えると、やはり飲むが適切なのだろうかと思えてきたりする。

 飲む派の言い分としては、「汁は液体だから飲むというのが自然」「飲むという表現を用いている辞書や事典もある」など。
 一方の食べる派は、「固形物である具材が入っているから食べるが適切」「咀嚼を伴うから食べるが妥当」「味噌汁は飲み物ではないのだから、飲むという表現は不適切」など。
 当然ながら中間派もあり、「地域や家庭によって異なる」「個人の感覚による」「具材が多い場合は食べるで、少ない場合は飲む」など。

 じつは、記事を書きはじめたとき、私は新たな材料に思いがいたった。具材がほとんどないに等しい「お吸い物」はどうだ、という問題だ。名前がお吸い物だからといっても「吸う」とは言うまい。
 「今日はお吸い物か。では一杯吸ってみるか」などとは言わないだろう。「食べる」というのは完全に違和感がある。これこそ「飲む」の一択ではないか。ただし、これも「食べると言うのは間違い」とは言えないらしい。

 味噌汁もお吸い物も、無難な解決策として「いただく」という言い方がある。これなら汁物だろうと固形物であろうと関係ない。「では、いただくとするか」でいいのだ。人にすすめる場合なら「どうぞ、お召しあがりください」でいい。「食べてください」も「お飲みください」も必要ない。

 ところで、お吸い物の「お」は接頭語だから、本来の名称は単なる「吸い物」だ。少し俗っぽく言えば「すまし汁」となる。これにも「お」を付けて「おすまし」と言ったりする。ま、どうでもいいことだけど。

 どういう立場の人ならきちんと答えを出してくれるだろうか。料理人や調理師、料理の学校の先生、日本料理店や旅館のスタッフ、作法の専門家、国語辞典の編集者などだったらだいじょうぶだろうか。
 いや、ひょっとしたらそういう人たちでも「まあ、人それぞれですから、どっちでもいいんじゃないですか」なんていうひと言ですませてしまうかもしれないな。もやもやはいつ晴れるのだ。






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