ブラームスの『ドイツ・レクイエム』
評論家の樋口裕一さんがこのようにおっしゃっています。「CDを聴いているときにはさほど感銘を受けないが、生の演奏を聴くと心の底から感動をする曲があるものだ。私にとって『ドイツ・レクイエム』がそうだ。合唱の演奏効果は凄まじい。ぜひ、生演奏に接する機会があったら、聴いてみることをお薦めする」
残念ながら私はこの曲を生演奏で聴いたことはありません。しかし、CDを聴いただけでも感動するのが、アーノンクール指揮、ウイーンフィル、シェーンベルク合唱団ほかによるライブ録音です。2010年度のレコード・アカデミー賞を受賞した盤です。ライブ録音というと、かつては客席の気配や時に雑音が混じったりするのがふつうでしたが、近年はそういうのを消す技術があるのでしょうかね。全くの静謐の中で演奏されているような、かといってスタジオ録音とは異なる、実に臨場感と緊張感に満ちた演奏だと感じます。
『ドイツ・レクイエム』は、1868年、ブラームスが35歳のときに完成させた曲で、構想のきっかけは、彼の恩師だったロベルト・シューマンの死だったといわれています。レクイエムというと、通常はカトリック教会における死者の安息を神に願う典礼音楽であり、ラテン語の祈祷文に従って作曲されるそうですが、ルター派信徒だったブラームスは、ルター聖書のドイツ語版からドイツ語章句を選んで歌詞として使用したんですね。 従って、典礼音楽ではなく演奏会用の作品だということです。ブラームス自身も、「キリストの復活に関わる部分は注意深く除いた」と語っていたとか。
いずれにしましても、この曲、そしてこの演奏は、単に素晴らしいとか美しいとかいう言葉では言い表せない、何だか、魂が内から震えてきそうなほどの感動を覚えます。CDですらそうなんですから、生演奏を聴いたら失神してしまうかもしれない・・・。
音楽史概要