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クラシック音楽の話(27)

ペール・ギュントの『朝』


 どなたもこなたもご存じのはずの超有名な曲、ペール・ギュントの『』。実は私、恥を忍んで申しますと、小学校の音楽の授業でこの曲を習って以降、大人になってクラシック音楽を始めるまでの間ずっと、この曲はペール・ギュントという作曲家がつくった『朝』だと思い込んでおりました。先生がきちんと教えてくれなかったのか、それとも私が先生の話をよく聴いていなかったのか、まーたぶん後者だと思いますけど。

 でも、言い訳になりますが、楽曲で「〇〇の△△」という言い方をするときは、ふつう作曲家と曲名の並びじゃないですか。「グリーグ作曲のペール・ギュントの『朝』」というふうにちゃんと言ってくれなければ不親切というものです。まーそれで何か損したわけじゃないし、具体的に誰かの前で恥をかいたわけじゃありませんが、自分自身がひどく恥ずかしい思いをした次第です。しかし、後になってもっと驚かされたのが、この『朝』がイメージする風景のことです。

 長らくこの曲から思い描いていましたのは、空気が澄んだ静寂な森の木々に朝の光が差し、あちらこちらで可愛らしい小鳥がさえずり始める・・・。あのメロディーから想像するのは、そんな美しく爽やかな自然の風景でした。おそらく多くの皆さまも同じようなイメージを持っておられるのではないでしょうか。ところが、実はこれは「砂漠」の朝だというんです。そんなアホな、って感じ。

 『ペール・ギュント』は、ノルウェーの劇作家ヘンリック・イプセンが1867年に書いた戯曲でして、自由奔放で夢見がちな男ペールが、一攫千金を夢見て世界へ旅立ち、年老いて帰ってくるまでの冒険を描いた物語です。そして『朝(原題は”朝の気分”)』が登場するのは第4幕。長い旅の間に多くの宝物を得て大金持ちになったペールが、朝起きてみると宝物がすべて奪われ、砂漠にただ一人残されていた、そんな最悪な朝を描いた曲なんですって。想像していたのと全く違う。このことは、先生は絶対に教えてくれなかったと断言します。でも、美人だったので許します。

 とまれ、『朝』ばかりが有名になった『ペール・ギュント』ですが、全曲を聴いてみると、ほかにも魅力的な曲がいくつもあり、『朝』だけを聴いていたのでは決して味わえない独特の雰囲気、世界観に浸ることができます。作曲家名を勘違いしていた私が言うのもアレですけど、まだの方はぜひとも全曲(抜粋盤でもいいです)を聴いてみられることをお勧めいたします。
 

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