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森鴎外の『山椒太夫』を読んで

 ゆたかな情景描写と時代の情緒あふれる文章に、どんどん惹きこまれていく作品だ。この小説のルーツは、中世末から近世初めにかけて庶民の間に流行した『さんせう太夫』という説教節だそうだ。母親との再会をはたす感動的な結末ながら、原作では、厨子王を逃がした安寿に厳しい拷問が行われたことや、出世して丹波の国司となった厨子王が、山椒太夫一族への復讐としてノコギリびきの残酷な刑に処する模様が語られているという。

 二人に課せられた苛酷な労働や安寿に対する拷問などの話からは、当時、人身売買がふつうに行われていた事実や、その買主の残虐非道な姿が浮かび上がってくる。また、厨子王の復讐談は、抑圧に苦しめられていた中世社会の庶民の”解放”への強い願望が察せられるところだ。

 しかし、鴎外によって、原作のモチーフは一変させられた。国司に出世した厨子王によって人買いを禁じられた山椒太夫一族が更に栄えていくさまは、やや興醒めの感はあるものの、恩人の曇猛律師を僧都(そうず)に任じ、安寿をいたわった小萩を故郷に返してやり、また、安寿が入水した沼のほとりに尼寺を建立するなどの徳目の施しが、やがて厨子王を母親との再会へと導いていく。

 山椒太夫一族を罰しなかったのは、人買いは何も彼らだけの悪事ではなく、当時のふつうの社会現象だったという冷静な判断か。それに、原作のままだと、厨子王の単なる意趣返しという薄っぺらい物語になってしまう。

 まあ、そんなことより、『山椒太夫』を読み終えてひたすら思うことは、安寿のこよなき存在感とその魅力に尽きる。少女でありながら、終始ただよわせる大人びた憂い、同時に凛とした気丈さを兼ねそなえた安寿は、鴎外の作品のなかでもっとも魅力的な女性像と評される。

 かの『野菊の墓』では、主人公が恋人の民子を「野菊のような人」と称していた。民子が野菊なら、私は、安寿のイメージにぴったりなのは、「ひとりしずか」の花ではないかと思う。


読書に関する名言

  • 本をよく読むことで自分を成長させていきなさい。本は著者がとても苦労して身に付けたことを、たやすく手に入れさせてくれるのだ。~ソクラテス

  • 本の無い家は窓の無い部屋のようなものだ。~キケロ

  • 良書を初めて読むときは、新しい友を得たようである。前に精読した書物を読みなおす時は、旧友に会うのと似ている。~オリヴァー・ゴールドスミス

  • 心にとっての読書は、身体にとっての運動と同じである。~リチャード・スティール

  • あらゆる良書を読むことは、過去数世紀の最高の人々と会話するようなものだ。~デカルト

  • 書物の新しいページを1ページ、1ページ読むごとに、私はより豊かに、より強く、より高くなっていく。~アントン・チェーホフ

  • 今日の読書こそ、真の学問である。~吉田松陰

  • 一時間の読書をもってしても和らげることのできない悩みの種に、私はお目にかかったことがない。~モンテスキュー

  • 本を読むことを止めることは、思索することを止めることである。~ドストエフスキー

  • 僕は読書が大好きだ。もっと多くの人に本を読むようアドバイスしたい。本の中には、まったく新しい世界が広がっているんだよ。旅行に行く余裕がなくても、本を読めば心の中で旅することができる。本の世界では、何でも見たいものをみて、どこでも行きたいところに行ける。~マイケル・ジャクソン

  • 文芸の第一の利益は人生を知ることにある。人間生活の真相を知ることにある。~菊池寛

  • すべての本は、束の間の本と生涯の本の2種類に分けられる。~ジョン・ラスキン

  • 他人の自我にたえず耳を貸さねばならぬこと、それこそまさに読書ということなのだ。~ニーチェ

  • できるだけたくさんの本を読み、美しいものに触れ、思いやりを持って人に接する。当たり前のことを言っていると思うでしょうが、そういうことの積み重ねが、本当に人を美しくするんです。九十年も世の中を観察してきた僕が言うんだから、間違いない。~斎藤茂太

  • 書物そのものは、君に幸福をもたらすわけではない。ただ書物は、君が君自身の中へ帰るのを助けてくれる。~ヘルマン・ヘッセ

  • 書籍は青年には食物となり、老人には娯楽となる。病める時は装飾となり、苦しい時には慰めとなる。内にあっては楽しみとなり、外に持って出ても邪魔にはならない。特に夜と旅行と田舎においては、良い伴侶となる。~キケロ

  • 良い本は私の人生におけるイベントである。~スタンダール

  • 読もうとしない人は、読めない人に劣る。~マーク・トウェイン

  • 読書ほど安い娯楽も、長続きする娯楽もない。~メアリー・ウォートリー・モンタギュー

  • 今日の読書家は、明日のリーダーである。~マーガレット・フラー

  • あなたが絶対に知るべき唯一のものとは、図書館の場所である。~アルベルト・アインシュタイン

  • 私が人生を知ったのは、人と接したからではなく、本と接したからである。~アナトール・フランス

  • 少しの隙あらば、物の本を、文字のある物を懐に入れ、常に人目を忍び、見るべし。~北条早雲

  • たった一冊の本しか読んだことのない者を警戒せよ。~ベンジャミン・ディズレーリ

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