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【ダンスレビュー】ジャズの名曲や泉鏡花の小説も登場。ーKARAS APPARATUS(カラス アパラタス)アップデイトダンスNO.104『ナイト アンド デイ』ー

8月4日東京都杉並区にあるKARAS APPARATUS(カラス アパラタス)で、アップデイトダンスNO.104『ナイト アンド デイ』が上演された。

約半年ぶりのアップデイトダンス

出演は、演出と照明の手がける勅使川原三郎と、アーティスティックコラボレーターの佐東利穂子。
通常は毎月行われるアップデイトダンスだが、2人が半年ほどヨーロッパツアーに行っていたため、2人揃ってのKARAS APPARATUSにおける上演は、約半年ぶりとなった。


△イタリア公演での様子。2016年にKARAS APPARATUSで初演された「トリスタンとイゾルデ」は、ヨーロッパを中心に上演を重ねている。

公演の様子

作品と同名の、コール・ポーターによるジャスの名曲『Nigth and Day』により、舞台は幕を開ける。ミュージカル『陽気な離婚』でフレッド・アステアが歌っているのが有名だ。

滑らかな動きが芽立つ勅使川原だが、この曲では重心を下に落として下半身でリズムを刻んだり、滑らかな動きと静止を組み合わせたり、が印象的だった。映画『サタデー・ナイ・トフィーバー』で有名なディスコダンスが思い起こされた。

華やかなオープニングが終わると、舞台は本髄へ。それぞれのソロパートと、デュエットが繰り広げられていく。佐東の舞台上を伸び伸びと旋回していく様子は、ミニマムな舞台空間を感じさせず、暗闇がどこまでも続いていくように感じられた。また、身体本体も回転しつつ、肩関節から指先までも独自で旋回し続け、それぞれのパーツが互いに影響を与えながら動き続ける、ぜんまい時計のような動きだった。

後半では、泉鏡花の『高野聖』の朗読が音源として使われていた。『高野聖』は、高野山の僧侶が、旅の道中で出逢った若者に、過去に体験した奇怪な話を聞かせる、という物語である。語りの中に語りがあり、と、その複雑な構造が評価されている幻想小説だ。

ひるが降ってくる森の場面が使われ、勅使川原はロボットダンスのような動きを繰り広げていた。その文章自体が醸し出す悍ましさと、違和感を感じさせる勅使川原の動きが相まって、心の中がざわつくような場面であった。

2021年に上演された『羅生門』など、舞台の中に朗読を取り入れるのは、勅使川原の作品の中では珍しいことではないが、終演後のトークで「闇の中にも闇があり、光の中にも光があり…。」と発言していたことから、勅使川原が見ている世界の多層性と、文学の多層構造が、通づる部分があったのかもしれない。

勅使河原三郎が見ている世界

勅使川原がヨーロッパ公演に向けて旅立った2024年1月2日は、日本でも世界でも様々なことが起こっていた、とも話していた。今回、タイトルは『ナイト アンド デイ』と一見対比を感じさせるものではあるが、舞台の中で、昼と夜、光と夜の対比を感じることはなかった。
私たちを取り巻く色々な物事が、1対1の単純な対比ではなく、深く複雑に色々な事情が絡まり合っていること、だからこそ困難を極めていること。そんな問題提起を感じる舞台であった。

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