日和佐フィールドワークを経て、帰ってきたくなる街を考える

日和佐に半日のフィールドワークをしてきた記録を書いておこうと思う。


行く前の印象としては「薬王寺の町」。牟岐町の祖父母の家に行く途中にある初詣に行く街、というのが僕の中での日和佐だった。
県知事選挙の開票速報を送るという仕事のために汽車で一時間半かけて向かった。

車窓から流れる田園や野山の風景はかなり心洗われるものであった。
ぼんやりしている時間が好きなのもあって、移動はむしろ楽しみの一つであった。

日和佐駅についてすぐ、現地のおじさんとお遍路さんがあずま屋のしたで話しているのを見る。どうやら海外から来ているお遍路さんに対し、道を教えているようだった。
横目に見ながらひとまず薬王寺のふもとへ。
桜の季節は終わっていたし、お参りするような時間でもなかった(夕方、日暮れ前)ので近くのマップを見て散策開始。

どうやら古い家屋をリノベーションしたカフェなどが立ち並ぶ一角があるようで、そちらへ向かう。

cafeとか交流スペースが作られている中でもっとも気に入ったのが、「世間遺産 二十世紀はじめの風呂屋」と書かれたさも歴史ありげな石碑のある銭湯。
ユーモアと地域で残すべき価値を明確にしている絶妙な塩梅が好き。


そんな感じでゆるりとマチをぶらついている中、一人のおじさんに声をかけられた。
駅に着いたときにお遍路さんを案内していたおじさんだ。おじさんは薬王寺の写真を撮っていた僕に話しかけてくれた。

提灯で薬王寺の境内や石段が飾られていたのだが、それを手伝ったらしい。
地元が日和佐で、市内で就職していたが退職を機に二カ月前に日和佐に帰ってきたそうだ。

「地縁」「地域への関わり代」があるとおじさんのように自然に帰ってきたくなるのだろうか。


おじさんと別れ、役場に向かう前に腹ごしらえしようと定食屋に入った。
黒鯛の刺身が尋常じゃなく美味かった。お高いお寿司屋さんでずっと賄いをもらっているので海鮮の味にはかなり厳しいと思うのだが、非常にうまみが詰まっていて美味だった。感動した。

隣には外国人が二組座っていて、ワサビを食べて顔をしかめていた。かわいかった。
「おいしいもの」は街に帰ってくる求心力になり得ると思う。もっとも雇用とかのほうが重要な場合が多いから、働き方や人生のフェーズによって変わるとは思うが。


役場でいざ開票作業、というタイミングが来てぞろぞろと日和佐地域のもう少しちいさな単位の町の代表が投票箱を手に手に体育館に集まる。

入り口近くに席があったため入ってくる様子をずっと見ていた。
選挙管理委員とみられるおじいさんが、入ってくる人全員に声をかけていた。もれなく明らかに地域外から来た僕にも、「はやいね、にいちゃん。今日は長いやろけんがんばれよ」と声をかけてくれた。地域のつなぎ役となる人物が声をかけてくれる。

お昼のおじさんのことを思い出した。

そこに居場所がある。
その感覚をつくりだせる人物が最も強い求心力になり得る可能性がある。
これが今回の日和佐フィールドワークの結論になった。

川があって、星がきれいで、食べ物がおいしい。
僕はこの街が好きになった。


そんな地域において、おじさんのクローン培養以外にその求心力の発信源を増やすにはどうすればよいのか。

帰りのタクシーの一時間では答えが見つからなかった。
また考えることにしよう。

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