60 鳥は卵石ころは影抱いて春
句集「むずかしい平凡」自解その60。
この句の読み方をまずは文法的に。
「鳥は卵」「石ころは影」はそれぞれ「抱いて」にかかってゆく文法構造です。散文的に言えば、「鳥は卵を抱いていて、いっぽう石ころは影を抱いていて」というふうに、「抱いて」にふたつの部分が同時につながっている、そういう形です。
鳥は卵を抱いているし、石ころは影を抱いているし、うん、なんだか春だなあ。
そんな読みです。
石ころが影を抱く?
そんな疑問がわくかもしれませんが、やっぱり春になると日差しが冬とは違う。冬の間は、石ころにも影があるなんて気づかなかったけれど、ある日、石ころにもしっかり影があるのを見てしまったんですね。季節は確実に進んでいるなと。
俳句って、こういう小さな発見がもとになることが多いですね。小さなことだけれども、何か命の輝きにつながる大きなものの存在。
俳句は、小さい。けれど大きなものも描ける。
石ころの影を発見したときの感覚が封じ込められた句ですね。