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キラーコンテンツは 食、イータリーのイタリア食文化の伝播力
台所に立ち、日々の買い物をし、社会の息遣いを売り場から感じ取る・・・そんな役柄、長年「売り場づくり」には敏感です。
振り返れば90年代、日本では「ダイエー」や「イトーヨーカドー」が食品スーパー業界の2強でした。「ダイクマ」などのカテゴリーキラーも続々と出現、“業界のダークホース”とも言われた「ヤオハン」は東南アジアに進出した後、「竹のカーテンの向こうの国」といわれた中国進出計画を打ち出すなど、小売り流通業界は沸騰していました。
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あれから30年ほどの時が流れました。全国を見渡せば「イオンモール」の一強、不動産系のアウトレットモールも店舗を増やしています。一方でこの間、多くの小売り業態が淘汰されました。百貨店もその運命をたどっています。池袋の「三越」はとっくの昔になくなって、頑張っていた「西武百貨店」も2023年に外資系ファンドに売却されました。
「百貨」、つまり百を超える種類の商品を扱う百貨店業態は厳しい局面に立たされています。
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それを痛感したのは、2019年に訪れたタイ・バンコクでした。衣料品あり、日用品ありのフルラインが、東南アジアに進出した日本の百貨店のモデルでしたが、アジア全体の市場を見渡せば、“百貨型”の売り場構成はもはや新鮮さを失いつつあることを実感させられました(詳細はダイヤモンドオンラインの拙筆をご覧ください)。
バンコクには複数の日系百貨店が店舗を構えるも、タイ資本のショッピングモールにすっかり圧倒され、往時ほどの存在感はなくなっていました。
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その反対に、勢いを増すのが地元資本のモールです。経済成長とともに増え続ける「中間層」を惹きつける地元モールのキラーコンテンツは “食”。タイ資本のモールは、“食の演出”を武器に多くの消費者を取り込んでいました。
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バンコク訪問から5年が経ち、日系の小売り業態は捲土重来している頃ではないかと思います。“朗報”に注目したいところです。
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さて、“食の演出”のうまさはイタリア資本の「イータリー」にも現れます。2023年末、私はローマの「イータリー」を訪れました。
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「EAT」と「ITALY」を掛け合わせたネーミングのEATALYは、イタリアの食を通じて上質なライフスタイルの提唱を目指し、世界中にイタリアの食文化を伝えようとしています。
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2007年1月トリノに初のイータリーをオープンさせ、現在では世界各地に40以上の店舗を展開しているといいます。
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「イータリー」もまた“百貨”ではなく“一貨”で勝負です。食という1つの切り口から、それを深堀りしつつも広がりを持たせていく手法には敬服します。同時に、イタリアの食文化を世界に伝えようとするグローバル戦略にも舌を巻きます。
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また、一部のこだわりのある特殊な層ではなく、近隣住民はもちろん広域からも集客、老いも若きも、家族連れでもカップルでも楽しめるところがすばらしいです。
90年代、駆け出しの記者だった私は米国の小売り業態視察に駆り出されました。ウォルマート、サムズ、コストコ、ラリーズ・・・、米国ではさまざまな小売業態が百花繚乱状態で、売り場はキラキラと輝いていました。
人々のワクワク感を駆り立てるような売り場づくりはどうやったらできるのだろう――これは今もってなお、日本企業の課題であるような気がしています。(おしまい)