『あのこと』感想
トップ画像は公式HPから
■映画情報
・基本情報
・ストーリー
・映画のポイント
■映画の感想
”映画情報”の”映画のポイント”を基に公式HPでも強調されていた3つの要素に対する感想を整理する。
1.脚本
・”中絶できない女性以外”にも共感を得られる工夫
監督は以下のように語っている。
私は映画内の時代も知らない男性だが、作品内の世界観に引き込まれた。それは学生寮の規則や家庭・地域の格差、男女という性別以前に”無責任な人間”など中絶禁止という法律以外にもあらゆる違和感が存在することが理由の一つだと思う。
”社会への疑問”という性別や年代を問わないテーマも含んでいるからこそ、世界的にも高い評価を受けたのではないかと思う。
・当時の再現を徹底
原作の『事件』を読むと本作と異なる箇所が複数あるが、主人公の台詞が多くない点ついては映画との共通している。
小説内の過去を回顧する箇所では、会話や細かい感情の表現より”自身の置かれた立場”と”その場所がどのような状態だったか”を詳細に書き起こしている。細かい部分は『3.カメラワーク』で説明するが、映画内でもアンヌが見たものをそのまま伝える工夫が様々行われている。
”主人公の台詞で直接的に”誘導するのではなく、事実をそのまま提示して”見る側が自発的に感じ取る”ような作りになっていたと感じた。
2.主演俳優の演技
・最小限で強さを伝える演技
この箇所から監督はアンヌが逆境に負けない強い女性であるということに拘りを持っていることがわかる。これは①脚本で公式パンフレットから紹介した"主人公アンヌは社会的反逆者"というフレーズからも伝わる。
しかし、主人公の台詞の少ないため呼吸や震えといった無意識な仕草に演技に重きを置くなど、主人公の感情をわかりやすく表現する方法が最小限に抑えられている。そうなると俳優の技量が問われるが、監督はアナマリアをアンヌ役に抜擢した理由について以下のように語っている。
この映画のキャッチコピーは”あなたは〈彼女〉を、体験する。”であり、脚本・演技・カメラワーク等々見る側とアンヌが一体化する工夫をしている。そしてその工夫に合わせた人選を行なっていたということがわかる。
3.カメラワーク
・カメラの動き
映画を見ていて1番わかりやすかった部分はやはり、アンヌに沿ったカメラワークだと思う。多くの場面でアンヌの上半身が大きく映っており、後頭部越しに背景を見る場面もかなり多かった。
要所要所のみではなくアンヌが歩くのに合わせてカメラも移動しているため、その速さによって体調や気分などを感じ取ることができた。『2.主演俳優の演技』で述べた”無意識な仕草に重きを置く演技”はこういった点にも表れている。
これについてはここまで引用してきた公式HP・パンフレット・インタビュー動画の全てで触れられており、撮影監督はもちろん監督・俳優も共通して強い拘りと自信を感じる発言が多い。
・アスペクト比
前述した”アンヌに沿ったカメラワーク”の効果を強める方法として使われたアスペクト比であり、その通りの役割を果たしていたが他にも良い効果があったと感じた。
余計なものが目に入らないので、アンヌが特定の事象に集中している場面で何を見ているのかがわかりやすい。追い詰められて周りが見えていない状況の場合、周囲の焦点をずらしてぼかす効果がより強く感じた。
■最後に
・中絶について個人的な感想
この映画の1番のテーマである中絶について思ったことを書く。
人権や命というのがどこから生じる存在かというのは難しい問題であり、「胎児でも粗末に扱ってはいけない」「自分の行動によって起きたことだ」という言い分は理解できる部分もある。
しかし、男性は簡単にその責任から逃げる事ができて、妊娠している女性には逃げ場がないというのがこの映画で伝わった。妊娠について男女間に自由度の違いがあるの確かで、そこを考慮しないで一方的に中絶禁止を突きつけるのは不平等だという感想を得た。
中絶について娯楽的にも楽しめる要素を持たせつつ、少しでもその苦しみを伝えて考える機会を与える良い映画だったと思う。
■参考資料
・【監督と俳優が語る】2021年ベネチア国際映画祭金獅子賞&2022年ノーベル文学賞作家アニー・エルノー原作‼映画『あのこと』オードレイ・ディヴァン監督、主演・アナマリア・ヴァルトロメイが語る#256
・嫉妬/事件 早川書房
著:アニー・エルノー
訳:菊地 よしみ
訳:堀 茂樹
・公式パンフレット 価格850円
発行・編集:松竹株式会社 事業推進部
編集:宮部さくや(松竹)
デザイン:黒田秀樹(アイ・プランニング)