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蛇とお金と弁財天、3つをつなぐ謎の神(その2)

弁財天の頭に、おじいちゃんの顔をした蛇がいる!

インドから中国、そして日本へやってきた弁才天は、鎌倉時代に入り、頭に白蛇を乗せた「宇賀弁財天(うがべんざいてん)」というニュースタイルが登場します。
「弁財天と金運、そして蛇との関係」もようやく何かが見えてきそうです。
宇賀弁財天の頭の蛇は、普通の蛇の場合もありますが、たいてい「おじいさんの顔をもつ蛇=人頭蛇身」という、なんともファンキーなお姿でとぐろを巻いています。こちらは「宇賀(うが)神」という、平安後期から庶民の間で信仰された立派な神さまで、同じく「UKA(うか)」という音をもつ宇迦之御魂神(うかのみたまのかみ)、つまり稲荷神(お稲荷さま)の兄弟神とも言われる豊穣神です。蛇とキツネが兄弟って、ホントなの??? いまひとつピンときませんが、伏見稲荷大社で授与される「宇迦之御魂神の御絵札」を改めて拝見すると、白と黒のキツネのほかに俵の上でとぐろを巻く二体の白蛇がちゃーんと描かれていて驚きました。

「宇迦之御魂神の御絵札」 伏見稲荷大社

稲荷山は元々龍蛇信仰の山でした。一説にはキツネより蛇のほうが古く、稲荷神は白い蛇または人頭蛇身の山と水の神だったといわれます。稲荷社が秦氏によって創建された711年前後は水害の被害がひどく“水の気”を剋する(抑える)“土の気”を持つキツネが勧請されたところから稲荷社へのキツネの縁起が始まり、以後、キツネが優勢になったと豊受稲荷本宮のウェブサイトには書かれています。
また、稲荷は“狐火”つまり「火や輝き」を表しており、蛇である宇賀神の「水」と共に五穀豊穣に必要な火(日)と水を尊ぶことにつながる。そんなふうに書かれた記事もありました。このように宇賀神は現在も出自不明とされるナゾの多い神であるためさまざまな所説がありますが、山や水の豊かさに由来する豊穣神であることは共通しているようです。

「財福の満ちること大雨が降るが如く」
財宝神として信仰された宇賀神

左:「宇賀神」 円覚寺
中:『宇賀神像』 大阪・本山寺蔵 *3年に1度御開帳される秘仏とされています。
右:『老翁の頭部を持つ宇賀神』ギメ美術館 Wikimedia

由来はともかく、お稲荷さまが稲を豊かに実らせる五穀豊穣神であることに対して、民間信仰としての宇賀神は、貧しさを取り払い、富を与える「財宝神」というイメージが強いようです。『仏説即身貧転福徳円満宇賀神将菩薩白蛇示現三日成就経』という宇賀神について書かれた経典では、白い蛇の姿で出現した宇賀神が「仏法擁護と貧転与福のため現れ、衆生に福と利益を与える」と述べており、宇賀神の功徳は「財福の満ちること大雨が降るが如く」と表現しています。
貧しい人々の上に大雨のごとく降り注ぐ富……確かに「金運の神」として最強かもしれません。
江戸時代の国学者である天野信景は随筆『塩尻』(1697年)に『宇賀神とて頭は老人の顔にして、体は蛇体に作り、蛙をおさえたるさまにして神社に安置す』と記しています。蛙(もしくは蝦蟇)は昔から“貧欲神”の象徴と言われ、それをぐっと抑えつけるのが宇賀神です。ただ無暗に財宝を与えるのではなく、我々の心にある「貧欲さ」を戒め、「足るを知る」豊かな生活を保障してくださる神さまなのかもしれませんね。あくまで個人的な解釈ですけれど…。
*宇賀神は、仏教用語での「財施」を意味する「宇迦耶(うがや)」に由来するとも言われています。

弁財天+宇賀神=宇賀弁財天
金運の神として、庶民に大人気!

『八臂弁財天像(指定名称 木造弁財天坐像)』重要文化財 江島神社蔵(鎌倉時代前期)

龍蛇神の末裔ともいえる宇賀神は、中世以降、天台宗の教学に取り入れられ、同じく水辺をテリトリーとする弁才天さまと習合(神仏習合)しました。それが宇賀弁財天です。一説にはライバルである真言宗が、ゾウの頭を持つインドの神ガネーシャを「聖天様(歓喜天)」と呼び、現世利益の神として民衆へPRしたことへの対抗策として天台宗がつくりだしたのではないか?……と考える人もいるようです。ともあれ宇賀弁財天は、平安時代から続く宇賀神への篤い人気(popularity)と弁才天が持つ格式(prestige)を併せ持つこととなり、中世以降、多くの寺社で祀られるようになります。塑像や彫像も多くつくられるようになり、8本の腕を持つバトルモード弁才天をベースにしながらも、手にする持ち物が少し変わります。
「羂索(けんさく/悪いものを縛り、衆生を救う縄)」が宝の蔵を開ける「鍵」に変わり、「鉄輪」が「宝珠(如意宝珠)」になりました。
宝珠は「万宝を雨のように降らす珠」であり、同時に飢渇神(きかつしん=飢え渇く満足しない心)を降伏する力を持つと言われています。

「大雨のごとく降り注ぐ富」

あきらかに弁財天の能力に宇賀神の性格や力が「+α」されたことがわかりますね。江戸時代には「弁才天」から「弁財天」へと表記も変わり、「金運の神」「商売繁盛の神」としての性格をどんどん強くしていきます。同時に、頭上にいる宇賀神の姿から「弁才天さまのお遣いは蛇」「白蛇は弁財天の化身」と、弁才天と蛇のつながりが人々に広まっていくのです。
「巳の日」「巳の年」は金運に恵まれるという言い伝えも、この宇賀弁財天の相棒である宇賀神が蛇神であることからの由来でしょう。
大雨のごとく降り注ぐ富。この言葉を聞くとドキドキしてしまいますが、一説によると、この宇賀神のビジュアルをひと目みて「あ。なんか気持ち悪い」って思った人。残念ながらご縁がないそうですよ。
宇賀神は初めて見たときの直感で縁の有無が分かるんだそうです。
そういう人は、まずは自らの心にある蛙(蝦蟇=貧欲神)を抑制することを願い、宇賀弁財天の智慧(理性)におすがりすることから始めるといいのかもしれません。

■参考資料
吉田さらさ 他 『天の仏像のすべて(エイムック)』エイ出版社 2013年
藤巻一保 『神仏習合の本』「異神の章」 学習研究社 2008年
伏見稲荷の御札 豊受稲荷本宮サイト:https://yutakainari.jp/fushimiinarinoofuda/
仏像リンク:https://butsuzolink.com/benzaiten/
(上記には諸説がありますので、あらかじめご了承くださいませ)
 


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