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「どうしても生きてる」朝井リョウ
朝井リョウさんの本は読んだことがなく、他の作家さんと勘違いして購入したことを読むときに知った。朝井さんの他の本を見たところ「ああ、私が絶対買わないようにした本を書いた人だ-」とわかった。
タイトルが長くて、なんというか「かわった、長いタイトル」の本が沢山並んでいた時に「どう?ちょっと目を引くタイトルでしょ?」って
本から言われているみたいで「いや。その手にはのらないぞ」と頑なになってしまった。あれを書いた人かーーと思いながらあまり期待せずに読み始めた。
本棚にスペースができる件があり、本はただ他の段ボール内に移動しただけで実質何も減ってはいないのに
脳が「そこ空いてますよ。まだ買えますよ」と認識してしまったのか
本屋さんに行き躊躇せず買ってしまった本たちの中にこれはあり
「どんどん消化せねばならん」と思って読んだだけ、という感じだ。
そもそも、本屋さんに行き「これ面白そ!」と思って買ってるのに
読むときに「ああ、これもあったか。早々に読んでしまわねば」という
ちょっとした義務感になるの不思議・・・。
そんな、本に対しても朝井さんに対してもとても失礼な姿勢で読んだからもちろん流し読みをした。「読みたいから読む」のではなく「読むために読む」とでも言おうか。
ほんとにこの作業一体なに?(笑)
で、流し読みをして最後までいったときに「ん?なんか気になった話あったよな」と思った。短編集だったのだがどれもそれなりに面白かった。
今時の本、と言ってくくっては申し訳ないけれど温度が低めに感じる。
私は貫井徳郎さんの本が好きで、それは一つの希望も見えない
徹底した暗闇と言っても黒じゃなくて灰色の世界なのだけれど
もうなんとも言えない温度の低さを感じてそれが大好きだ。
どんな低さかと言うと体感したこともないし、観たことがない人には伝わらないのだけれどアナ雪2でエルサが真実を知る場面で行きついてしまった場所の温度。氷の女王エルサをも身動きがとれず凍らせてしまうような温度。
貫井さんの本から出てる「低い温度」はこんなイメージ。
でも私が「今時」って言ってる本の温度の低さは
まあ家の中にいて暖かかったけれど日も落ちて床暖の効力も落ちて来た
夕方の家の中の「ちょっと寒いかな。ストーブつけるかな。一枚羽織るかな」ぐらいの温度だ。
だからぬるいっちゃぬるい。
だいたい主人公たちがぬるい。特に男性。
「やれって言われたからやる」人の多さ。
おーーーし!仕事するぞ!女(男)とヤるぞ!飯食うぞ!酒飲むぞ!
遊ぶぞ!みたいのがない。これって昭和の生き物なのか?
仕事・・「とりあえず」就職した会社だし、やるべきことがあるからやるか。時間内に終わらないから残業やむなし。でも35ぐらいまでには
どっかに転職するぞ
恋人・・まあ、一応いるから時々デートでもするか。たいして性欲もないけどヤらないとうるさいからヤっとくか。
ご飯・・作る気力もないし部屋の中も汚いからいきつけの飲み屋に行くか。
たいして飲みたくもないけどビールでものんどくか。
休日・・今週はどこかに行こうと思ったけど起きたら昼過ぎてたし
スマホいじってたら夕方になったし、今日は(も)このまま家にいるか。
なんかこんな主人公ばっかり。
私が読んでいるのがこんな本ばかりなのか?!
私も決して熱い女ではないし、むしろ熱い集団とかを毛嫌いしてきたので
このぬるめの男子たちを嫌いではないのだけれど
こんなんばっかりだとさすがに「もっとガツガツしようよ~」と思ってしまう。
で、そんな男がたくさん出てくる本だったのだけれど
その中に「そんなの痛いに決まってる」という話があった。
上述のようなぬるい男が主人公。妻はバリバリ働き、いつの間にか収入は越されて気づけば良いシャツや化粧品を使うようになっている。仕事が順調だからこそ妊活をしたい妻。いまの間に出産をして早々に仕事に戻りたい。だから妊活アプリを共有して「明日こうのとり飛んでる日だから」と言われる。
男はそんな妻とはヤれなくなった。仕事も厳しい。そんな中、前働いていた所の上司がどんな困難な時でも「大丈夫」と言ってくれて
実際大丈夫にしてくれる人がいたことを思い出す。
そんな元上司の性的嗜好動画が流出し会社を辞めることになったという話を聞く。
その話を聞いた主人公は自分も「自分にとっても誰でもない誰かに向かって
『うめー』『きれー』『きもちー』そして『痛い』と言いたい」ことが
わかる。元上司がそうだったように。
私がぬるいと思った男たちは本当は、思ったことを思ったように
叫びたかったらしい。でもそれができないから、色んな物で自分を囲って
「だりい・・・」という生き物になったということか?
極端すぎる笑
でも「自分にとって誰でもない誰かに叫ぶことが必要だったんだ」という文章は、とても腑に落ちる文章だった。
あ、私にもそれが必要だったと思った。