見出し画像

「犬も食わない」千早茜 尾崎世界観

同棲って言葉を知ったのは小学校4年生の時に読んだマンガの本で。
父の転勤で地方から地方に引っ越した。
引っ越した先は借家で、持ち主の都合でなかなか空かず1週間ほど河のほとりに立つホテルで過ごした。

兄弟とか親戚の子供とか友達がいれば1週間のホテル滞在も楽しいが
一人っ子で親と3人一間のホテル暮らしはなかなか退屈なものだった。
しかも田舎だったし、当時イオンとかもなかったから
映画を見に行こうとかゲームセンターで遊ぼうとかもできず
ひたすら部屋の中で河を泳ぐカモを「あ、もぐった」「あ、出て来た」と一日中眺め、それに飽きたら本を読むぐらいしかできなかった。
父は早速仕事にでかけ、母と私はテレビを見ないので
しーんとしたホテルの中、ひたすら本とカモを見て過ごした。

読む本も尽きて本屋さんで買ってもらった全6巻の「あるまいとせんめんき」(しらいしあい作)というマンガの本を読んだら
それが男女が同棲する話だった。
映画をずいぶん観ていた子供だったしその中には激しい性描写のものもあり、当時はそれほど規制もされていなかったから普通にテレビで見ていた。だからなんとなく男女がいやらしいことをすると妊娠するらしいとかその程度の知識だけはあった。
マンガは男女が同棲する話だから性的な話も豊富だし、妊娠もあり中絶もあり浮気もあり・・・男女の話盛りだくさんだった。
なんでそれを読んだのか私が選んだのか親だったのかもわからないけれど
それを読みながらわからないことを母に聞いて、しまいに性の授業みたいになったぐらいにして、なんとも成長させられたマンガだった。

同棲って憧れでもなかったし、結婚する前にすべきとかも思わないし、結婚する前に一緒に住むなんて・・・みたいな気持ちもわかないし
「なんとも思わない」。
ただ「ずるずるにならない?」とは思う。結婚がゴールじゃない場合
一緒に住みたい、あるいは一緒に住むことがゴールだとしたら手段としてはありだと思うけれど、なんとなく「ずるずる」しちゃわないかな?と思う。

で「犬も食わない」の話。
秘書の女性と肉体労働の男性。出会いは最悪。でも10ページぐらい読んだらもう同棲していた。
女性は口が悪くて、でも「バリバリの仕事人」ってわけでもない感じ。
千早さんの本を何冊か読んだけれど、千早さんの本によく出てくる女性。
何かに一生懸命になってる健気な感じは全くなくて、男性に尽くすことも
男性に尽くされることもなくて、なんか喧嘩ごしな女性。
彼のことを好きなんだとは思うけれどそれを「素直」に表せないわけでもなくて・・・なんと言ったらいいのかなあ。温度低め?
でも私なんとなくその女の人よく知ってるってか、私そんな感じかも~と思う。素直じゃないから表せないとかではなく
本当に「好き」なのか自分でもわからない。好き、な時はあったはずだけれどすぐに「嫌いじゃない」になる。そして「好きじゃない」に変わると別れる。そんな女性。
一方、尾崎世界観が書く男側。これも千早さんの小説によくでてくる
「飄々としてるダメ男」。熱くもなく仕事に一生懸命でもなくそしてダメな感じ。
そんな2人が同棲しているわけだから、将来性もないしウキウキドキドキキュン♥みたいなのもない。
いっつも喧嘩して女性はいっつも男に腹を立てている。男は「俺ってダメなんだけどさーー」って思いながら何もしないでタバコ吸っちゃう。
そして上述のように同棲してるから、なんとなく2人とも「ずるずる」過ごしている。
ねえ、同棲ってそうなるよねえと思ってしまった。
マンガを読んだときもこの話を読んだときも
私に同棲って選択肢はないなと思った。

ただ、この女性作家が女性側の視点で
男性作家が男性側の視点で書く恋愛小説は大好物である。
しかもなんか温度低めの男女の話。男はダメ男でタバコ吸い。
もろ好みである。
ってか千早ワールドにすっかりはまっているからかもしれない。


一番良かったのは本の装丁。大好きな新潮文庫なのだが
たぶんサイズが普通の文庫と違うのではないかな。なんか正方形っぽくて紙ももともと新潮文庫はそんなにパリっとしてないけれど更にくたっとしていた。持ってて苦ではない。ずっと持っていたいぐらいの本だった。

2人の気負わない男女の書き方と、本の質感がマッチしていて
読んでいたら「私おしゃれな人間になった気分!」と盛り上がってしまった。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集