(11)8日間絶食した後の食事の味は?
なぜそんなに食べてはいけないのか
手術当日から私の場合は8日間の絶食となった。MCNの手術で切除したのは膵尾部と脾臓とリンパの一部。膵臓の機能が残っているので、食事をとると膵液が出る。消化液の一種である膵液が手術の傷跡からしみだすと自分の体を消化してしまう(自己消化)。そういうことがないよう膵臓を刺激しないための絶食期間が設けられているのだった。
リハビリでお世話になった理学療法士さんから聞いた話だと、膵頭部を摘出する手術の場合は、もう少し絶食期間が短いそうだ。
直後は食欲どころではない
手術直後はボロ雑巾みたいだったと何度も書いている気がするけども、そんなわけで3日目くらいまでは食欲どころではなかった。点滴で最低限の水分と栄養が入っていることもあって、空腹感というものはない。不思議なほど、何か食べたいなどとは思わなかった。
それが5日目の夜に、餃子を食べる夢を見た。目が覚めてから振り返って、夢の中の餃子は何も味がしなかったことに思い至る。いままでも何かを食べる夢を見たことはあるが、夢の中でもちゃんと味がしたものだった。手術後、食欲を感じずに過ごしてきて、味覚が遠いものになっているようだった。
6日目、カレーの匂い
絶食中も、他の入院患者さんの食事が行き渡ると、匂いでどんなメニューなのか想像していた。今日は煮物かな。魚のおかずだな。そんなふうに淡々と推測するだけで、別につらいとか、自分も食べたいとか、そういうことは思わなかった。それが6日目の夕食にカレーが出てくつがえった。やっぱりカレーの匂いの力はすごい。うわあ美味しそう!食べたい!でも食べられない!
看護師さんに、絶食期間にカレーの匂いって、なかなかつらいものがありますねと笑って話す。そうですよねえ、と相槌を打ちながら、食が細くなっている入院患者さんがカレーの匂いで食欲がわくように工夫しているのだと説明してくださった。なるほど、カレーの匂いは人を動かすのだなと実感した。
絶食明けに食べるお粥はどんな味?
絶食明けの食事は五分粥。それに合わせて柔らかい消化のよいおかずもつく。全体的に量は半分になっている。(でも料金はたぶんそのまま…笑)
朝食のトレーを前に、やっと食べられて嬉しいという気持ちよりも、食べて大丈夫なのだろうかという恐怖心が先立つ。おそるおそる口に入れる。毎回30回噛むように数える。正直、お粥はお粥の味。特別に美味しいということはなかった。味噌汁は身体にしみわたるように美味しく感じた。
半分もしないうちに「疲れ」を感じるのに驚く。食事も内臓の運動なのだ(不随意だけど)。休んでいるうちに衰えていた。無理にならないよう、お腹に耳をすますようにして食べ終えると、額にびっしり汗。食事にもリハビリが要るんだな。いまの私の胃は、小さく、固く、弱くなっている。
食べ終えてからもしばらく心配だったけど、熱も吐き気も痛みもない。やった。まあ、ちょっと胃が張るというか、血が集まっている感じはするかな。その程度。
あとから看護師さんが「満腹になるまで食べるより、最初は腹八分のほうがいいんですよ」と教えてくださり、それ早く言ってよ~となったけど、貧乏性なものだから、結局出てきた食事はその後も一度も残すことなく食べた。
翌日の昼から五分粥が軟飯になり、その次の日から普通のご飯になった。量はずっと半量のままだったが、それで十分な満腹感だった。食べ終えて数時間してからもゲップをすると食べたものの匂いが上がってくることがあり、消化機能はまだリハビリ途上のようだった。
食事がとれると退院へのカウントダウン
ともあれ、こうやって慎重に食事を再開した結果、私は大きな合併症を引き起こすこともなく順調に回復することができた。毎日朝夕の回診で、主治医含め3人くらいの医師がやってくるが、傷をちらりと見て軽く話して「いいっすね」とあっという間に去っていく。順調ゆえの素早さなのだろうと、こちらも安心して過ごすことができた。
膵尾部切除の場合、合併症発生率は3~4割という。ネット上にある同じ病気のかたの体験談で、術後早めに食事を再開されたかたが合併症で大変な目に遭われているのを拝見したことがある。自分にも起こるかもしれないと覚悟していたから、空腹でお腹が鳴るだけで(いま膵液が分泌されたかも?)と怯えていたし、食事再開は本当に怖かった。食事がとれるようになれば、退院が見えてくる。
美味しそうだなあと羨ましがっていたカレーは、退院前日のお昼にいただくことができた。念願かなって嬉しかった!
※絶食期間については、私は医者ではないですし、これが正しいと主張するものではありません。あくまでお世話になった先生の治療方針自分の体に合っていたという体験談です。症状や病院によってさまざまな判断があるかと思います。