展覧会鑑賞:彼女はつくる-其の一
前本彰子さんの個展『花留め姫縁起』-STOP ALL WAR-
会場:コバヤシ画廊
会期:2023年4月24日ー5月6日
言葉に表せない表情の兎姫と花留め姫。顔がはっきりとした身体を持っている二人が壁面で踊れば、床から起き上がったドレスは、抜け殻ではない身体を強靭に表す。
圧倒的な造形力の「noriko」
スパイラルでの発表当時は、グループ展ゆえその姿を覆い隠される羽目にあった作品は、圧力で封印されていた眠り姫が起き上がったごとく、荘厳に満ちたドンゴロスの光り輝くドレス。
彼女の作品は彼岸と此岸が共存する観相を持ち、私個人の時を取り戻すための、トリガーを引く問いを投げかけます。
私の場合、いつもの鑑賞は作品のテクスチャーを確認したり、これも仕事と思って観察することが多いのですが、今回は久しぶりに美術作品の豊潤さを体験できたと思います。
かなりたくさんの写真を撮影させていただきましたが、作品は一見にしかず。画像では、お伝えできないのが残念です。
しかし、80年代当時の作品が破損なく残っている前本彰子さんの場合、今後まとまって見る機会を持つことができそうで、とても楽しみです。
前本彰子さんと私も含めて、80年代の現代美術では、数多くの女性作家の作品が登場しました。男性作家からは、何故若い女性作家ばかりがもてはやされ、美術館の展覧会に選抜された挙句の果てに「美術手帖」で取り上げられるのかと、ヤキモキされる方々も多かった時代です。しかし、当時発表していた女性作家の作品について、きちんとした批評はなされないままであったと、振り返ります。前本彰子さんという作家の作品と再び出会うことで、お互いにモヤモヤとしていたかつての美術業界の状況、今の状況もまた浮上してくるのです。
基本的に、私は作品の好き嫌いで感想文を書くことはありません。
今回は、全く自分には作ることのできない世界を持っている作家ゆえに、書きたくなりました。もちろん、80年代から90年代をくぐり抜けた同世代の目から見て、彼女の作品以外の事柄もまた、書き留めておく必要もあるかと思っています。
©松井智惠 2023年5月5日 筆