Chie_Matsui

本業は美術家です。絵を描いたり写真を撮ったりしながら、時おり文字を書いたりします。 日々の戯言から、活動中に書いた文章や推敲中のものなどをここに掲載していきます。 どうぞお楽しみください。 https://www.chie-matsui.com/home/

Chie_Matsui

本業は美術家です。絵を描いたり写真を撮ったりしながら、時おり文字を書いたりします。 日々の戯言から、活動中に書いた文章や推敲中のものなどをここに掲載していきます。 どうぞお楽しみください。 https://www.chie-matsui.com/home/

マガジン

  • 今日の戯言

    ふと思いをよぎることを、メモのように気楽に書いています。

  • 人生上等

    「どうして期日前にならないと、制作できないのか」 自分に甘く他人に辛くを戒めるべく、日常のさめざめを呟きます。

  • 絵の仲間とスケッチブック

    主に個展に向けて、「絵の仲間」たちの制作をしながら、呟いたりメモを書いたりします。

  • 気儘な箱入りエッセイ

    まだまだ紙媒体が盛んだった頃に短いエッセイを書いたものを読むと、あれまあ恥ずかしいことです。少し直したり変えたりして掲載しています。これからのものは、また別マガジンを発行予定ですのでどうぞお楽しみに。

  • 展覧会の扉

    noteでも自分が参加、出品している展覧会や、気になる展覧会をお知らせしようかなとマガジンを作りました。

最近の記事

時差

 ようやく夏の暑さを忘れた頃、秋の空は青色とは少し違ってはいないか? とても良いお天気でスッとした雲がところどころに水平線を描く一方で、空の青さは垂直方向へどんどんと高くなってゆく。  夏の青空は私の身体に触れんばかりの近さがあったのに、秋の空はどんどんと遠ざかってゆく。 そして冬になればもっと透き通った音の響きを奏でる天空のドームから、ちらり、ちらりと、氷砂糖か粉砂糖のような雪が待ってくるのだろうか。 大阪の街の中で、夢想する景色は、どこかで見た映像のようでもあり、全く

    • 歌を忘れたカナリア

      カナリアは今日も「一枚さん」となって歌います、忘れるまで。    西条八十が1918年(大正7年)に「赤い鳥」に寄せた日本で最初の童謡の歌詞は、「赤い鳥」専属だった成田為三作曲によって翌年楽譜と一緒に掲載された「かなりあ」という歌だった。「かなりあ」の歌はよく知られているが、歌詞を全部諳んじていないので、改めてここに書き記すことにする。   歌を忘れたカナリヤは後ろの山に捨てましょうか いえいえそれはかわいそう 歌を忘れたカナリヤは背戸の小藪に埋けましょうか いえいえそれはな

      • 一枚さん/ms.piece

        「一枚さん」ってなんだろう. 毎日晩御飯が終わって、少し経つとテレビの音が遠くなって今日のニュースの画像が視覚から消えていく。どこか意識が遠のく感じがほんの少しの時間なのか長かったのかわからない。   歴史や自然を探訪する番組が始まってまた少し目を開けてしばらくTVの画面を観る。遠い昔の出来事や、訪れることができない場所の風景が画面に映る。解説の人の言葉が時折聴こえる。 すぐそばに置いているワゴンから、紙を一枚取り出して、小さな容器に水を入れる。顔彩や色鉛筆、水彩絵の具に、パ

        • 英語に訳せない「恨む」

          今日も、おばあさんは恨みをひとしきり話していた。 夏の間は、暑いなあとか日常の雑談が多くなって、少し世間話の量が増えてきたので会話になっていた。 早くに娘を亡くしたおばあさんの悲しみは、半年くらい経った頃から、耳に入る噂話から知らなかった娘の仕事や日常で関わっていた人々や家族に、恨みの対象を見つけていくようになった。 病を持った人が亡くなると、直後は看病から死へ、そして弔いの期間の落差で気持ちを確かめることもなく、わからない時間が過ぎてゆく。しばらく経った頃、苦しかった

        マガジン

        • 今日の戯言
          61本
        • 人生上等
          60本
        • 絵の仲間とスケッチブック
          29本
        • 気儘な箱入りエッセイ
          31本
        • 展覧会の扉
          22本
        • 手紙「桃源郷通行許可証」
          10本

        記事

          タイフーン

           暑い暑いとうめいていた八月も最後の週になった。 夕方の公園では虫がちいちいと鳴いている。 小学生の頃は、新学期が始まりしばらく経つとやってきていた台風。 いつからか、七月や八月にもやってくるようになった。 先週から南の方から近づいてきた台風10号。 とても大きく九州に上陸してゆっくりと進んでいる。 昨日あたりに近畿圏に到達するかと思いきや、明日になるのか、 明後日になるのか、じわじわと空の色が変わってきた。 台風の時は、雲ではなく、空の表情がだんだんと無くなって、 白灰

          タイフーン

          東京で展覧会巡り 其の三

          夏休みは作文が長いよっ。 で、ラストです。 私は「湯浅譲二 95歳の肖像」のブックレットを手にして読んでいる。帰阪してから机の上に置いたまま、ふとページをめくってしまうのだ。演奏された曲について、作曲家湯浅譲二先生ご本人が書いた文章が記されています。 今回、なつやすみの足を進めたのは、12日の湯浅譲二先生の個展でした。東京都現美から向かった先は、豊洲シビックホール。有楽町線の駅の真上にありました。 8月7日水曜日は、室内楽を中心に、12日は合唱作品による個展。 http

          東京で展覧会巡り 其の三

          東京で展覧会巡り 其の二

          夏休みは作文が長いよッ。 オペラシティを後にして、創業100年の冷麺をお腹に入れてエネルギーチャージ後、かなり心して東京都現代美術館へ向かう。 あまりにも太陽が眩しくてヒリヒリするので、少し手前からタクシー様に乗って美術館前に横付け。これから、かなりの点数の咲く日を見て歩き回ることになるので、疲れ予防である。 企画展は「日本現代美術私観:高橋龍太郎コレクション」と「開発好明 ART IS LIFE ひとり民主主義へようこそ」 コレクション展示は「MO+コレクション:竹林の

          東京で展覧会巡り 其の二

          東京で展覧会巡り 其の一

          夏休みは、作文が長いよっ。 八月の東京の展覧会駆け回り祭りは、大阪よりも涼しいことを予想していたが早朝から早くも汗がたら〜リたら〜り。 お盆の移動も終わった列車はとても空いていて、驚く。 そうだ、いつも朝一の会議に出るお勤めの人がいないんだ。 予定よりも早く東京に到着して、まずは初台から。 オペラシティーギャラリーの開館前に並ぶ。 『高田賢三 夢をかける』9月16日(月・祝)まで開催中 この前の宇野亜喜良さんの展覧会は、不調で観にいけず悔やんだので、オペラへリベンジ。

          東京で展覧会巡り 其の一

          海も山も

          最近は、書きたいことが次から次へ浮かぶ。  絵ではなく、見聞きすることについて、きちんと論じたいと思うのだが、その何かはあまりにも種類が多く、同時に起こっているのでどこから手をつけていいのかわからないというのが実情だ。  ある時間をかけて、一つのことを為すには色々と諦めなくてはならないだろう。あるいは、大きすぎる断片を折りたたんで小さくすることも必要か。 数年前から始まった日本における「現代芸術」の受容と進化は終焉に向かう。私は何を見聞きしてきたのだろうかと、振り返ってみ

          朦朧旅行の夏

          毎年毎年、生まれて初めてのような暑い夏。 コロナの期間は、暑さよりも感染の方に気がずっと向いていて、 暑さがこわいなどと思わなかった。マスクの中に汗が溜まり、 息苦しいことが一番不快だった。 人の出も少なく、交通量もすっかり少なかった当時の夏は、 息を潜めてじっとしていることに、何も抵抗はなかった。 そんな夏の暮らしもいいかとさえ思っていた。 今年の帰省列車は、全席予約とか。 一人づつ開けた席の空間、列車も劇場も満員御礼でない世界。 私はどちらかというと、そのような贅沢

          朦朧旅行の夏

          海の日

           月曜日は、プラスチックなどの再生ゴミを出す日だ。 目が覚めると、今日はどのゴミを出さないといけないかが、頭をよぎる。 祝日でもゴミ出しと回収は、必ずきちんと行われる。年末年始を除いて。  私の住んでいるところでは、一週間に五日ゴミの回収がある。分別回収がきっちりしているので、うっかり間違った種類のものを出すと、帰宅する頃にまだ残っていて、どこか気恥ずかしい。どの日も同じ時間に回収に来てくれるとは限らないので、早めに出すのが無難だ。これから暑くなってくると、生ごみを間違えて

          夏至の間にメモ

           ここ数日で、最低気温が25度になり、真夏のような日が続いている。 朝、七時にゴミを出しに外へ出ると、まっ青に晴れた空と眩しい光で寝坊などできやしない。  夏は、戦争のドキュメンタリーやスポーツ番組が増える。 野球は、高校野球にプロ野球、大リーグのオンパレード。 他にも、パリオリンピック前の競技が増え、画面には、筋肉逞しい人間が限界に挑戦する様子が写る。  戦争のニュースは毎日続いているのだからと、先月観たジョナサン・グレイザー「関心領域」からアウシュビッツについての映

          夏至の間にメモ

          「青蓮丸西へ、その前のお話」

           風がヒューヒューという音から、ごうごうという音に、急に変わりました。「シロや、海の上の風は上からも下からも、右からも、左からも吹いてくる。お前は寒くないのかい」「私は、北の国生まれなのを、ご主人はお忘れになって。それより、お身体に触ります」。と、シロは、フカフカのお腹で、ご主人の身体を隠して温めました。  青蓮丸は、舟を操るのが、上手でしたが、寒さにはかないません。「うさぎのチョッキを、阿倍野の原っぱに、忘れてしまったよ」澄みきった海が、みるみる鈍色に変わっていきます。舟

          「青蓮丸西へ、その前のお話」

          音像2

           先日、久しぶりにフェスティバルホールの演奏会へ足を運んだ。 読売日本交響楽団が、ワーグナー、ブライス・デスナー、ウェーバー、ヒンデミットと多彩な演奏を繰り広げた。 指揮者、演奏家共に優れて今人気のある方だったのだろう、会場はほぼ満席だった。  フェスティバルホールのホームページを見ると、「天から音が降り注ぐ」とある。しかし、残念ながら改装してからのフェスティバルホールでそのような音をまだ経験したことがない。ホールは広く、演奏会場のフロアも広いので、視覚が邪魔になる。目を瞑

          はつうみ

          友人の展覧会を観に、西へ西へ。海際にある木造の倉庫は、梅雨の狭間の夏日の陽射しからホッと一息、ひんやりと心地よい。 坂を少し降りると、そこはすぐ、海。瀬戸内海だ。 地元の子供たちがあそんでいる。 簡単な装備で海に入る。 何年ぶりだろう、もしかすると、10年くらい前か? 水温は暖かく、こんなに身体が浮くのが不思議だった。長い間忘れていた感覚。波打ち際で上を向いてずっと空を見る。少し曇ってきたがちょうどいい。 波の音と遠くの舟のエンジンの音。 暑い夏がこれから始まる。こと

          日曜日

           少し蒸し暑い日曜日の夕方、ガク紫陽花の色は少し燻んでいる。  お昼間から、亡き友人のお母さんと、ビデオを見ながら5時間ほどおしゃべりをしていた。少しづつ内容は変わってきたが、最終的に繰り返されるエピソードがいくつかに絞られてきた。様々な人間との悔しい思いや怒りが含まれている。変わらないのは、娘である亡き友人の苦労の数々と、賞賛。 娘を自分より早く亡くした喪失感は、私にはわからないが、もっと生きていてほしかったという思いと悲しみは伝わってくる。 思い出話と現状への不満が交