出来事
口の中が病気の味がする。熱ないかなと思って体温計で測るも平熱だった。中途半端に丈夫な身体が憎い。市販薬を飲んで出勤。天気予報で三月上旬の暖かさと言っていたから薄着で出てきたが、もしかしてあれは明日の予報だったりする?普通に寒いんだけど。嘘吐き。
昼に職場から提供された美味しくないご飯を渋々口の中に押し込んだ。これを言うと失礼なのは百も承知だけど本当に美味しくない。因果関係は不明だが、午後から一気に体調が悪化したので帰って寝ることにした。仕事が暇で良かった。コンビニでビエネッタを奮発した。風邪を引いて弱ってるからね。
とりあえず掃除洗濯入浴は欠かせない。体調的にはかなりきついけど、やらないと落ち着かないので流れでさっさと済ませた。ひと通り終わらせて布団の中に潜った。冬の空気で冷えた布団が気持ちいい。死よりも鮮やかに素早く眠りに落ちた。そして、懐かしい人の夢を見た。少し悲しくなった。
はじめての
カオリさんの第一印象は、"こんな漫画みたいな大人が本当にいるんだ" 。
その日のカオリさんは男に浮気されたストレスで涙やら何やらでぐちゃぐちゃになって酔い潰れていたところを私に発見された。
私は興味本位で彼女に声をかけて、聴き取り不可能のうわごとをその隣で熱心に聞いてあげた。
しばらくすると彼女は今にも寝そうだったので、私は彼女を抱きかかえて家まで送ることにした。二割の善意と八割の下心で。当時の私は童貞だったから。
カオリさんは年季の入った白い角砂糖みたいなマンションの2階の角部屋に住んでいた。家に入ると、雑多だけど綺麗に整った大人の女の部屋だった。
彼女をベッドに寝かせたあたりで、私は息も絶え絶えでへとへとになっていた。勝手に蛇口から直接水をもらって一気に飲んだ。
ベッドで無様に横になる酔っ払いに目を遣る。
私は、彼女にも台所に置いてあるマグカップに水道水を注いで持っていき、肩を強く揺さぶって起こして水を飲ませた。
すると、彼女は酩酊した様子で私の頭を撫でる仕草をしてまたすぐ横になって眠ってしまった。
そして、そのまま彼女は起きなかった。
私はひどくがっかりした心持ちで、このまま酔っ払いを部屋にひとり放置して帰ってやろうと思った。
だけど、この家の鍵の始末をどうしていいか分からず帰るに帰れない。流石に開けっぱなしで出るのは悪い気がした。
それなら部屋で思い切りくつろいでやろうと思って、泥棒になったつもりで本棚を物色した。目についたリルケの詩集を手に取った。
それをひとり掛けのカウチに座って静かに読んだ。
いつの間にか私も寝てしまい朝だった。カオリさんは既に目が覚めており、部屋の中を動き回っていた。
私が起きたことに気がつくと、彼女は熱いコーヒーを淹れてくれた。何も言わずにそれを受け取り黙ってコーヒーを啜った。私はシャイだったから。
はじめて女性の家で夜を明かした。