名作探訪 その22 正統派ユーロ 『ヴァイキング』
こんにちは、ボードゲームデザイナーの山田空太といいます。
ちょっと間が空きましたが、ボードゲーム 名作探訪シリーズ その22をお届けします。
本日ご紹介するゲームは、2007年ミヒャエル・キースリング作の『ヴァイキング』です。
ボードゲーム 名作探訪 : 皆さまに是非とも遊んでほしいボードゲーム紹介のシリーズです。1990〜2015年くらいのファミリーストラテジーのゲームを中心として、100作を目指して書いております。
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作者であるミヒャエル・キースリングは、1957年生まれ、ドイツのブレーメン出身のゲームデザイナーです。
キースリングの代表作は、何と言っても2018年にSDJを受賞した『アズール』になるでしょう。シンプルで洗練されたルールと美しいタイルのコンポーネントは文句なしの受賞でした。
また、修道院でのビール醸造をテーマにしたタイル配置ゲーム『ヘブン&エール』も同じく2018年のKDJにノミネートされました。惜しくもSDJ&KDJのダブル受賞はなりませんでしたが、キースリングらしい渋味のある作品でした。
しかしそれまでは、ヴォルフガング・クラマーとの共作の方がよく知られていました。2人は90年代、00年代のユーロゲームの一翼を担った中心人物です。クラマー&キースリングと言われるように、2人のコンビは、『ティカル』『トーレス』『アサラ』といった優れたボードゲーム を次々と生み出しました。
余談ですが、クラマーとキースリングの2人は直接会うことなく、電話とファックスでやり取りをしながら共同でゲームを作っていたようです。驚きです。
さて、今日ご紹介する『ヴァイキング』は、キースリングの単独作です。発売は2007年。『ズーロレット』『テーベの東』『イスファハン』などと同年代ですね。
ドイツボードゲームの王道をゆくような手堅いゲームシステムで、キースリングらしさというものがこの『ヴァイキング』には詰まっています。
ヴァイキング / Vikings
Designer: Michael Kiesling
Artist: Volkan Baga
Publishers: AMIGO, Mayfair Games
(2007)
2-4人
好み:A
プレイ時間:30-50分
ゲームの概要
ヴァイキングの襲撃を防ぎながら、自分の島を広げて人を増やすタイル配置ゲームです。全6ラウンドにわたって、タイル&人物駒の獲得と配置を行います。各ラウンド終了後に自分の島に配置した人物駒によって、お金もしくは勝利点の決算があり、ゲーム終了時に完成した島の数と長さでボーナス点が付加されます。
ゲームシステムは、ダッチオークションでのタイル&駒の獲得と、自分のボードでの島作り&人物駒の配置という2つのフェイズに分けられた、箱庭系のゲームです。
タイル獲得 と タイル配置 が2つのフェイズに分けて行われるのが、箱庭系ゲームの基本構成です。前者で他プレイヤーとのインタラクションを生み出し、後者では他プレイヤーに邪魔されずに箱庭作りに専念できます。
*Board Game Geekより転載
https://boardgamegeek.com/image/516171/vikings
ラウンドの最初に12つの島タイル(ときにはヴァイキング船)と人物駒のセットが場に並びます。プレイヤーは順番にどれかの1つのセットを購入します。場のセットが減るにつれて、値段は安くなっていきます。いわゆるダッチオークションというもの。最初は10金と高くても、最後は無料になることもあるのですす。とは言え、安くなるまで待っていると、他プレイヤーに欲しかったタイルを買われてしまいます。
人物駒には、青(漁師)、黄(金細工職人)、緑(斥候)、赤(貴族)、黒(戦士)、灰(船員)の6種類があって、色毎にそれぞれ異なる役割があります。人物駒は、該当する列の島に置かれることで初めて役割を発揮します。
赤は勝利点を、黄はお金を、緑はその両方を生み出します。黒は同列にあるヴァイキング船を倒すことができます。ヴァイキング船を倒さないと、同列の島が機能不全になるので大切なのです。青の漁師は食料供給を担当します。ゲーム終了時に十分な数を持っていないと、食料が不足するという理由で減点されます。
そして、灰はこのゲームで最も重要で、最も高い価格が設定されています。このゲームでは、島タイルと人物駒を一緒に獲得しますが、獲得時にはその獲得したばかりの島にしか人物駒を置けません。島タイルだけを置いて、人物駒は待機状態になることが多々発生します。そこで、灰は、ラウンド終了時に、「待機状態の人物駒を島に置く」という働きをします。
ざっくり言うと、なるべく自分のボードにある島につながるように島タイルを集め、人物駒を適したタイミングで集めてボードに配置しながら、ヴァイキング船の脅威に対処します。
ゲームデザインの観点から
『ヴァイキング』の骨組は、タイル&人物駒の獲得と配置の2フェイズに分けられたオーソドックスな箱庭ゲームです。しかし、細かく見ると面白いルールが多く、工夫も盛りだくさんです。ここでは2点だけ紹介します。
①ダッチオークションであるが、価格は自動的に決定され、その価格の下がり方に一工夫ある
ダッチオークションですが、ゲームの準備の時点で、価格が自動的に決められるっていうところ、そして価格はルールに則って自動的に下がるところが良いなと思います。一種の競りなのですが、価格設定が準備に組み込まれている
③タイル獲得→タイル配置の工程の間に、ワンクッションがある
前述した灰色駒の使用による人物駒の配置がここにあたるのですが、このワンクッションがゲームの展開に幅を生んでいて、他の箱庭ゲームとの差別化があります。
年月をかけた洗練〜『アズール』との比較
前述した『アズール』は、キースリングの集大成のような感じもあるゲームです。とてもシンプルなルールだけれども、決して簡単なゲームではありません。『アズール』のようなゲーム、ゲームデザインするのって非常に難しいと思います。
『ヴァイキング』と『アズール』、実はゲームの構造はほとんど同じですが、余分なものがどんどん削ぎ落とされていき、ルールの中に自然と組み込まれていったようになっています。作者が意図したどうかはわかりませんが、『アズール』は『ヴァイキング』を長年をかけて、引き算してブラッシュアップして、出来上がった結晶のような作品だと個人的には思っています。
*Board Game Geekより転載
https://boardgamegeek.com/image/3720016/azul
例えば、どちらも箱庭ゲーム・タイル獲得→タイル配置の工程の間に、ワンクッションがあります。『ヴァイキング』は灰色駒がそれを担っているのですが、『アズール』では灰色駒をなくしても、そのルールを成立させているのです。
また、『ヴァイキング』はヴァイキング船と食料不足の2つのマイナスがあります。『アズール』も置ききれなかったタイルは全てマイナスになってしまいます。ここでも、ヴァイキング船と食料不足という2つのルールが、自然と置ききれないとマイナスという1つのルールに集約されています
まとめ
『ヴァイキング』の紹介のはずが、いつの間にか『アズール』絶賛記事のようになってしまいました。でも、『ヴァイキング』はドイツゲームらしさ、キースリングらしさが詰まった良いゲームなんじゃないかと思います。ぜひ、一度遊んでみてください。
今日のnoteは以上です。
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