【Emile】5.約束

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「なんで最後にお前とピクニックなんだよ。」
「いいだろ、最後くらい僕の後ろを歩くのも」
振り返ってヤタカは笑いました。

それから、流れる時間は止まることはなく、とうとう、巣立つ時がきたのでした。

明日になれば、彼らは黒い制服を纏い、戦場をかける兵士になるのです。オヴの首には、綺麗な赤い宝石がキラキラと輝いていました。

オヴの前でヤタカが軽快に歩いていました。オヴは長年付きまとわれ、一緒にいたものの、初めて
後ろ姿を見たかもしれない。とか考えていました。

ふと、彼との出会いを思い出したのでした。オヴの最も古い記憶。
「君にずっと会いたかったんだ。オヴ。
…僕はヤタカ。」

「明日で、十三歳だ。
今の学校を卒業して、僕らは兵士になる。」
「ヤタカは無理だろ。」
「なんでさ」
「花では殺せないんだぞ」
「確かに。でもまぁ、はなからなるつもりはないけどね。あ、はなだけに」

ヤタカがオヴを連れてきたところは、囲まれたこの世界を一望できるところ。
オヴは息を呑みました。

世界の半分が荒廃していたのです。これも女王の心が盗まれてしまったせいだったのです。
「オヴ、綺麗だろ?」
「ヤタカ」
オヴは、真剣な顔で言いました。

「私は、王を殺す。そして、女王の心を取り戻す。」
それは、オヴの決意でした。

「なら僕は、そうだな。迷子の女王を見つけてあげようかな。一人は寂しいだろうからさ」
「その必要はない。私がヤタカよりも先に、女王の心を取り戻せば家に帰れる だろ?」

「いいや、僕が先に女王を見つけるだろうね。」
「お前が女王を見つけたところで、解決しないじゃないか。」
「家に帰らなくていいよ。僕が話相手になるよ。
面白いと思うよ。僕と一緒にいるの。」

その言葉を聞いて眉間にシワを寄せているオヴを見てヤタカは微笑みました。

「じゃあ勝負しようよ。」

「負けた方が、勝った方の言うことを絶対にきく。どう?」
「わかった。」

「やった。オヴにフリフリの服着せちゃお」
「いいよ。負けないから」
「約束な」

オヴとヤタカは指切りをしました。
そして、2人は山を下っていきました。

「お別れか。君とずっと一緒にいてたら、あまりにも僕のことを否定してくるから僕は嫌いになりそうだったよ。自分のこと。」
ヤタカは苦笑いしました。

「お別れもなにも、お前がつきまとってただけだろ。」
「確かに、あはは。」
「私は好きだよ。自分のこと。お利口だし、可愛いし。」
ヤタカはそれを聞いて目を見開き、オヴの方へ振り返りました。

「オヴ。」

いつになく真剣な顔でした。

「僕をみて」

オヴを見つめるヤタカの目に
オヴは目を合わせませんでした。

「私は、お前の目が嫌いなんだ。」

顔をそらし、どこかを見つめるオヴに
ヤタカは、ははっと笑って、天井を見上げました。

「オヴ、僕のこと忘れんなよ」

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