【Emile】6.戦場
前の話はこちら↑
電車で揺られながらたどり着いた目的地は、とても息苦しいところでした。
喉の閉塞感、心臓がとても痛むのです。喉から鳩尾に吊るされた錘が、振り子のように、死の時を刻むのです。自分の呼吸の音がよく聞こえること、目の前には、醜い塊が犇めき合っていました。何人も、何人も、倒れて行きます。醜い塊を前にして、ナイフを持つ手が震えるのです。ほとんどの子どもたちはこの醜い塊との戦いに負けて、立派な大人になれずに死んでいくのです。
赤ん坊のような風貌に、鮮やかな模様。ブクブクと太った醜い塊は、覆い被さり、人の心臓をえぐり出し、そして、眼を潰したのでした。
「いつからかわからないけど、ある時から震えがなくなった。まるで女王様と一体化したような感じ。女王様がワタシで、ワタシが女王様。今はもう、なにも怖くない。」
オレンジ色の髪を高く結んだ、背の高い先輩兵士が、後ろについて歩くオヴに言いました。
「大丈夫。私たちには女王様がついてるから。」
「はい。」
「ここが君の部屋。今日はもうゆっくり休んで。明日から、正式に君は、私たちの仲間だから。何かあったら言ってね。」
そういって、オヴは鍵を受け取りました。
オヴ達は学校を卒業して、夕方ごろにこの施設に移ったのでした。その夜、オヴは夢を見ました。夢というよりも、記憶でした。
白い花畑で
胎児のように丸まった少女。
流れて、血で染まっていく花
掠れた声で絞り出す。
「ごめんね」
オヴは、夢から覚めました。 彼らが見たものはとても醜く気持ちの悪いものでした。オヴは十三歳になりました。女王から届いた小包の中に入っていた黒い制服をきて、鏡を見つめました。
身なりを整えた後に、手帳を胸ポケットに入れて、ナイフを腰に装着しました。
オヴの首には、赤い宝石が輝いていました。
オヴは、頭の中にある言葉が残っていました。夢の中で少女が言った言葉です。
「ごめんね」
オヴは復唱するように呟きました。
少女は一体何に謝っているのか、誰に対して誤っているのか、そんなことを考えながらドアノブを握りました。そして部屋を出る頃には、その夢のことなど忘れていました。
オヴが向かった先にはたくさんの兵士が集まっていました
オヴたちを歓迎する集会を終えた兵士たちは、電車に乗り、箱詰めになりながら、オヴがあの日見た、荒廃した世界を目指しました。
「うんうん。似合ってるね。制服」
昨晩オヴに鍵を渡したオレンジ色の髪色をした女性がオヴの隣に移動して話しかけてきました。
「緊張しているかい?」
「いえ。」
「学校で教わったと思うけど、奴らは女王の心臓を狙っている。それを退治するのが私たちに課せられた義務。大丈夫。習ってきたことを実践すればいい。得意だろ?君」
電車の窓から見える景色は目的地に近くなるほど、視界が悪くなってきました。
オヴは外の景色に一切目をやらず、穴の空いたナイフに、今まで共に寄り添ってきた母親の愛をはめ込み、そしてキスをしました。
彼らが見たものはとても醜く気持ちの悪いものでした。
足がすくむのです。どんなに、学校で教わったとしても実践になればちがいます。
なにと、戦っているのか、彼女らには何もわかりません。だからこそ、余計に震えるのです。得体の知れない恐怖が彼女たちを襲いました。
たくさんの子供達が戦いに敗れて倒れていきます。しかし、そんな中、先陣を切って、化け物達を殺していくオヴの姿がありました。まさにそれは兵士としての理想の姿でした。
その目は一切、温もりがありませんでした。オヴは死にかけのイドに顔を近づけて言いました。
「王はどこだ」
十三歳になったばかりの彼らの中で生き残ったのはほんの少数でした。
「こんなところで死ぬくらいなら、この先、生きていけないさ。」
誰かがその死体の山を見ては言いました。