【Emile】2.女王のなくしもの
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「ボケてきたんじゃないかな?」
お昼時、ヤタカの笑い声が食堂に響きました。数分前に、自習を終えた二人は食堂に向かいました。席に着くなり、ある噂話を耳にしたのです。
「まさか、なくした物が何かわからないなんてね。」そう、女王はとても大切なものをなくしたのです。しかし、なくなったことはわかるものの、それがなんなのか、女王本人にもわからないのだとか。
そして、その女王のなくし物を探して彷徨い、迷子になっているのだとか。そんな噂話を聞いたヤタカが、おかしくて笑い出したのです。
「もう年だろうしね。あはは。
いたっ!なんで叩くのさ。」
「失礼だぞ。」
ヤタカは、少し反省した様子で目の前のオムライスを黙って見つめて、一頻り考えたあと、少し真剣な面持ちになって口を開きました。
「でも、きっと、意外と近くにあるんじゃないかな?」
「近く?」
「そ。」
オヴは、普段の様子とは違うヤタカに気づきました。ヤタカは自分の眼鏡に手をかけて、それを頭の上持って行きました。
「頭の上とかさ。」
そういって、自分の眼鏡を頭に乗せたヤタカが、ププッと笑いだしました。
「...」
全く反省をしていない女王の息子は、その場の空気を察し、真面目な顔に戻って咳払いをしました。
「図書館で調べればわかるんじゃないかな。」
「歴史は女王と共にある。っていうでしょ。」
それを聞いて、オヴが閃いたような顔をしました。 オヴは半ば強引に、ヤタカを連れて図書館に向かいました。
「図書館。そうか」
オヴは立ち上がり、ヤタカの胸ぐらを掴みました。そして、有無を言わさず、 ヤタカを引きずりながら、食堂を出て行きました。
「女の子なのに力がつよいね、オヴ」
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穴がが空いた。
なぜなのかわからない。
なんなのかわからない。
とても虚しい気持ちになる。
とても大事なものを、なくしてしまったことだけはわかる。
なにを。
どうして今まで気づかなかったのか。
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「僕、図書館嫌いなんだ」
ヤタカは陳列された本を一瞥し、
「ここにある本は、変なのばっかだし」と、
不貞腐れていました。
「いつも私につきまとってきて、こっちは迷惑を被ってるんだ。たまには役に立ってってくれもいいんじゃないのか?」
そう言って、オヴはヤタカの額を突きました。
「仕方ないなぁ。でも探すったって、女王の大事なものを、なんでオヴが探すのさ 。」
「女王様の大事なものは、
私の大事なものだからだよ。ヤタカもそうだろ?
片っ端から探すんだ。ここには歴史の本がある。歴史は、女王の人生の記録でもある。その歴史の中から失ったものを見つければいいんだ。」
「女王の人生から失ったものか」
この図書館には、世界の全ての知識が保管されていました。まるで迷路のようにグネグネと曲がった本棚はまるで、脳のようでした。
故に、この図書館は [ 女王様の脳 ] と呼ばれています。真実の全てが、ここに並べられているのです。
「的を絞ろう。永遠と長く続く歴史の中からでは干し草の山から針を探すようなもんだよ。探している間に、学校を卒業しなくちゃいけなくなるよ。
うーん、的か...女王の歴史の中で大きく変動したのは、イドの誕生くらいだしな」と頭を悩ませているヤタカにオヴが驚いた顔で言いました。
「イドの誕生?原点じゃないか。」
「まさか、イドらが姿を表したのは最近だよ。」