アニメの話をしよう。『BanG Dream! It's MyGO!!!!! 前編 春の陽だまり、迷い猫』を見た話。
いつの間にか映画館が少し遠い場所になっていた。群馬に移住して4年になるわけだが、どうにも「映画館で映画を見る」という行為への腰が重い。パッと思い浮かぶだけでも2個くらい明確な理由がある。
第一に映画館が遠い。群馬県、とりわけ私の住む前橋市は車社会だ。国道17号に沿うような発展を経てきた前橋市において、車を持たない人間の生きづらさは尋常ではない。自家用車の所有を前提として構築された歪なこの都市で栄えるのは「車以外の手段をもってのアクセスを想定していない施設」ばかりだ。ショッピングモール、ラウンドワン、カラオケ、更には大学、果ては病院に至るまで、人の集まる施設はもれなく徒歩や自転車による来訪を勘定に入れていない。いや、徒歩や自転車での往来ならまだしも、公共交通機関を使おうものなら、相当の心労を覚悟せねばならない。車社会のリアルとして、公共交通機関が終わってる、がある。先ず定刻通りにバスがバス停にやってくることはない。当然と言えば当然だが、始発駅を定刻通りに発したバスが、市民の車でごった返す道路を予定通り走れるわけがない。従って5分、少なくとも10分の遅延は覚悟するべきだし、実際そうなる。この「バスが定刻通りに来ない」ストレスは尋常ではない。次に料金がバカ高い。ここで実際のバス運賃を開示しよう。弊学こと群馬大学は最寄り駅として前橋駅を掲げているのだが、その前橋駅から群大隣接のバス停までの運賃は448円である。確かに30分近い道程を東京に準じた運賃で乗せろ、とは言わない。しかし往復で1000円近く持っていかれるのは痛手が過ぎる。確かに、学生の大半が自家用車で通学する中で、頭数が少なく採算の見込めない非車通学勢を拾ってくれるのはありがたい。確かにありがたいが、、、。長くなったが、これらの事情から、公共交通機関を用いることがそもそも苦痛なので、延いては商業施設に行くことにやや腰が重くなっているわけだ。
そして第二に、私には「映画を映画館で見ること」にそれほどの訴求力を覚えていない。整った音響設備や映画に集中できる環境、その他もろもろを含めた映画館という場での体験に私はあまり心惹かれない。確かに、好きなコンテンツの映画であれば「ネタバレを踏む前にいち早く見よう!」なモチベーションで映画館へと足を運ぶこともある。しかし、これは映画館でのみ叶うモチベーションではなく、サブスクで同時配信されれば家の中でも十分に消化できるものだ。
これらの動機から、私にとって「映画館で映画を見る」は心身ともに遠い営みなのだ。
そんな私は先日、映画を一本見るべく映画館へと赴いた。場所は上野TOHOシネマズ。御徒町駅に近いPARCOの最上階にある映画館だ。東京で遊んでいて「まだ帰るには早いから映画を見るか」というにわかな思い付きがきっかけである。群馬を離れて訪れた東京には映画館が点在しアクセシビリティが高かったため、映画館で映画を見ることへのハードルがかなり低かった。七海の黒閃を放つハードルが一つ低い、みたいな感覚に近い。
見た映画はタイトルにもある通り『BanG Dream! It's MyGO!!!!! 前編 春の陽だまり、迷い猫』。かの有名なブシロードの肝入りコンテンツ「BanG Dream!」(通称「バンドリ」)の末っ子にあたる「MyGO!!!!!」の劇場アニメ作品である。本作は、2023年夏のテレビシリーズ放送以来かなりの話題性をもって今日まで語られてきた「MyGO!!!!!」の劇場版総集編であり、作品名に冠された「前編」の2文字から分かる通り11月公開の後編『BanG Dream! It's MyGO!!!!! 後編 うたう、僕らになれるうた&FILM LIVE』と合わせて一本のストーリーとなる構成だ。
ここでは映画の内容より「映画館無精の私が映画館に赴いてまで見た」という事実が肝要なのでストーリーは端折るが、とにかく面白かった。明確な論理は無いが、心の底から「映画館で見られてよかった」と思った。そのくらい面白かった。私は前述のテレビシリーズ版を既に視聴していたため、作品の大まかな起承転結はもちろん把握している。しかし、本作(映画)では、OVAもかくやといった新規映像(しかもアニメ版では深堀されなかったキャラのエピソード!)や大胆な編集(そのシーン切っちゃうの!?)により、既視聴勢に思い出の追体験以上の楽しさを覚えさせてくれた。ハイライトははっきりとしつつもどこか掴みきれない難解さのある「MyGO!!!!!」を、キーワード1つ1つを丁寧に拾いながら「これはこういうことなんですよ」と教えてくれる、そんな指南書のような映画だった。兎にも角にも、隅から隅までめちゃくちゃ面白かった!のだ!!
映画館は素晴らしい施設だ。映画を見ることに全身全霊をぶつけることができる。「映画館で映画を見ること」はとにかくこれに尽きると思う。2000字近く読ませて結局これかよ感は確かに否めないが、事実そうなのだから仕方ない。言葉の濁流が頭の中を埋め尽くし、すすり声を抑えて涙を流す。尻の痛みすら感じないほどの没頭は最早アスリートのゾーンだ。端から見ると神妙な顔したキモオタが口元を抑えながらスクリーンに向かって涙をさめざめと落とす奇っ怪な絵面だが、ことアニメにおいてはアスリートを名乗らせてほしい。映画館という華々しい舞台の上では、私たちはアスリートになれる。君、自宅でサブスクをザッピングするのも悪くないが、是非とも舞台に上がってみてほしいものだ。
ps. 2回目見ちゃったよ、『BanG Dream! It's MyGO!!!!! 前編 春の陽だまり、迷い猫』。
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