【祝・最終巻発売!】達人伝を追いかけて生きた10年間 その③
ついに明日8月28日に、達人伝の最終巻が発売されますね。
達人伝と自分の人生について語っていく一連の投稿も、今回で最後です。
最後までお付き合いただけると幸いです、
その① その②
22巻~32巻(2018~2022)
作品の出来事
白起が死に、王齕が死に、そして秦王が死んで戦国の世は大きく揺れ動きます。
王と優れた武人を同時期に失った秦でしたが、その国内には呂不韋の姿がありました。
彼は、大金を動かして異人をのちの秦王にする約束を取り付けることに成功し、秦に移住していました。
そして異人が次の王ということは、呂不韋と雛朱の子である嬴政(えいせい)がその次の王に...。
嬴政(後の始皇帝)
異人は、自分を秦の王位継承者にしてくれたことに恩義を感じており、呂不韋に国内の政治を取り仕切れるほどの権力を与えていました。
そして、呂不韋もその権限に不足がなく秦で手腕を振るっていました。
しかし、その秦で大事件が起きます。
秦王が死んで次の王に即位したのは、異人を養子に迎えた安国君(あんこくくん)でしたが、何と即位3日後に亡くなってしまいます。
王が連続して亡くなる。
これは秦国内を大きく揺り動かし、さらに始皇帝・嬴政の誕生を早めます。
呂不韋は、この国難を秦を改革する機会として捉えます。
今までの秦は、白起や王齕といった武人たちが活躍する戦闘至上の国でしたが、元商人であった呂不韋は、戦闘に勝つことよりも国の富を増やすことを最優先する国にしようとします。
その象徴として、軍の責任者に文武に優れた蒙驁(もうごう)を据えます。
蒙驁(秦の将軍)
蒙驁などの活躍もあってやや落ち着きを取り戻し、王の死の亀裂を埋めつつありましたが、わずかに残った隙間を、秦に抗い続けてきた者たちは見逃しません。
特に奮起したのが、荘丹たち丹の三侠と信陵君のいる魏国でした。
彼らはこの好機を逃さず、魏・趙・燕・楚・韓の五か国が信陵君の下に集い秦に対抗します。
ここに、信陵君率いる五か国連合軍と蒙驁の率いる新生秦軍が激突します。
その戦場には、自らを邦(ばん)と名乗る子供の姿がありました。
荘丹たちに「自分を戦場に連れていけ」と命令する彼こそは、のちに中国を統一する英雄、劉邦です。
丹の三侠と信陵君の他に、項燕・李牧・龐煖などの名将が、徐々に秦を攻めます。
しかし彼らの前に立ちはだかるのは、まだ天下に名を知られていなかった秦の猛者たちです。
麃公(ひょうこう)(後の秦の将軍)
王翦(おうせん)(後の秦の将軍)
桓齮(かんき)(麃公の部下)
楊端和(ようたんわ)(麃公の部下)
一進一退の攻防を繰り広げる秦と連合軍でしたが、突然秦が退却をはじめます。
それは、蒙驁のもとに緊急の退却命令が届いたからです。
その退却命令とは、安国君から王位を継いだばかりの異人が病死したというもの。
安国君の死ですら大きな動揺を生んだのに、立て続けに異人まで死んでしまった秦。
これには秦も大混乱...かと思いきや、いまだ幼い嬴政が呂不韋を差し置いて政治を仕切り、強引に混乱を収めたのです。始皇帝の片鱗が既に見えています。
しかしいくら嬴政が傑出した才能を持っていても、連続して王が亡くなり、さらに五か国連合軍に攻め入られている秦のピンチには変わりません。
そこで、秦は連合軍の中核である信陵君を排除する策を弄します。
それは「信陵君と魏国を不和にして、彼を戦場から追い出す」というもの。
若き野心家である李斯(りし)は、大金を使って「信陵君は魏王の座を奪おうと企んでいる」という偽りを魏王の周囲に吹き込みます。
それを信じて恐れをなした魏王は、軍の指揮権を信陵君から剥奪します。
李斯(秦の策略家でのちの宰相)
それだけでなく、秦を追い詰めることで満足した各国の首脳陣は、龐煖や項燕といった首脳の帰還を要請したのです。
信良君を失い、優れた将や兵を失った連合軍は勢いを失い、秦を倒す千載一遇の機を逃してしまいます。
さらに悪いことに、魏国に帰ったあとに信陵君は亡くなってしまいました。
しかし丹の三侠をはじめ、生き残った者は信陵君の思いを引き継ぎ、力を蓄え再び秦と戦う日を待ちます。
そして、再び荘丹たちに秦と戦うときが訪れます。
丹の三侠・項燕・龐煖・春申君・劉邦といった、先の戦いに参加した者に加え、李牧・廉頗・盗扇(盗跖の妹)などが加わったさらに強力な連合軍を、数々の激戦をくぐり抜け成長した龐煖が率いる「義心の連合軍」が発足します。
最強の反秦連合軍が、今度こそ秦を打ち破ろうと攻め入りますが、それを待ち受けるのは王としての風格を身につけた嬴政。
さらに蒙驁・麃公・王翦たちも健在です。
龐煖と蒙驁の軍略、項燕と麃公の武力、李牧と王翦の知力などがぶつかり合いますが、この天下分け目の一線で最大の活躍を見せるのは我らが主人公の丹の三侠です。
数十年にわたって9万里を駆け巡ってきた荘丹・無名・包丁。
彼らの磨かれた技の数々が、秦軍を追い詰めます。
達人たちがぶつかり合い、命の火花を散らす最終決戦。
10年をかけて描かれた荘丹たちの秦に抗う物語。
その結末は、ぜひ同時発売の最終巻である33・34巻で確認してください。
現実の出来事
達人伝を通して「無駄にした時間を受け入れて、それを愛おしむ姿勢」を学べた私は、本腰を入れてうつ病の療養に専念しました。
パニック発作もどうにか収まって「焦り」からではなく、本当に「再び働きたい」という気持ちをもって、就職することができました。
仕事内容は事務作業のオフィスワーカーで、比較的ゆったりとした職場です。
今では仕事や趣味にも活動的で、人並みの幸せな生活を手にすることができていると、自分では思っています。
その生活に至るまでには、様々な人のサポートがありましたが、この達人伝の制作に関わった人たちからも、サポートを受けてきたと勝手ながら感じています。
もともと、私がうつ病を発症したのは「世間で言われているような成功者にならないといけない。それが出来なければ人生に価値はない」という強力な思い込みを持っていたことが原因です。
しかし、達人伝という物語は読者に「人生の価値は誰かに決められるものではない。たとえエリートになれなくても、はみ出し者で全く構わない」という勇気を与えてくれる作品です。
達人伝は、最初から最後まで「はみ出し者(作品内では流氓)の美学」を描いてきたように思います。
この作品は、世間に馴染めない私のような読者に「ほら、こんなカッコよくて熱いはみ出し者たちがいるよ。こういう生き方もいいもんだよ」と教えてくれました。
私は「はみ出しても良い。世間で言われる正解にたどり着けなくても良い。自分の人生は素晴らしい価値のあるものだ」と、作品で活躍する登場人物を見ていて信じられるようになったのです。
達人伝を通して得た「自分の人生を自分で肯定する」ということ。
このことが、うつ病を療養するのをとても助けてくれました。
達人伝で描かれる「世間からはみ出した者たち」や「老荘思想」「無為の技」というのは、今の激しい競争社会に受けいられ難いものかもしれません。
とにかく効率や生産性を追い求める世の中では、老荘思想は出世や収入アップには役に立たないかもしれません。
しかし、この作品が描いてきたものは、今の時代についていけなくなった、あるいはついていきたくもない人たちの心を癒してくれるものです。
この時代にあえて老荘思想を取り入れたマンガを描き、世に出してくださった王欣太先生をはじめとする関係者の皆様には、私は感謝してもしきれません。
そして、私と同じく「今の時代」に生きづらさを感じて苦しんでいる人たちのもとに、この素晴らしい作品が届いてくれることを祈っています。
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