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深く潜り音楽を愛す

ディスクユニオンが好きです。

姉と一緒に住んでいる時、近くにレコード屋さんあったよ、と言われてから通うようになり、引っ越してからもそこの店舗が一番お気に入りなのでちょくちょく通っている。
品揃えは多い訳ではないのだがその心地よい狭さと店構えがたまらない。初めて行く時は入るのを躊躇うようなディープな入口だった。レトロな階段、そこに貼られたファンキーなステッカーがなんとも自分好み。そこまでサブカル色の強い街ではないのに、そこだけひっそりとカルチャーの香りを出していてその控えめなスタンスにもキュンとする。

そして何よりも、本気の音楽おじさんがたくさんいる。あの方たちは音楽が好きとか以前になんだか生活の一部のような、コンビニに足を運ぶ感覚でここに来ているように見える。前提、私にとって音楽はかなり崇高なカルチャーで奥深くまで潜るだけ潜ってやっと私は音楽が好きなんだ、と胸を張れるイメージがある。そもそもこの世に溢れる膨大な音と詞、どこまで潜っても潜ってもたどり着けない場所があるような気がする。サブスク世代なのもあり、ここまで漁ることでより深く潜れている気になれる。もはやお邪魔させてもらっていいですか、という感覚。つまりコンビニに行く感覚とは程遠いのだ。
そんな偏屈新参者もお構いなしに、おじさんたちはここで日常のように音楽を漁る。無駄なことを考えずただふらっとやってくるその姿に、居心地の良さと憧れを覚えた。まどろっこしいことを考えずにひたすらにパタパタする人たちがこんなにもたくさん。勝手に崇高なイメージを作り上げてしまっていただけだった。

そこの店舗のみならず、新宿、お茶の水、渋谷にも足を運んでみた。中でもビルごとディスクユニオンの新宿には驚いた。そしてやはりここも、全フロア音楽好きのおじさんで溢れかえっていた。最近CD集めにも手を伸ばしている私は、5階ロックCDコーナーに向かった。おじさんとロックで溢れかえる狭い空間、新参者はやはりここも「お邪魔します…」という気持ちで足を踏み入れた。私が通っている店舗より少し、新宿のおじさんはイケイケで革ジャンやロングヘアの人も見かけた。ロックです。そんな大先輩の邪魔にならないよう物色していく。

学生時代お世話になっていた親戚のおじさんが、昔バンドをやっていたこともあり、Ozzy Osbourne、Aerosmith、Gary Moore、などの名だたるアーティストを教えてくれた。ライブ行って買ったんだよねと、私の生まれた年に開催されたライブTシャツがクローゼットの奥から出てきたこともあった。今ではメルカリで20,000円台で売られているみたいだが…
中でもアルマゲドンのイメージしかなかったAerosmithのJadedはかなりお気に入りの曲になった。空山基のイラストが印象的なアルバム「Just Push Play」のジャケットが好きだったので今回はそれをお目当てに「A」の棚に向かう。棚を物色しているとおじさんに何度か見られて「小娘が一丁前に…」と思われているのだろうか…と不安になったがそんなところを気にするところではないと思い直す。割と綺麗な状態で、価格もありがたプライスでアルバムを見つけた。迷わず手に取る。空山基、強烈なピンク、飛んでいるようなAerosmithのロゴ。ついにワクワクは私の手の中に。
もっと漁りたかったが、この狭い店内で潜り続けるおじさんの邪魔をするのは流石に気が引けたので、レジへ直行。それでもこの中に私が知らない音楽がギチギチに埋まっていると思ったら、全て漁りたい気持ちは強くなってくる。もっともっと深くまで潜りたくなった。

ラフにただ純粋に、好きなものを愛せない時がたまにある。
気にせず好きでいればいいじゃん!という意見はわかるのだが、人間なのでそう簡単に変えることはできない。昨今のオタクムーブメントの影響もあり、「好き」に対するランク分けが激しくなっている気もする。いくらお金を出せば、何回現場に行けば、何年好きであれば、こんなもの醜くて仕方がないが、わかりやすい数字を出されてしまうと納得せざるを得ない。そもそも好きの度合いを数える単位がないのだから。わかりやすい基準といえばそうなのだ。

そんなことを微塵も考えず、ただ好きに酔いしれることができる人たちがあそこにはいる。オタクという言葉が生まれる前からずっとずっと潜り続け、その深さはついに私が追いつけないところまで到達している。無意識で深くあそこまで深く潜り続けたおじさんがかっこよくてしょうがない。好きのランクなんて考える自分を恥じたほうがいい。
だからその恥ずかしさが消える時まで私も無駄なことを考えず、憧れのロックスターを探しひたすらパタパタとめくるのだ。
深く潜ったおじさんのリズミカルなパタパタにはやはり劣るが、若い子娘の瞬発力もどうか甘く見ないでいただきたい。


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