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読書記録 | 推理も大立ち回りもない乱歩先生の短編小説「算盤が恋を語る話」が面白い

誰でも心の中に「マイヒーロー」というものが居るのではないかと思う。

それは現実のヒーローと、架空のヒーローの両方の形で存在することもあり、私はそのとおり両方存在する。

前者で直ぐに思い浮かぶのは、私のかねてよりの大ファンで、今年惜しまれつつプロレスリング・ノアから魔界へ帰還した「グレート・ムタ」である。

後者の方は、「病院坂の首縊りの家」の事件後、渡米して行方知れずとなった探偵「金田一耕助」、それからチャンドラーが創り出したキザでタフで格好良い探偵「フィリップ・マーロウ」、そして千変万化、神出鬼没の怪人物との知的真っ向勝負を繰り広げた江戸川乱歩先生の探偵「明智小五郎」である。

さて前置きが長くなったが、以前ふと思い立って再読したのが、江戸川乱歩作品「算盤が恋を語る話」である。


前置きに散々マイヒーローについて述べたのであるが、この話にはまったくヒーローは存在せず、乱歩先生特有の妖艶耽美な雰囲気や、華々しい立ち回りは皆無であるが、久しぶりに読むと、同先生のミステリー作品と一種毛食の異なる面白さがあった。

というより、時が経てば派手なミステリー編より無茶苦茶面白いものに感じたのである。
これも、自分自身色々な作品を通読し読書感が円熟したのではないかと思うところである。

女性に耐性のない、所謂私のような内気なモテない男性が、算盤で自分の恋を告白する短い話であるが、何と他人事ではないことか、この男性の独りごちと噛み合わなさが何とも滑稽で、少し哀しいのである。

今ではメールやLineなどの文明の利器を使えば、自分だけのユニークな愛の伝え方が出来るかもしれないが、当時は当時らしいユニークな愛の伝え方は却って斬新である。

その真心が、目当ての相手に伝わればの話しである。

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